星野源、飯尾和樹らも「最高」「ヤバい!」と評す“狂騒の舞い”に「喜劇役者」伊東四朗が込めた想い
8月18日に放送された『おげんさんといっしょ』(NHK総合)の第6弾で、星野源扮する「おげんさん」と、「めっちゃん」こと飯尾和樹、「ねずみ」(声:宮野真守)らの間でこんな会話がありました。
伊東四朗は、この「電線音頭」を踊った「ベンジャミン伊東」というキャラをバラエティ史上「あんなバカはいない」と語り、それが「誇り」だと胸を張っています。
そこで、拙著『売れるには理由がある』の中から、「電線音頭」について書いたものを以下に一部修正の上、再掲します。
「狂騒」の電線音頭
当時人気絶頂だったアイドル・キャンディーズが礼儀作法などを学んでいる。
そこに“乱入”してくるのが、伊東四朗扮するベンジャミン伊東率いる「電線軍団」である。まずは小松政夫がコタツの上に駆け上がる。
「わたくし、四畳半のザット・エンターテイメント・小松与太八左衛門でございます!」
そんな名調子に続きベンジャミン伊東が紹介される。感電をした後のようなボサボサの頭とダリのような口ひげ、ド派手な青いラメのジャケットに片手にムチを持っている。アングラサーカス団の団長のようなアナーキーな風貌である。
「人の迷惑顧みずやってきました電線軍団!」
ベンジャミンの口上を合図に手拍子が巻き起こる。
「チュチュンがチュン チュチュンがチュン♪」
会場中に掛け声を響かせて始まるのが「電線音頭」だ。伊東はそれに合わせコタツの上に舞台にしてハイテンションで踊っていく。やがて、「ヨイヨイヨイヨイ おっとっとっと」と、その踊りはキャンディーズやゲストにも伝播していく。
それはまさに「狂騒」と呼ぶに相応しいシュールな光景だ。さらにわけがわからないのは、数人が踊った後だ。
「はるか遠いニューギニアの火力発電所から100万ボルトの電線をひた走り只今参上!」
と「デンセンマン」なる“ヒーロー”が登場し、まったく同じ踊りを披露し、そのまま去っていくのだ。
なぜヒーローなのか、なぜニューギニアなのか、まったく意味不明。しかし「チュチュンがチュン」というフレーズが繰り返される音頭は麻薬的な快楽があった。
俳優仲間も欺いた「自分隠し」
月曜夜8時から放送していた『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』(NET→テレビ朝日系)で披露されたベンジャミン伊東こと伊東四朗による「電線音頭」は瞬く間に大ブームを巻き起こした。コタツの上で踊り狂うことから、それを子供たちがマネをしてしまうと社会問題になったほどだった。
けれど、この「電線音頭」を生み出したのは伊東四朗ではない。その前身番組である『ドカンと一発60分』で桂三枝(現・文枝)がコントの中でアドリブで歌ったものだった。これに手応えを感じたプロデューサーが、一つの独立したコーナーにすべく「電線軍団の団長になってくれ」と伊東を口説いたのだ。
伊東四朗はもともと大先輩である三波伸介と戸塚睦夫と組んだ「てんぷくトリオ」でブレイク。戸塚の病気などでそれぞれピンの活動が多くなると、『笑って!笑って!!60分』などで小松政夫との息のあったコンビネーションが評判を呼んでいた。小林信彦は彼のことを「最後の喜劇人」と呼んでいる。
そんな伊東四朗にとっても「電線音頭」はわけのわからないものだった。こんなものがウケるのか、元来“引き芸”を得意とする伊東は決して乗り気ではなかった。
だが、収録は再来週に迫っているという。追い詰められた伊東は、台本の裏に自分が想像したキャラクターを描いた。衣装やメイクを自ら提案したのだ。
それはせめてもの抵抗だった。いわば「自分隠し」だったのだ。
「あんなバカバカしいものは3、4回やればつぶれると思ってましたので、誰だかわからないように、あのコスチュームとメイクにして、名前も『ベンジャミン』としたのが真相です」(※1)
だが、「電線音頭」は前述のとおり社会現象を巻き起こすほどブレイク。やがてアポなしで実際の結婚披露宴やお寺などに乱入。大パニックを起こし、警察に「責任者はキミか?」と問われ「ハイ」と答えると始末書まで書かされたこともあるという。
「四朗ちゃん、あんた大丈夫?」
あるとき、盟友である藤田まことに呼び止められて本気で心配されたという。なぜなら、「電線音頭」を踊る伊東の眼が完全にイッってしまっていたからだ。
「ああいったものは照れてやったのでは誰も引いて観てくれない」(※1)。
そう思い振り切って演じた結果だった。喜劇役者仲間まで騙すことができたのだ。そのとき、伊東は成功を確信した。
その後、伊東は朝ドラ『おしん』で厳格な父親役を演じるなどシリアスな役柄をこなす強面俳優としても評価されていく。
けれど伊東は「あれ(ベンジャミン)をやるのもシリアスなドラマをやるのも同じ」だと語った上でベンジャミン伊東というキャラクターをこう評している。
「色んなバラエティで色んなキャラクターが出てきてますけど、あれほどバカなキャラクターはそれ以後ないと思ってますね。あんなにバカバカしいものないですもん。そういう意味では、誇りに思ってます」(※2)
「自分隠し」で作りあげたベンジャミン伊東は実は「喜劇役者」としての自分の矜持が具現化したものだったのだ。
(※以上、戸部田誠:著『売れるには理由がある』太田出版より)
(文中引用元)
※1『モーレツ!アナーキーテレビ伝説』(洋泉社)
※2 NHK総合『ゆうどき』(15年10月8日)