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結びの照ノ富士 - 若元春戦で行司がまさかのミス、コロナの猛威も――名古屋場所は大荒れ、混戦に

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
照ノ富士がまわし待ったをかけた行司を見つめる(写真:日刊スポーツ/アフロ)

中日を終えた大相撲名古屋場所。肩を痛めた隆の勝と新型コロナウイルス感染でカド番大関・御嶽海ら出羽海部屋の力士が七日目から休場、また、新十両・欧勝馬もコロナ陽性と、残念なニュースがあった。さらには中日八日目、結びの照ノ富士 - 若元春戦では珍事が発生。現在トップは2敗の力士たち7名で、今場所も混戦が予想される。

若元春が照ノ富士に初挑戦、注目の結びで珍事

5勝2敗の照ノ富士は、中日結びの一番で前頭4枚目の若元春の初挑戦を受けた。春場所で初優勝した若隆景の兄としても知られる若元春。星は4勝3敗ながら、初の大関戦で正代を下しており、かなり地力をつけてきた力士だ。今場所注目力士の一人と言っても過言ではないだろう。そもそも注目の結びであったが、まさかの事態に別の意味で注目を集めることになるとは、取組前には知る由もなかった。

[映像]【中日の一番!】横綱・照ノ富士-前4・若元春(スポーツナビ「日本相撲協会」)

立ち合い。若元春は思い切って横綱に向かっていった。両者組み合い、長い相撲になる。照ノ富士の左上手は一枚まわしだ。2分を超える大熱戦。徐々に両者の上体が起きてくる。そして、行司が正面側に回ったとき、珍事は起きた。

若元春が攻め始めたときに、行司が「まわし待った」をかけたのだ。まわし待ったとは、どちらかのまわしが緩んだ際、本来両力士の動きが止まっているときにかけられるもの。しかし、若元春が攻めているときに声をかけてしまったため、いったんは若元春が横綱を寄り切って勝負がついてしまったように見えた。

しかし、これにはやはり「物言い」。長い協議の末、まわし待ったがかかった際の体勢から取り直しということになった。審判部がビデオ室とやり取りをしてその体勢に戻ったが、再開された取組は横綱がまわしをしっかりつかんで下手投げ。あっさりと勝敗が決まってしまった。

今回の珍事には、さまざまな意見があるだろう。筆者の考えをいえば、まずはまわし待ったのタイミングを間違えた行司のミスであると思う。正直、声をかけるタイミングはもう少し前にあったはずだ。おそらく寄り切って勝ったと思ったであろう若元春はそれだけでかわいそうだったし、いくらあの体勢に戻ったからといって、最初の勢いがない若元春にとっては不利だった。さらに、寄り切られた横綱も、行司の声があったから力を抜いたのは、どう見ても明らかだった。寄り切られた直後、すぐに行司に向かって何か指摘している。取り直しになったのは、横綱にとっては救いだったが、あの状況でそのまま負けになっていたら本当に不憫であった。

もちろん、人間だから誰にでも間違いはある。どんなプロフェッショナルにでも、だ。しかし、ただでさえ大熱戦で疲労困憊の両者には、勝敗に関係なく労いの心で気持ちよく賞賛を送りたかったにもかかわらず、そこにわだかまりを作って水を差してしまった行司の責任は大きい。力士と同じ土俵上で動いてジャッジをする以上、もしかしたら行司にもある程度の体力・動体視力等の基準を設けることも必要になってくるのかもしれない。協会が今回の事態をどう受け止め、再発防止に向けて動いていくのか、その動向も追っていきたい。

コロナの影響も懸念

結びの珍事もさることながら、コロナの猛威も名古屋を襲っている。場所前の田子ノ浦部屋に続き、出羽海部屋でも感染者が出て、大関・御嶽海らが休場、さらには新十両の欧勝馬がコロナ陽性になり、鳴戸部屋の力士たちも休場になってしまったのだ。東京都内でも新規感染者数が6日連続で1万人を超えたという。

こればかりは致し方ないのだが、今場所はコロナによる影響がこれ以上広がらないことを祈りたい。無事に後半戦を乗り切れますように――。

琴ノ若がトップの逸ノ城を撃破、優勝の行方は?

中日を迎え、1敗は逸ノ城、追う2敗の力士は横綱・照ノ富士ら7名に上っていた。単独トップ、注目の逸ノ城はその2敗勢の一人、琴ノ若と対戦。初日に正代、2日目に御嶽海と大関を撃破してきた琴ノ若は、逸ノ城にも思い切って向かっていった。

琴ノ若は立ち合い、手を出しながら当たると、右に動いて右上手を取り、そのまま堂々の寄り切り。大きな逸ノ城に対し、いい相撲で2敗を守った。逸ノ城が敗れたことで1敗力士がいなくなり、トップは2敗の力士たちとなった。

2敗の力士たちの相撲を少し振り返ると、新入幕の錦富士は、千代翔馬と対戦。立ち合いでは相手の立ち合い変化にも冷静に対応し、右の上手を引く。しっかりと引きつけて体を入れ替え、腰を落として寄り切った。体がよく動いていた。一山本は、千代大龍を相手に、立ち合いから一気に出ていき押し出しで勝利。翔猿は、琴恵光に強烈な蹴返しを決めた。錦木は、攻めてくる琴勝峰に対し、土俵際逆転の小手投げで2敗をキープした。

序盤戦こそ逸ノ城の勢いが恐ろしいほどであったが、中日を折り返してまた多くの力士にチャンスが巡ってきた。今回も「終わってみれば照ノ富士」になるのか、それとも新たな星が輝きを放つのか。暑さ増す、荒れる名古屋場所は、今日から後半戦に突入する。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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