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家族を苦しめる、持続化給付金の不正受給の知られざる詐欺の実態。加害者となった息子の後悔と母親の苦悩。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

「やはり、逮捕されるのでしょうか?」

20代の息子が持続化給付金の詐欺に手を染めてしまったと話す母親は、不安そうな声で尋ねます。

今、犯罪グループに名義を貸して、不正に給付金を受給する者が後をたたず、逮捕される若者が続出しています。

そうしたなかで、家族も苦しんでいます。

この詐欺では、本来、受給資格がない者が個人事業主になりすまして、虚偽の税務申告を税務署に行い、前年度の確定申告の書類を手に入れます。そして必要書類をそろえてネット申請をすることで、持続化給付金100万円が手に入ります。

「やはり、息子さんは名義を貸してしまって、銀行口座にお金が振り込まれたのでしょうか?」

そう尋ねると「いいえ、違います。他の人を勧誘してしまったようなんです」と答えます。

不正受給を指南する者からの指示を受けて、勧誘をしていたとなると、かなり悪質な可能性もあり、もしかすると明日にも捜査の手が及ぶかもしれません。まずは息子さんには自首をするように、お母さんには勧めました。

後日、息子さん本人とお話ししました。

ことの発端は、5月初め、大阪に住む幼馴染からSNSを通じて、ある話を持ち掛けられたことでした。

「お金に困っている人を誘って、人を集めてもらえないかな?」

彼自身は当時、仕事をしており、特にお金には困っていませんでしたが、幼馴染からのお願いもあり、軽い気持ちでインスタグラムに「お金がほしい人はいますか?」というメッセージを流しました。

それに対して「はい」と答えてきた知人たちには「なんでお金がほしいのか?」との理由を聞き「e-TaxのIDを税務署に取りに行けば、お金が入るらしいよ」と幼馴染から受けた話を相手にそのまま伝えます。

その後、これに応じた人たちから、彼は「免許証のコピー」「銀行口座のコピー」をもらい、さらに「e-TaxのIDとパスワード」を教えてもらい、それを幼馴染に送信したそうです。たったこれだけで、知人らの口座に100万円が振り込まれるようになっていました。

カラクリはこうです。

犯罪グループは名義貸しをする人をまず税務署に行かせてe-TaxのIDを取得させ、そのIDを使って、名義人になりすまして虚偽の確定申告を行います。こうして前年度の確定申告書を手に入れたところで、持続化給付金の申請をネットで行う。

国税庁HP「e-Tax利用の簡便化の概要について」には、次のようにあります。

「個人納税者の方のe-Tax利用をより便利にするためのシステム改修を実施し、平成31年1月から以下の2つの方式がご利用可能となりました」

マイナンバーカード方式か、本人が税務署に赴き「ID・パスワード」を発行してもらうかのいずれかの方法で、e-Taxを利用できますが、今回のケースでは後者の方法で、e-Taxの利便性が悪用されて、持続化給付金の不正受給が行われたのです。

6月初旬から中旬にかけて、彼のメッセージを見た知人7人が不正受給をしました。

彼に尋ねました。

「君自身は、給付金をもらったのですか?」

「いいえ、自分は受け取っていません」

「では、知人を紹介すると、報酬はどのくらいもらえたのですか?」

「報酬はもらっていません」

「お金は受け取っていない?」

「はい」

無報酬でこの勧誘行為をしたというのです。

「では、なぜ、このような宣伝をインスタグラムで流したのですか?」

彼がこれを行ったのには、若者特有の「友人にお願いされれば、断れない」という事情に加えて、もうひとつの理由がありました。

それは、彼自身がマルチ商法を行っていたことです。

マルチ商法とは口コミで商品やサービスなどの情報を、知人が知人を誘うことでどんどんネズミ算式に広げていくものです。このマルチ商法の組織に入るのには、特定負担金などのまとまった金が必要になります。

「もし知人らにお金が入れば、自分の入っているマルチビジネスに誘えるかもしれないと思った」と言います。

つまり「お金を手にできる方法を教える」という恩を売ることで、別なビジネスに誘う目的があったのです。

彼自身、この他にもグループで行うFXやバイナリーなどへの投資も行っており、友人、知人たちとの関係をより重んじる傾向が強くありました。

しかし詐欺の手足となって活動した事実は消えません。

「これが、不正なことだとは思わなかったのですか?」

「はい」

これが犯罪であるとわからずに、情報を回してしまったと言います。

「いつ、これが詐欺だと気がついたのですか?」

「10月の終わり頃です」

ネット上で、不正受給で逮捕される人のニュースが盛んに流されるのを目にして、ようやく「自分はとんでもないことに手を貸してしまった」と気づいたそうです。

しかし話を聞いていくと、彼はただ単にネット上で不正受給の勧誘をしただけではありませんでした。

ここが今回の持続化給付金詐欺のポイントになる部分になります。

通常、この詐欺において、名義を貸した人は犯罪グループの上位者に対して手数料を払います。今回は「60%」で、60万円の手数料が必要でした。

「60万円は振り込みの形ですか?」

「いいえ、私が知人から直接に集めました」

「集めたお金はどうしたのですか?」

「大阪にいる幼馴染のもとに持って行きました」

 現金を全員分まとめて持って行ったそうです。

「この時の交通費などは、相手から支給されませんでしたか?」

「いいえ。もらっていません。自腹で行きました」

この詐欺で深刻なのは、不正受給の情報が人から人へと広まっていくことです。

実は、不正受給した知人が別な知人を紹介して、彼を起点にして倍以上の人たちが不正受給をしており、全員から集めたお金は800万円以上となり、8月初めに彼は電車で2時間ほどかけて大阪に持って行き、幼馴染に手渡したのです。

銀行口座を使わずに、足がつかないようにして持続化給付金の手数料を詐取する手段を使うとは、非常に巧妙な犯罪グループです。

これは振り込め詐欺でも使われる、現金を人から人へ渡していくという方法だからです。これを繰り返すことで、お金がどこに流れたかわからなくなり、闇へと消えていきます。組織的詐欺の知識をもった犯罪者が背後にいることが大いに考えられます。

さらに尋ねると、持続化給付金で逮捕されるニュースが話題になった時、「これは犯罪じゃないか」と幼馴染に話したそうです。その時、幼馴染からは「これまでのやりとりは消すように」と指示されています。

ここも問題なのですが、彼はこの言葉を真に受けて、メッセージを消してしまいました。これは、証拠隠滅です。

「罪を犯したことを隠す行為、それをしてはダメです」とはっきりと釘を刺したうえで、彼自身に自分の犯した罪に対してどう思っているのか、尋ねてみました。

「自首するつもりはあるのですか?」

「はい」

「今はどんな気持ちですか?」

「もっとしっかりと調べてから、情報をネットで伝えればよかった……」との後悔の言葉が出てきます。

「しっかりと、自首という形で自分の犯した罪と向き合ってくださいね」

「はい」

今、ネット上には様々な情報が氾濫していますが、その内容を精査せずに、知人の話だから大丈夫だろうと思い、安易に右から左に人へ伝えると、とんでもない事態に巻き込まれてしまうこともあるのです。

こうした事情を知った家族は苦しんでいます。

息子が成人となり、順調に仕事をして寮で一人暮らしを始め、安心しきっているなかでの出来事でした。

「何で、これが犯罪だと気づかなかったのか。どうして、情報を調べなかったのか」

母親は涙ぐんだような声で真情を吐露します。

さらに、名義を貸した人たちから「経済産業省に返還したいので、60万円を返してくれ」という要求が、家族のもとにきており、苦悩に追い打ちをかけています。

ネット上のひとつの情報を通じて、家族みんなの人生は一気に暗転してしまいました。誰もが犯罪者になる可能性がある。これはSNSに潜む怖さであり、闇なのです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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