日本初ドライバー向け専門デジタルラジオ放送「Amanek」がV-Lowマルチメディア放送で目指すもの
2015年10月15日、マルチメディア放送ビジネスフォーラム 情報交換部会&発表会に参加して、『V-Lowマルチメディア放送』サービスモデルのお話を聞いてきました。
V-Lowといっても、なんのことだかわからないと方もいると思いますので、少し解説しておきましょう。V-LowのVとは、VHFのVです。つまり、地デジが始まったことで停波となったVHFの電波のことです。
停波になりましたから、その電波は使われなくなったわけで、そこをどう使いましょうか?という話なわけです。V-Lowがあるわけですから、当然V-Highもあります。V-Highの代表といえば、Not TVです。そして、ここで実施されるのは、放送と通信の融合です。放送の特徴である一斉同報と、通信の特徴であるIPデータ配信を同時に行えるわけです。これがマルチメディア放送と呼称が指し示すものです。
V-Highはすでに開始していますが、V-Lowは「i-dio」という名前で、2016年3月から東京・大阪・福岡でこれから開始されます。また、放送+データ通信ですが、運営主体がエフエム東京であることからもわかるように、ラジオとデータ通信という形になります。
また、V-Highが全国が放送エリアであるのに対し、V-Lowは地方ブロック向けとなっています。つまり、放送の成り立ちから地域というものを意識したものとなっているわけです。放送は、専用デバイスもありますが、スマホ・タブレット・カーナビなどで受信可能です。
さて、放送という枠の話だけしても、リスナーにとっては基本関係がないことですから、中身の話をしましょう。ラジオですから、これまでのラジオ同様に音楽を楽しむチャンネルもあります。しかし、今回のV-Lowから提供されるチャンネルの大きな特徴とも言えるのが、車を運転するドライバー向けにテレマティクスサービスのチャンネルが用意されていることです。
それが、アマネク・テレマティクスデザインが提供する「Amanekチャンネル」です。
テレマティクスとは、車のような移動体に移動体通信を使ってサービスを提供するもの。わかりやすい事例は、通信式のカーナビです。そもそも、アマネク・テレマティクスデザインは2015年2月までホンダで、世界初のカーナビを作り、近年はインターナビを開発し、東日本大震災では通行実績情報マップを提供した今井武氏自身がファウンダー・代表取締役CEOをつとめています。
Amanekチャンネルの説明の冒頭で、今井さんがなぜアマネクを作ったのか?という始まりの話をしてくれました。
この「その時道は圏外だった」という言葉は、通行実績情報マップによる災害後の情報提供の経験を持っている今井さんが言うからこそ重みとすごみのある言葉です。
そして実は、V-Lowには防災情報を配信する「V-Alert」という仕組みを持っています。これは放送波を使って、緊急地震速報や津波速報といった緊急性の高い情報を瞬時に同時配信することを可能にしています。
アマネクが目指す世界として「安全で快適、新しいモビリティ社会」を掲げているのも、この震災時の経験とV-Lowが緊急情報に対応しているところに寄っているのです。
ただ、もちろんAmanekチャンネルはなにも防災ばかりのコンテンツではありません。GPS情報と連動した番組を配信できるため、以下のような機能や特長が準備されています。
- 常に15分先の道を見る
運転に大きな影響となる気象情報を15分先の情報として提供
- みんなで助け合う
リスナーが発見した道路状況データを共有する
- 道の駅やSA/PAという商業施設の情報
商業施設のトピックやイベントの情報を近づく車に事前に知らせる
- エリア別の情報配信
- 渋滞をたのしく
どうしても発生してしまう渋滞、その時間を楽しく過ごすことができる番組を渋滞エリアに向けて放送
- Amanek APIの公開
サードパーティによるAmanek番組生成システムを使った独自番組やサービスの提供
- 業務車両
働く車、人たちへの安全・安心・業務効率向上をサポート
- 車と連動した屋外サイネージ
道路沿い、車で行く場所のデジタルサイネージと放送の連動
これらの中でも私が特に面白いと感じたのは、渋滞をたのしくという発想です。
渋滞を渋滞だと思うから、辛いわけです。いわば渋滞をフェスみたいなものと捉えれば、意外とコンテンツ次第では、楽しく過ごせるかもしれません。渋滞のおかげで、こんな時間を過ごすことができた、お得だった、楽しかったという方向に放送が連れていってくれれば、もうそれだけでも、アマネクを受信する価値があるかもしれません。
また、Amanekチャンネルの受信には、新規のハードを追加する必要はありません。デジタルチューナーを内蔵しているカーナビであれば、すでにV-Lowに対応しているのです。そのため、2020年には自動車年間300万台が標準装備していることが見込まれています。
もちろん、これからの放送ですし、これからのコンテンツです。とはいえ、すでに車という移動する密閉空間に対して、これだけの準備がされています。1ドライバーとして、まずはその番組提供のタイミングを心待ちにしたい気持ちになった発表会でした。