【体操】よみがえった亀山耕平が見せる「世界品質」
体操の全日本種目別選手権(6月24、25日=群馬・高崎アリーナ)の予選となる男子種目別トライアルがこのほど東京体育館で行なわれ、あん馬で亀山耕平(徳洲会)がトップの15・250点をマーク。日本代表へ返り咲くための第一歩を力強く踏み出した。今後は、5月21日のNHK杯(あん馬のみ)と6月の全日本種目別選手権で、10月にカナダで開催される世界選手権の出場権獲得に挑戦する。
■世界の亀山
かつて世界一に輝いた“亀山品質”は失われていなかった。13年の世界選手権種目別あん馬で金メダルを獲得した亀山が今回の全日本選手権で見せた演技は、まさに極上だった。
つま先を天に突き刺すような倒立で観衆の視線をくぎ付けにすると、長い手足を生かした旋回でリズムを刻み、よどみない技さばきを展開。つま先まで伸びた体線の美しさは格別で、最後まで危なげない演技のまま軽やかに着地を決めた。
演技構成の難度を示すDスコアは6・4、実施の正確性や美しさを示すEスコアは8・850。DとEのバランスも素晴らしく、新ルールでは滅多に出ない15点台を出した。スタンドのどよめきが聞こえた。
「思ったより点を出してくれたのでうれしかったけど、僕自身としては7割くらいの出来」
途中でわずかにバランスを崩したときに力を使ってしまったことがマイナス要素なのだという。厳しい自己採点だ。けれども、自然と笑みがこぼれる様子には、上々の滑り出しだという手応えもにじみ出ていた。
■「カメ、やめてまうんか?」
“よみがえり”の演技だった。
昨年6月、リオデジャネイロ五輪代表最終選考会となった全日本種目別選手権。あん馬で2位と敗れて五輪切符を逃したときを区切りに、一度は競技人生に終止符を打とうと決心した。取材エリアでは涙をこぼしながら引退を表明した。
しかし、所属の米田功監督(アテネ五輪団体金メダリスト)から「カメ、やめてまうんか。もったいないやろ」と引き留められて踏みとどまった。すぐに前向きになれたわけではないが、練習を続けながら半年間を過ごし、競技人生について熟考しているうちに、「楽して過ごすことに飽きてきた。本気でやらないともったいない」と、昨年12月に現役続行を決めた。
「やるからには、東京五輪を目指し、4年スパンで計画を立てよう」
そう決めて一から見直したのが、演技構成だ。リオ五輪が近づくにつれて難度の高い構成で攻め込む選手が増えていったという流れもあり、亀山も多少の無理は覚悟で技を詰め込むようになった。だが、難度を高くすることでミスも増え、得点の振れ幅が大きくなった。
「15、16年は12割の演技構成でやっていたが、そうすることでEスコアが下がってしまい、自分の持ち味が失われていた。今年は8割くらいの構成にして、Eスコアをどれだけ高められるかという勝負をしていきたい」
亀山が世界一に躍り出た13年以降、かつてあん馬が弱点だった日本勢の中に、長谷川智将、萱和磨といった世界レベルの選手が続々と出現してきた。日本体操界に金メダルをもたらしたのと同じく、日本全体の底上げにも貢献したのも亀山の功績だ。
■「僕は一度死んだ。失うものはない」
東京五輪では、出場枠の割り当てなどの詳細はまだ決まっていないが、団体総合の人数が現行の5人から4人に減るのに伴い、個人の出場枠が増える見込みになっており、スペシャリストたちにとっては五輪出場の可能性が高まるという希望がある。
「去年のリオ五輪で最後だと思っていたので、つまり、僕は体操人生で一度死んでいるんです。そこを米田監督に救ってもらった。だから体操人生としては2回目。今は失うものがない。体操を続けることのできる環境を与えられたことに感謝しながら突き進んでいきたい」
4月11日に結婚した。良き伴侶も得て視界良好の28歳は、内村航平と同学年の内村世代でもある。
カメは万年生きる。亀山は2度生きる。