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今年のプロ野球ドラフトで最高の成果を挙げたオリックスに必要なもの

横尾弘一野球ジャーナリスト
オリックスは1位で田嶋大樹(右)、2位で鈴木康平と即戦力投手の指名に成功した。

 無限の将来性を備えた清宮幸太郎(早稲田実高)に1位指名で7球団が競合し、福岡ソフトバンクが1位の抽選に3度外れる。今年も多くのファンを集めて実施されたプロ野球ドラフト会議では、育成を含めて114名の選手にプロの扉が開かれた。

 そして、ドラフト会議が終わると、野球評論家を含めて様々な人たちが球団ごとに指名の成果を評価する。ただ、今回指名された選手たちが厳しいプロの世界で大成できたか否か、明らかになるのは少なくとも数年後。ましてや、清宮クラスの逸材を手に入れれば成功というほどドラフトや戦力の整備は簡単なものではない。

 大切なのは、球団が現有戦力を把握した上で明確な将来像を描き、それに必要な戦力を的確に集められているかどうかだ。その角度から見れば、ここ数年のドラフトで最も成功しているのはオリックスではないか。

 1988年オフに阪急から球団を買収し、1996年には巨人を倒して日本一となったが、それ以降は日本シリーズ出場がなく、2004年オフには大阪近鉄と合併。12球団で最も日本シリーズから遠ざかっているものの、2014年には福岡ソフトバンクと激しく優勝を争うなど、決して悲観するようなチーム状況ではない。

 最近10年を振り返っても、Bクラスが続くことで監督が目まぐるしく代わり、中距離タイプに一発を求めるなど、外国人の起用法がブレるために力を発揮させられないケースは目につく。しかし、ドラフト指名した選手たちはそれなりに力をつけている。あとは、地道にコツコツと戦う福良淳一監督の手腕を信じて任せ、田口 壮二軍監督の下で若手を徹底して鍛えれば、チームは上昇気流に乗れるという印象だ。

清宮を指名しなかった勇気が奏功する

 今回のドラフトは、清宮を中心に、安田尚憲(履正社高)、中村奨成(広陵高)の高校生野手にスポットライトが当たり、特に清宮を何球団が1位指名するかが大いに注目された。だが、オリックスにとっては1年目から先発ローテーション入りが期待できる投手の獲得が最重要課題であり、ファンやメディアが作った流れに乗らず、競合を覚悟の上で田嶋大樹(JR東日本)を1位指名した勇気には拍手を送りたい。

 その田嶋の交渉権を埼玉西武との抽選で得ると、外れ1位までには消えると目されていた鈴木康平(日立製作所)を2位で確保。難病を抱えながらプレーする安達了一と競い合える遊撃手の福田周平(NTT東日本)を3位指名できた時点で、来季への見通しは立てられたと言っていい。

 4位以下では数年後を見据え、181cmの速球派右腕・本田仁海(星槎国際湘南高)、若月健矢と同い年の捕手・西村 凌(SUBARU)、バットコントロールに長けた左打ちの外野手・西浦颯人(明徳義塾高)、抜群の身体能力を備えた遊撃手・廣澤伸哉(大分商高)を指名。さらに、8位で地元・大阪出身の万能な内野手・山足達也(Honda鈴鹿)、育成ドラフトで4選手を指名し、育成・強化への直向きな姿勢を見せた。

 年齢、ポジションのバランスも取れており、先発投手陣の充実と若手・中堅野手の台頭を来季の課題に挙げた福良監督のビジョンにもマッチ。「福良監督をはじめ現場、球団フロント、一年間頑張ったスカウトの誰もが納得できる指名という点では100点満点」と牧田勝吾チーフスカウトが総括したように、来季以降に希望を抱けるドラフトだった。

 ただ、現在のプロ野球には親切に育てる時間はなく、選手の自己成長力がものを言う。教えるよりも、求めてくる選手に仕向けていくことが肝要だ。

「年長者に対する敬意や礼儀は大切。けれど、『○○さんは別格です』と他人を認めてしまったらプロでは生きていけない」

 そう語る福良監督ら指導者が、豊かな時代ゆえハングリーさに欠けると評される金の卵から、いかに闘争本能を引き出せるか。12球団ナンバーワンのドラフトの成果を生かすには、イチロー(現フロリダ・マーリンズ)が頭角を現した時のような、ギラギラしたムードを作れるかどうかがカギになるだろう。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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