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米国初 奴隷の子孫に賠償金、取締役会にマイノリティーを 加州で「制度的人種差別」解決に向けた法案成立

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「制度的人種差別」解決に向けた法案に署名したカリフォルニア州のニューサム知事。(写真:ロイター/アフロ)

 ジョージ・フロイド事件では、アメリカに「制度的人種差別」という問題があることが浮き彫りにされた。「制度的人種差別」とは、マイノリティーの人々が、マイノリティーであるという理由で、教育の場や職場、司法の場など社会の様々な場で差別されていることを指す。

 そんな「制度的人種差別」問題の解決に繋がる、米国では初めての画期的な2つの法案が、9月30日、カリフォルニア州で成立した。

奴隷の子孫に賠償金を

 1つは、奴隷の子孫たちに対して賠償金受け取りの道を開いたといっていい、まさに歴史的な法案。9人からなるタスクフォースが、奴隷制が黒人に与えたインパクトを研究し、議会に、どんな種類の賠償金を誰にどんな形で与えるかをレコメンドするというものだ。

 ニューサム知事は、法案成立の背景として、奴隷制が現在の制度的人種差別に繋がったアメリカの負の歴史に言及した。

 「我々は、一人一人が成功する機会を得た時だけ、本当の意味で成功することができる。奴隷制という痛々しい歴史は構造的な人種差別へと進化し、偏見は民主制度や経済制度に浸透した」

取締役会にマイノリティーを

 また、ニューサム知事は、州の625の上場企業は「過小評価コミュニティー」からも取締役を任命しなければならないとする法案にも署名。

 「過小評価コミュニティー」とは、黒人、ラテン系アメリカ人、ネイティブ・アメリカン、アジア系アメリカ人、パシフィック・アイランダー(太平洋諸島の住民)、ハワイ先住民、アラスカ先住民などの人種的マイノリティーやゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的マイノリティーのこと。アメリカでは初めて、取締役会に人種や性的オリエンテーションの点で多様性を取り入れた画期的法律と言える。

 この法律は、2021年12月31日までに、カリフォルニア州の上場企業は、最低1名の取締役を「過小評価コミュニティー」から任命し、2022年までには、4〜9名の取締役会がある企業は最低2名、9名以上の取締役会がある企業は最低3名の取締役を「過小評価コミュニティー」から任命しなければならないと命じている。従わない場合は、罰金を課されることとなる。

 法案成立の背景には、アメリカの企業では取締役会が多様化されていないという現状がある。USA Today紙の調べでは、7月15日時点で、S&P100に属する50の大企業の279人の取締役中、黒人はたったの5名で、うち、2名は最近引退したという。CEOやCFOなど企業のトップ5の取締役はほとんどが白人なのだ。

 また、2018年のデロイト&ザ・アライアンスのデータによると、フォーチュン500企業の全取締役のうち8.6%が黒人、3.8%がラテン系、3.7%がアジア系やパシフィック・アイランダー系で、84%が白人だ。84%という白人取締役の割合は、白人の全人口における割合より22%高いという。

 また、カリフォルニア州では、居住者の39%がラテン系アメリカ人であるものの、同州の上場企業の87%にラテン系アメリカ人の取締役がいないという問題もあった。

 ところで同州は、2018年、同州に本社を置く上場企業は、2019年12月31日までに、取締役会に女性を最低1名は入れることを取り決めた法律を成立させている。その結果、取締役が全員男性である企業は29%から4%に減少した。しかし、女性の取締役が増加したものの、その78%が白人、マイノリティーの女性はあまり取締役に任命されていない状況もあった。その意味では、新たな法律で、今後、マイノリティーの女性取締役が増える可能性がある。

 「制度的人種差別」解決に繋がる法律だが、反対の声もあがっている。

 保守系団体がマイノリティーの人数を割り当てたこの法律は合衆国憲法の平等保護条項に違反すると主張しており、訴訟になる可能性も指摘されている。

 また、企業は株主に利益をもたらさなければならないことから、多様性ではなく能力をベースに取締役を任命するよう機能すべきであり、州は企業の選択に介入する権利はないと訴える声もある。

 しかし、2018年のボストン・コンサルティング・グループの調査によると、多様性のあるリーダーからなるチームは企業利益やイノベーションを向上させる効果があるという。その意味では、カリフォルニア州で成立した法律で取締役会が多様化し、今後、企業の業績が上がるのかが注目されるところだ。

 他州のお手本になりうる2つの法律が、「制度的人種差別」をどう解決していくか、注目したい。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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