Yahoo!ニュース

「タモンズ」が模索する「M-1」を失った芸人がお笑いを続ける方法

中西正男芸能記者
「タモンズ」の大波康平さん(左)と安部浩章さん

昨年が「M-1グランプリ」の出場資格的にラストイヤーだった漫才コンビ「タモンズ」。追い続けてきた目標を失い、ここからの芸人人生を模索した中で行きついたのがクラウドファンディングでした。「M-1」というスターへの扉が閉ざされた芸人がどう生きていくのか。一つの“実験”に取り組む大波康平さん(39)、安部浩章さん(39)が思いを語りました。

大波:去年が「M-1」のラストイヤーだったんですけど、残念ながら決勝に行くことはできませんでした。

僕らはずっと漫才をやってきたので「M-1」に100%の力を注いできました。でも、その場がもう今年からはなくなってしまう。そう考えた時に、いろいろと思うところがあったんです。

今までは言わば「M-1」優勝のために芸人をやっていたので、例えば単独ライブをするにしても、実はそこは「M-1」で使えるネタを磨く場でもあり、武器を調整する場でもあったんです。

もちろん来ていただいたお客さんに笑ってもらうことはとても大切なんですけど、正直な話、スベることも「M-1」に向けてのデータ採取の一つというか。それって、結局漫才をお客さんのためにやっていたのかな?と思ったんです。

ただ、今年からは「M-1」に出られなくなった。そこで、やっと純粋にお客さんのための漫才ができるのかなと。それが「M-1」後に思ったことの一つなんです。

そして、もう一つあるのが、僕らより先輩で「M-1」で結果が出なかった人たちはみんな辞めていくという現実です。純粋に食べていくことができなくて。

「M-1」で優勝したらもちろんですし、決勝に行ったら飯が食えるようになる。それが大きな目標としてあったんですけど、もう「M-1」に出られないということはその流れがないということです。

じゃあ、もう食えないのか。でも、辞めたくはない。「M-1」の4分の戦いでは負けたかもしれないけど、その他の勝負も漫才にはあるはずだし、そこを模索する手立てがないか。それを考えた結果、たどり着いたのがクラウドファンディングだったんです。

皆さんにお金を募って、集まったお金は単独ライブの費用、そして僕らの活動費、生活費に充てさせてもらいます。ライブに向けての生活を保つために。

これって、本来人気者がやるような方法なのかもしれませんけど、僕らくらいの知名度の人間がお金を集められたなら、それは新しい道を見出すことにもなるかもしれない。

とにかくやってみないと何も始まらないし、何も変わらない。そう思って、あらゆる勉強をして今年1月から始めたんです。

安部:もっとリアルに言うと僕らがバイトをしなくてもいいためのお金というか。バイトをやっちゃうと結局またネタを作る精度が落ちてくる。

年に3回ほど単独ライブを考えていて、その何カ月か前からライブを絡めたクラウドファンディングをする。そんなサイクルを考えています。

本当にありがたいことに、僕らは何も結果を残していないのに今のところお笑いでご飯が食べられている状態なんです。でも、ここから「M-1」にも出られないとなると、場数も減るだろうし、そうなるとバイトに費やす時間が増えるだろうし、その状況になるとネタ作りがもっと難しくなる。

その循環に入らず、なんとかこのまま前線にとどまるようなことができないか。それを考えたんです。

僕らは「M-1」を見て育った世代なので、それしかないと思ってやってきました。ただ、何を言っても負け惜しみみたいに聞こえるのかもしれませんけど、それぞれに得意な“距離”があって、僕らは短距離は向いてないというか。「M-1」の4分の戦いには向いてないという意識はあったんです。

ただ「M-1」のルールが4分である以上、その勝負をしないといけない。ラストイヤーでも決勝に行けなかった。これはもちろん悔しいんですけど、これで自由にできる。「M-1」に寄せずにやりたいことができる。そんな思いもあったんです。

でも、そこを模索するにしても生きていくために日々のお金はいる。だからこそ、この方法を考えたんです。

恐らく、単独ライブをやるのが労力的に年3回ほどだと思うんですけど、そこに向けてのネタ作りを見せるとか、いろいろなことを盛り込んだクラウドファンディングをやって臨時収入を得る。それができたらネタ作りに没頭できるなと。

大波:ここ何年かでクラウドファンディングを学んだ時に、僕が特に興味を持ったのがプロ野球の横浜DeNAベイスターズだったんです。

不躾な言い方になってしまうかもしれませんけど、決して毎年優勝争いをしているわけではないのに、なかなかチケットが取れないんです。そして、実際に球場に試合を観に行って、ベイスターズが負けていたとしても楽しんでいるファンの方も多いように感じたんです。

野球の勝ち負けだけではなく、試合もひっくるめた総合的なベイスターズの魅力というか、ベイスターズへの思いでみんなが楽しんでいる。

僕らも「M-1」でいうと常勝軍団にはなれなかったけど、何かしらこの「タモンズ」の全てを楽しんでもらう術がないものか。活動を共感して、共有して、楽しんでもらうことができないか。極端な話、ライブでネタが全スベリしたとしても、それはそれでお客さんが楽しんでくださる。そんな風に全方位的にお客さんに楽しんでもらう。そんなことができないものかと。

なので、クラウドファンディングで僕らがお渡しするリターン品は“ネタ合わせの様子を見られる権”とか“一緒にライブのタイトルを考えられる権”とか、いわば「タモンズ」のコックピットに入れるというか、一緒に作っている感覚を味わえるものが多いんです。

安部:そうすることによって、ライブをまた違う形で楽しんでもらえないかなと。

大波:もちろん「そんなこと要らない。ライブに行って面白いネタさえ見せてくれたらいい」とおっしゃる方もいます。ただ、そこまでの過程を共有する。それを楽しいと思ってくださるお客さんがいらっしゃるなら、という感じなんです。

もちろん、これはいわば“実験”なので、うまくいかないかもしれません。ビックリするほどうまくいかないかもしれません(笑)。

ただ、僕らくらいのコンビで結果が出たなら、思いを残しつつも芸人に区切りをつける。そこの選択肢に新たなものを増やすことができるんじゃないかとも考えているんです。

安部:もちろん、今でもテレビ出たいですし、ネタをしっかりと頑張ってその方向も目指す気ではいます。

ただ、リアルな話、こういうことでたくさんお金を集めたという形の注目のされ方もあるかもしれないし、本当に全方位的な実験だと思っています。

大波:もし「M-1」で優勝していないのに1000万円を集めたら「『タモンズ』って何?」ということにもなるでしょうしね。

人気がない僕らがこの形を成立させたら、それはそれで意味があると思っているんです。何回も何回も、自分で人気がないというのもナニなんですけど(笑)。

(撮影・中西正男)

■タモンズ

1982年11月14日生まれの大波康平と82年5月24日生まれの安部浩章が2006年にコンビ結成。ともに兵庫県出身で高校時代の同級生として出会う。東京NSC11期生。大宮ラクーンよしもと劇場で活動する「マヂカルラブリー」、「GAG」などが所属する「大宮セブン」のメンバーでもある。「THE MANZAI2012」、「THE MANZAI2013」で認定漫才師50組に選ばれる。3月5日に大宮ラクーンよしもと劇場で行う単独ライブに向けてその費用や今度の活動費などを求めるクラウドファンディングを「FANY Crowdfunding」で展開中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

中西正男のここだけの話~直接見たこと聞いたことだけ伝えます~

税込330円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

中西正男の最近の記事