恋に落ちた瞬間のドキドキが、必ず世界を変えてゆく『BPM』
今回は80年代のパリを舞台に描いた青春映画『BPM』をご紹介します。
この映画、昨年足を運んだカンヌ映画祭で、私の周辺にいた日本人ジャーナリストたちが「この作品が最有力!」と口を揃えた作品です。結果は次点のグランプリ受賞だったのですが、審査員長のペドロ・アルモドバルは「心のパルムドール」とめちゃめちゃき押していたのだとか。個人的にも、見終わった後にめちゃめちゃアガったゲキ押しの作品です!
ということでまずはこちらをどうぞ!
物語は1989年のパリを舞台に活動する、グループ「アクトアップ パリ」の若者たちの恋と青春を描いてゆきます。
「アクトアップ」は、HIV陽性患者のためのアクティビスト集団です。1981年に発見され、そこから10年で患者数が100万人にまで激増したエイズは、同性愛者や薬物常用者、売春婦などに患者が多かったために、ひどい偏見の的になったんですね。
「アクトアップ」はそういった中で生まれた、同性愛者を中心とした実在のグループ。予防や治療を含め病気の知識を広める、無策の政府に働きかける、製薬会社に新薬の情報開示を求める……などなどいろんな活動をしているわけですが、その一方で、グループはメンバーである同性愛者たちの出会いの場でもあったんだとか。
映画はここで出会った二人、アグレッシブな活動家での美少年ショーンと、シャイな痩せマッチョ、ナタンの恋愛を中心に描いてゆくのですが、これがもう胸キュンの連続。もうめちゃめちゃキュートでスイートなんです~。
当然ながら政治的かつ社会的見方もあるのでしょうが、そういう難しい情報をほぼ知らない私がこの作品に思ったこと。それは「要するに“アクトアップ”は、”文化祭実行委員会”だな!」ってことです。
クラスやサークルで、時にケンカしながら意見を出し合い、思わぬ人(実は前から好きだった)と共同作業することになり、みんなで作ったお揃いのTシャツを着た当日のイベントは大成功、その盛り上がりの中で、どさくさまぎれにキスしてもうた!みたいなことがあったりなかったりの、あれです。
もちろんアクトアップのメンバーたちにとって、活動は当然ながら自分の命に係わるものですから、内容としては文化祭のお遊びなんかじゃありませんが、「ゲイ・パレードでチアガールやりたい!」とか「ポスターのデザインがダサすぎる!」とか、活動について話し合う週1のミーティングとか、過激な抗議行をした後にみんなでクラブで盛り上がる“打ち上げ”的な感じとか、もうもろにそんな感じ。
製薬会社に乗り込んで過激な抗議活動(ビラを巻き、“血”に似せた赤いシロップを投げつける。ただし肉体的に非暴力で、拘束に対しては非抵抗)みたいなことをやっていても、終わった後に「現場に来てたマスコミのカメラマンが、めっちゃセクシーだった!」と盛り上がったりします。
そんな中でショーンとナタンは恋に落ちます。ショーンは、その猫みたいに気まぐれな美少年ぶりや、アクティビストとしての積極的な姿勢でグループでも目立つ存在。新しくグループに参加したナタンは、当初からそんな彼が気になっています。そんなナタンが「今まさに恋に落ちた!」というその瞬間、世界がパーッ!と変わる瞬間を描いているのですが、これがもう最高にキュート!この場面だけでもこの映画を見た甲斐がある!と思えるような場面です。気まぐれなショーンに時にはねつけられても、まったく揺らがないナタンの「Mr.包容力」ぶり、画面からあふれ出る「好きで好きでたまらない」という空気感など、恋をした経験のある人ならばいちいちキューンとなるに違いありません。
この映画のタイトル「BPM」は心拍数のことで、原題は『120BPM』。人間の安静時心拍は男性で60~70BPMといいますから、120BPMって結構早いんですよね。これはダブルミーニングじゃないかと私は想像しています。ひとつは恋愛している時に、鼓動が早くなる「ドキドキ」。そしてもうひとつは「動悸」で、エイズの症状のひとつです。彼らの恋愛がただのハッピーなラブストーリーに終わらないのは、ショーンはHIVポジティブだから。
症状を悪化させ苛立つショーン、彼を支えることに生きるナタン。彼らの過去の恋愛とセックス、その悲痛と後悔が語られてゆく中で、おそらく似たような経験を共有する仲間たちとの活動――それまで「文化祭」に見えていた活動の切実が、胸にぐいぐいと迫ってきます。あらゆることが恋愛のきっかけになり燃料になる、つまり「生きること=恋愛」である青春時代だからこその悲しみに、ラストは涙が止まりません。
この映画の監督ロバン・カンピヨは、以前にも『パリ20区、僕たちのクラス』という作品で、カンヌ映画祭のパルム・ドールを獲得した人。脚本家としては昨年公開の『プラネタリウム』に参加していて、こちらも私はすごーく良かった作品です。ぜひぜひこちらも併せてごらんくださいね~。
公開中
(C)Celine Nieszawer
【関連記事】
ぞくぞく公開!粒ぞろい!カンヌ国際映画祭2017コンペティション作品
「愛と結婚」という芝居を続ける夫婦を襲った、取り返しのつかない悲しみ『ラブレス』
ヘイト・クライムで息子を殺された母親の、悲痛な「二度目」の決断『女は二度決断する』
『キャロル』の監督に聞く「映画はこのまま、無くなっちゃうのでしょうか?」『ワンダーストラック』
私の命が救われるために、家族の誰を殺すべきか?『聖なる鹿殺し』
退屈な「女の園」に転がり込んだイケメンは、「飛んで火に入る夏の虫」『ビガイルド/欲望の目ざめ』
奇跡の映像だらけ!地上版『ゼロ・グラビティ』が問う、ヨーロッパの難民問題『ジュピターズ・ムーン』