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憲法理解できぬ安倍首相に改憲語る資格なし―追及されるべき発言や政策の数々

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
安保法制の「採決」に憤る国会前デモ参加者らー2015年9月撮影

安倍晋三首相は、今月3日の憲法記念日に、日本会議などの改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と強い意欲を示した。9条1項と2項を維持しつつ、自衛隊を合憲な存在として明文化すること、大学などの高等教育の無償化など、改憲への反発を軽減しようと言う意図が感じられるメッセージではあったが、安倍政権のこれまでの言動や自民党の改憲草案から考えて、安倍首相が憲法を語ること自体がおこがましい。

〇盗人猛々しい安倍ビデオメッセージ

ビデオメッセージの中で安倍首相は、憲法9条の1項と2項を残した上で、自衛隊を合憲な存在だとするべきだと主張している。

私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。

出典:安倍首相のビデオメッセージ

この際、はっきり言わせてもらおう。自衛隊に憲法違反の任務を押し付けながら、何を言うか。安倍政権が定められた手続きを経ず、議事録も改ざんしてまで「採決した」としている安保法制(関連記事)は、自国が攻撃されていなくても、米国などの同盟国が攻撃された場合に、日本も助太刀で戦闘に参加するという集団的自衛権の行使を定めている。この集団的自衛権については、憲法学者らのほとんど全員が、そして歴代の自民党政権が、憲法違反としてきたものだ。この安保法制により、他国の戦争に参戦させられ、支援させられるのは、自衛隊である。南スーダンでのPKO活動への自衛隊派遣においても、安保法制に基づき、安倍政権は「駆けつけ警護」の新任務を自衛隊に押し付けた。自衛隊が攻撃されていないのに他国の部隊がいる場所に駆けつけ応戦すれば、憲法が禁止する武力行使になることは明白であるにもかかわらずである。奇しくも今年の憲法記念日に急逝した、元陸上自衛隊員で、平和活動家の泥憲和さんは、安保法制の強行採決真際の2015年9月、国会前で「遠い遠い外国で人殺しするために自衛隊に入った人なんていませんよ」と訴えた(関連情報)。安倍首相が自衛隊と憲法を語るなど、盗っ人猛々しい。

安倍首相は自衛隊のみならず、「憲法において国の未来の姿を議論する際、教育は極めて重要なテーマ」だとして、大学などの高等教育の無償化を改憲の口実にしたが、民主党政権時の公立高校無償化に「バラマキ」と猛反対したのが自民党ではないか。そもそも、教育の無償化に憲法を変える必要はなく、無償化のための法律をつくれば済むことである。教育無償化をエサに改憲への支持を集めようなど、姑息なこと甚だしい。

〇自民党改憲草案を語らない不誠実

ビデオメッセージの中で、安倍首相は比較的無難なことのみ語り、自身の改憲のビジョンについては多くを語っていない。だが、筆者がこれまで幾度も指摘してきたように、自民党の改憲草案は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という現在の憲法の三大原則を捨て、個人を国家権力に従わせるというものだ。自民党の憲法「改正」案の問題部分や関連文書を、わかりやすく意訳すると以下のようになる。

「基本的人権?当たり前にあると思うな」*自民党憲法改正Q&A

「拷問は一応控えるけど、絶対じゃない」*自民党改憲草案36条

「表現の自由はある。国の都合次第だけど」*自民党改憲草案21条

「国民の平和に生きる権利は削除」 *憲法前文の変更

「非常事態宣言で内閣の好き勝手に法律をつくる」*自民党改憲草案98条、99条

「我々のつくった憲法に従え」*自民党改憲草案102条

詳細https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20130720-00026574/

安倍首相が、改憲を目指すのであれば、自民党の改憲草案通りにするのか否か、きちんと説明するべきだ。高等教育の無償化など美味しい話だけで釣って、自民党改憲草案の内容を語らないのであれば、人々を欺くことになる。

〇憲法軽視の言動の数々

安倍政権の面々が基本的に憲法というものを理解しておらず、自民党改憲草案のようなかたちで改憲された場合、非常に強権的な振る舞いをするだろうことは、これまでの言動からもうかがい知れることだ。安保法制や南スーダンへの自衛隊派遣以外にも、例えば、以下の様な事例は看過できないことだろう。

  • 安倍首相は2014年2月3日の衆院予算委員会で「憲法について、考え方の一つとして、いわば国家権力を縛るものだという考え方はありますが、しかし、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方」と答弁。同様の発言は、2013年4月5日の衆院予算委員会など、幾度かしている。近現代憲法の原則である立憲主義を軽んじる発言は、政府の都合で個人の人権を制限する傾向が強い自民党改憲草案にも通じる。
  • 安倍首相は2014年4月1日、武器輸出三原則を撤廃。武器の輸出を原則禁止から原則推進へと180度転換させた。武器輸出三原則は憲法の理念に基づくもので、衆参両院で議決されたもの。それを閣議決定だけで廃止してしまった。米国とのF35共同開発への日本企業支援の他、戦争犯罪を繰り返すイスラエルとの軍用無人の共同研究も行うとされている。
  • 2015年2月7日、シリアでの取材を計画していたフリーカメラマンの杉本祐一さんが、外務省にパスポートを強制返納させられた。この決定は、杉田和博官房副長官の意向によるものだった。ジャーナリズム関係者の旅券強制返納は戦後初。杉本さんは憲法で保障・尊重される「表現の自由」「取材の自由」、「海外渡航の自由」の侵害だとして、処分取り消しの行政訴訟で係争中。
  • 高市早苗総務大臣は、2016年2月8日の衆院予算委員会で、「テレビ局などの放送事業者が『政治的に公平ではない放送』を繰り返すならば電波を停止することもあり得る」との見解を示した。菅義偉官房長官や安倍首相もこれを支持。だが放送法4条はあくまで報道機関の自主的な倫理規定であり、報道機関への介入に使うべきではない。高市総務相の国会答弁は憲法で保障された「報道の自由」に抵触する発言だ。
  • 高村正彦・自民党副総裁は、2016年4月3日、NHKの討論番組で自民党改憲草案での「公益及び公の秩序」による人権の制限について、現在の日本国憲法の「公共の福祉」と同じとの趣旨で発言。だが、「公共の福祉」とは、個人の人権と別の個人の人権が衝突する際の調整機能だ。これに対し、「公益及び公の秩序」とは、国家の都合のため、個人の人権を抑圧することができる、という全体主義的なものである。高村副総裁の発言は、本来正反対のものを「同じ」だと嘯いたか、或いは憲法を全く理解していないか、どちらかであるということだ。
  • 2016年5月16日、衆院予算委員会で、安倍首相は「私は立法府の長であります」と発言。実際には「行政府の長」であるが、安倍首相はこの時だけでなく、幾度も「立法府の長」と発言している。安倍首相は、中学生が公民など授業で習う「三権分立」を理解していない可能性が高い。

〇安倍首相は一から憲法を勉強しなおすべき

総理大臣はじめ、国会議員やその他の公務員は、憲法を尊重し擁護する義務があると、日本国憲法99条に定められているが、安倍政権の政策や言動は、この99条に反するものだ。国の最高法規たる憲法を理解してない、あるいは尊重・擁護する義務を守らない安倍首相に、憲法を語る資格はない。むしろ、一旦、議員バッジを外し、一から勉強しなおすべきなのである。これまでの日本の政治であれば、ここまで問題だらけの言動を繰り返している首相は辞職させられたはず。メディアも政権に対し臆したり、媚びたりするのではなく、安倍政権の憲法に関する言動に対し徹底的な追及をしていくべきだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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