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女性インフルエンサーが店前で「なんか嫌」 ドタキャンして別の飲食店を予約した彼は優しい?

東龍グルメジャーナリスト
(提供:イメージマート)

店前でドタキャン

飲食店を予約して、店前まで行ったのにキャンセルした経験はありますか。

Threads(スレッズ)で、ある女性による投稿が話題になっています。

女性が、彼が予約してくれた店の前に到着。「なんか嫌。。」と述べたところ、この一言で彼が予約をキャンセルして、別の店を予約しました。この行動に対して「美味しく食べたいからね。って。優しいよな」「私めっちゃ気分屋だし感覚で動くタイプで、わがままって思われる行動だけど、私の感覚を尊重してくれる彼の心にリスペクトしかない」と思ったということです。

投稿に対しての返信や、これを取り上げた他の投稿には、女性を非難するものが目立ちます。

投稿を行ったアカウントはフォロワーが2000人近くもいて、それなりに影響力があるだけに、飲食店のキャンセルの弊害について説明していきましょう。

ドタキャンやノーショーがいけない理由

ドタキャン(直前キャンセル)やノーショー(無断キャンセル)が起きると、飲食店は損害を被ります。

来客人数を鑑みて事前に準備しますが、席に加えてコースや料理を予約しているのであれば、用意した食材や料理が無駄となります。客入りを予測してスタッフのシフトを組みますが、キャンセルがあれば、そこまでスタッフが必要なかったということになり、人件費も無駄になるのです。

ドタキャンであれば、件の事案のように、運よく直前に予約が入ったり、ウォークインの客が訪れたりすることもあるかもしれません。しかしその場合でも、同じものをオーダーしなければ、用意していた食材や料理が無駄になります。ノーショーの場合には客が遅刻する可能性も考慮して、15分から30分は様子をみるので、ドタキャンよりも売上機会を逸する確率が高いです。

キャンセルされた予約があったせいで、本来は受けられていた予約が受けられない場合もあるので、その場合には売上機会を損失してしまいます。

他の利用者にも迷惑

ドタキャンやノーショーは、飲食店だけではなく、他の利用者にも迷惑をかけます。先ほどとは逆の視点で、本来であれば、予約できたはずの人が予約できなくなるからです。

ドタキャンやノーショーがたびたび起きると、飲食店は損失分を転嫁して、より高い価格を設定しなければなりません。そうなれば、困るのは他ならぬ利用者です。つまり、ドタキャンやノーショーを行う人がいるせいで、他の人が損害の補填分を支払うことになります。

最初から訪れる気がなく、キャンセルするために飲食店を予約することは、偽計業務妨害罪となる可能性もあり、言語道断です。

ノーショーやドタキャンの理由

大手予約台帳サービスを展開するTableCheck(テーブルチェック)が実施した調査によれば、ノーショーをする理由のトップは「場所確保のためとりあえず予約」です。

飲食店の無断キャンセル被害をなくす!現状やキャンセル対策を解説/TableCheck

今事案はノーショーではなくドタキャンですが、まさに「場所確保のためとりあえず予約」となります。是正されなければならない考え方や行動であり、店前でドタキャンすることは称賛されるべきことではありません。

美談化への警鐘

ノーショーやドタキャンが起きても、運良くウォークインの客が入店し、リカバリーできることがあります。ハッピーエンドは面白い物語なので、メディアが美談として紹介することは少なくありません。

しかし、幸運に恵まれていただけの特殊な事例を美化してしまうと、「何とかなるのではないか」「大したことではない」と思われてしまいます。本当にノーショーやドタキャンで困っている飲食店の声がかき消されてしまい、問題が矮小化されるのです。

メディアはノーショーやドタキャンの背景にある問題を多少なりとも掘り下げていき、悪い行為であるとしっかり伝えていく必要があります。

ノーショーやドタキャンに対する意識の低さ

日本では飲食店の予約が契約であるという意識が低いです。

ホテルを予約して宿泊しなかったり、飛行機や新幹線のチケットを購入して乗らなかったりしても、料金は支払うものであるという認識はあります。しかし、飲食店になると、予約してコースまで注文しているにもかかわらず、何も食べていないからとキャンセル料を支払わなくてもよいと考える人がいるのです。

ノーショーやドタキャンを解決するためには、予約台帳サービスなどのITツールが重要。キャンセルポリシーに従って、ペナルティ料金を科すことができれば、状況は改善するでしょう。

しかし、これだけでは足りません。なぜならば、飲食店の予約は契約であり、ノーショーやドタキャンは非常に悪いことであると認識されなければ、ペナルティを科された客が納得できず、外食産業に対する信頼が損なわれてしまうからです。

ノーショーやドタキャンは誰の得にもならない

2018年11月1日付けで経済産業省が配信した「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」には、ノーショーが与える影響が報告されています。

No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート/経済産業省

ノーショーによる損害は、年間で約2000億円。2日前からのキャンセルも加えると、その発生率は6%強にも達し、被害額は約1.6兆円にもなると推計されています。

飲食店だけではなく、他の利用者にとっても、ノーショーやドタキャンは喜ばしいことではありません。ノーショーやドタキャンが撲滅されるまでには時間を要するかもしれませんが、まず行為を肯定する発言がなくなることを願います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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