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ワインのない国からの挑戦!ソムリエとなった難民で黒人の男たちが白人上位のテイスティング世界大会へ

水上賢治映画ライター
「チーム・ジンバブエのソムリエたち」より

 ワインの生産はもとより消費もほとんどないジンバブエ共和国出身の4人のソムリエが「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に初参戦。23カ国の一流ソムリエたちと相対する!

一瞬、フィクション?と思いきや実話という、このチャレンジを密着取材しているのがドキュメンタリー映画「チーム・ジンバブエのソムリエたち」だ。

 手掛けたのは「世界一美しいボルドーの秘密」が世界的な評価を受けたオーストラリアのフィルムメーカー、ワーウィック・ロスとロバート・コー。

 再びユニークなワインの旅へと誘ってくれる二人に話を訊く。(全四回)

ジンバブエ出身の4人のソムリエとの出会い

 前回(第一回はこちら)、「世界一美しいボルドーの秘密」の次作として「ワインの世界に身を置く人の人生がみえてくる、その人の物語を語るような作品ができないかと考えていました」と二人。

 そこから、どのようにして今回のジンバブエ出身の4人のソムリエに出会うことになったのだろうか?

ロス「まず、僕たちはフィルムメイカーなので、これはワインに限らず、どの業界でもいいのだけれど、語られるべきストーリーを常に探しています。

 自分たちが語ってみたい、これは人々に届けるべきものではないかというストーリーを探している。

 そして、そのストーリーというのはやはり人ありきのところがあって。

 人々の心を震わせるようなすばらしいストーリーをもっている人物との出会いをいつも待っているし、自分たち自身もいろいろなところにアンテナを張ってキャッチしようとしています」

ワーウィック・ロス監督
ワーウィック・ロス監督

コー「そこで僕らの心に響いてきたのが今回のジンバブエ出身で難民として南アフリカに渡り、ソムリエとなった4人の話でした。

 彼らの存在を教えてくれたのは、今回の作品にも出ている世界で最も影響力のあるワインジャーナリストのひとり、ジャンシス・ロビンソン。

 彼女は前作『世界一美しいボルドーの秘密』にも出演してくれています。

 で、彼女にお願いしていたんです。『なにかワイン業界のことでおもしろいことが起きたらすぐに教えてください』と。

 そうしたら、『世界一美しいボルドーの秘密』での取材から5年後ぐらいに、連絡をくれたんです。『あなたたちの次の映画の題材を見つけたわよ』と。

 それで、詳しく話を訊くと、南アフリカにジンバブエ出身の腕利きのソムリエがいると。

 しかも彼らはチームを組んで、これから『世界ブラインドワインテイスティング選手権』に出場しようとしていると教えてくれたんです。

 聞いた瞬間に僕は『これはおもしろい』と思いました。

 ジャンシスも『すぐに取材した方がいい』と言って、もう世界トップのワイン評論家がそういうわけですから、これは連絡をとらないわけにはいかない。

 それですぐにオンラインで彼らと話したのですが、それぞれ人に好かれる性格で個性的。その人間性に魅力をまず感じました。

 さらに話を続けると、彼らの背負っている歴史や過去、母国のジンバブエを捨てて南アフリカへ渡った経緯、南アフリカでどのようにしてソムリエになったかなと、ほんとうに想像できない苦難を経て、いまここに立っている。この人生は語られるべきものと思いました」

ロバート・コー監督
ロバート・コー監督

まさに探していたストーリーが見つかった!

ロス「まさに探していたストーリーが見つかった気持ちでしたね。

 話した通り、僕らはワインをテーマに次に作品を作るとしたら、パーソナルなストーリーというものを求めていた。

 彼らのストーリーというのはまさに求めていた、いや求めていた以上の想像もできないものだった。

 また、『ワイン真空地帯』といっていいジンバブエ共和国出身の4人のソムリエは、先進国の白人がマジョリティとして君臨するワイン業界でいえばマイノリティ。

 その彼らが、ワインのテイスティングの世界一を決める『世界ブラインドワインテイスティング選手権』にチャレンジするという。

 もうこのこと自体がアメイジングでもあり、クレイジーなトライといえる。

 どのようなことが巻き起こるのか、ワクワクしてくる。

 また、ローも触れたように彼らは、ワインを研究したりする文化もなければ、一般市民がほとんどワインを飲むことはないジンバブエ出身で。政治的混乱とハイパーインフレーションで経済ががたがたになった国を出て、新天地として南アフリカへ渡ってきた。

 南アフリカに渡ったら渡ったで、外国人差別を受けたりといった困難に直面している。

 そういった苦境をひとつひとつクリアして一歩一歩階段を上って、いまのソムリエという仕事を手にした。

 そして、南アフリカでも有能なソムリエになった。

 そんな彼らが、ワインの文化があり生産国としても有名な、たとえばアメリカやスペイン、フランス、イタリアの代表とどういう闘いをみせるのか。

 もうこれは見届けるしかないですよね(笑)。

 しかも、彼らは黒人なんです。

 映画の中で、ジャンシスが言ってますけど、ワインの世界の中でもとりわけワインテイスティングの世界はほぼ白人の世界。

 そんな中に黒人である彼らが飛び込んでいくというのはすごいことなんです。

 その彼らの恐れをしらない勇気ある挑戦をぜひこの目で見届けたいと思いました。

 そこで僕とローは瞬く間に準備を整えて飛行機に飛び乗って南アフリカへ行って撮影を始めました」

ロー「正確に言うと、彼らと話をしてから準備を整えて3週間後には飛行機に飛び乗っていました。

 それぐらい体が動きました。もう彼らを追わなければと思ってすぐに現地に向かいました」

(※第三回に続く)

【「チーム・ジンバブエのソムリエたち」監督インタビュー第一回はこちら】

「チーム・ジンバブエのソムリエたち」ポスタービジュアルより
「チーム・ジンバブエのソムリエたち」ポスタービジュアルより

「チーム・ジンバブエのソムリエたち」

監督:ワーウィック・ロス&ロバート・コー

公式サイト https://team-sommelier.com/

全国順次公開中

写真はすべて(C)2020 Third Man Films Pty Ltd

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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