「BTSの徴兵免除」”担当者”の次期韓国国防大臣が見解。必要条件とした「国民的共感」とは?
担当の大臣が話題を認知
通常なら12月にメンバーの入隊が始まる「BTSの徴兵」について、担当大臣からの現時点での公式見解が示された。
14日午後、ソ・ウク次期韓国国部長官(国防省大臣)が書面で見解を発表。国会の国防委員会に提出した「書面での質疑に対する回答」として示されたものだ。内容はこうだった。
「徴兵は誰もが公平でかつ均衡性をもって適用されなければならばい」
「優秀な大衆文化芸術人たちに対する兵役特例制度は、国民的共感が先行しなければならない事項として事前に十分な論議が必要」
9月に世界的に最も知名度の高い音楽ランキング「ビルボード」(米国)で韓国アーティストとして史上初の1位を獲得したことを受けての動きだ。質問内容は「兵役特例制度と防弾少年団の兵役特例に対する立場(を聞きたい)」だった。
この回答自体は韓国内では既視感のあるもの。これまで言われてきた論理を繰り返すものだ。いっぽう「担当相が話題を認知している」という点が明らかになった点においては、少しばかりの進展とも言える。ソ・ウク次期大臣は、今年の8月28日に大統領に指名され、国会での質疑を経て正式な就任を控えている状態だ。
ソ・ウク次期国防大臣。
徴兵免除のカギは”世の男性”にある
ではこの「国民的共感」とは何なのか?
徴兵免除の基本情報などはこちらの記事によく整理されています。BTSを年末に待ち受ける兵役、国会でも話題になった彼らへの兵役特典
端的にいうと「国内の男性たちの意見・世論」だ。この点に尽きる。
韓国国防省の立場からするとこの点を何より避けたいのだ。
”免除によって一般の兵役中の男性の士気に影響が出ること”
要は「不公平だ」と思われることで、一般の男性が徴兵へのモチベーションを落とすことだ。また合わせて(副次的に)「すでに徴兵を済ませた男性の不公平感」も考える必要がある。
サッカー界での前例。実際に「一般男性の士気」が重要視された事例も
これを避けるために「国家の発展に寄与する結果」という基準が設けられているジャンルがある。伝統芸能とスポーツだ。後者では五輪のメダル獲得、アジア大会優勝で免除(厳密に言うと「2週間の基礎軍事訓練に短縮」)という基準がある。
なかでも人気種目のサッカーでは今回のテーマ、「一般男性の士気」という点で顕著な例がある。
2002年ワールドカップ時にはベスト16入りで「免除」となった。自国開催だっただけに、最低限のノルマを果たしたと思われるのだ。しかしサッカーW杯での「ベスト16入り」による免除は2006年ドイツ大会限りで終了に。
理由はまさに「あまり免除を増やすと一般男性の士気に影響を与えるから」。
- 02年W杯。自国開催でのノルマとされたベスト16を超え、アジアの国としては初のベスト4入り。選手の徴兵免除にも反発はなかった。動画は「釜山日報」公式アカウント。
また政府側にとっても「新しい免除規定」を作ることは、非常にナーバスな作業だ。
じつは「ベスト16で免除」となった2002年W杯前にも、サッカー界からの要請はあったもののはっきりとは認めにくい雰囲気があった。
韓国代表は6月14日のグループリーグ最終戦でポルトガルに勝ち、ベスト16入りを決めた。試合後、スタジアムのロッカールームに当時の金大中大統領がお祝いに駆けつけた。ここでキャプテンであり、過去に負傷のために免除となったホン・ミョンボが大統領に対し、”ドサクサに紛れて”こう言ったのだ。
「徴兵を免除いただき、ありがとうございます」
その場で拍手が湧いた。ここでようやく既成事実化されたのだ。なかなか「自分たちから免除にしてください」とは積極的に言いにくい話でもあるのだ。もっとも、BTSのメンバー自身も決して「免除を願う」という発言はしていないが。
一般大衆芸能の「新基準」も重要だが……
今回のソ・ウク次期大臣の見解には「優秀な大衆文化芸術人たちに対する兵役特例制度」というくだりもある。つまりは「いかに新たな免除基準を作るのか」というポイントだ。
上記の通り、スポーツと伝統的芸術には「基準」がある。後者は「国際コンクール2位以内」。では、BTSの属する一般大衆芸能ジャンルはどうなるのか。基準が存在しないのは不公平ではないか。
サッカーでは世界的プレーヤーとなっているソン・フンミン(トッテナム/イングランド所属)が、世論(もちろん男性含む)からも支持を受け「免除を願われる」という状態になった。92年生まれだから、BTSのJINと同い年だ。
ソンには3度の機会があった。2012年大会ロンドン大会でチームは銅メダル獲得も大会前に自身は招集を辞退、16年リオデジャネイロ大会では決勝トーナメント1回戦敗退を喫した。そして3度めの正直、2018年のアジア大会で金メダルを獲得して晴れて免除となった。
BTSの場合、さらにこれをクリアしても「一般大衆芸能」枠の他グループとの均衡はどう図るのかという壁があると思われる。すでにメンバーが入隊した他グループもあり、ビルボード1位を受けての新基準設定は可能なのか。
しかし、こういった点を考え始めてもキリがないし、日本から案じてもなかなか状況は変えにくい。やはり、このテーマで注目すべきは「韓国男性の世論(幅広い年齢層)」なのだ。ここに訴え、「彼らが免除になるのは納得」という雰囲気をつくること。これがソ・ウク次期大臣の「国民的共感」の意味だ。
本稿執筆にあたり、韓国の芸能担当記者ともやりとりをした。40代後半の男性記者は「彼らは軍隊に行っても、部隊でかける音楽を編集する仕事に就くのではないか? だったらそのまま活動していければいいのに」と個人的な展望を口にしていた。