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野蛮にして緻密な佐藤康光九段(50)豪腕で広瀬章人八段(33)をねじ伏せA級順位戦勝ち越しの4勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月20日。東京・将棋会館においてA級順位戦7回戦▲佐藤康光九段(50歳)-△広瀬章人八段(33歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は24時22分に終局。結果は119手で佐藤九段の勝ちとなりました。

 両者の成績はこれで4勝3敗。佐藤九段はA級残留に向けて大きな1勝を挙げました。一方で広瀬八段はこの敗戦で、名人挑戦権獲得の可能性がなくなりました。

 1月24日におこなわれる▲木村一基王位(2勝4敗)-△三浦弘行九段(4勝2敗)戦で三浦九段が敗れた場合、渡辺明三冠(7勝0敗)の名人挑戦が決まります。

佐藤康光九段の豪腕健在

 佐藤康光九段は名人2期を含めてA級以上通算23期。現在のA級10人の中では、羽生九段の27期に次ぐ記録です。また年齢は最年長の50歳です。

 佐藤九段は将棋連盟会長職を務め、文字通り東奔西走の毎日。前日は名古屋でおこなわれた朝日杯の会場にも姿を見せていました。

 一方、A級順位戦では着実に白星を重ねています。3勝3敗の星から、残る3戦は残留に向けての戦いとなります。

 広瀬章人八段は竜王失冠後、現在は王将戦で挑戦名乗りをあげ、七番勝負を戦っています。第1局では渡辺王将(三冠)に敗れましたが、タイトルを争う現棋界のトップクラスであることに変わりはありません。

 A級順位戦は年末におこなわれた前節6回戦で、渡辺三冠に敗れて独走を許しています。

 4勝2敗となった広瀬八段にとっては7回戦、勝ってプレーオフ進出の可能性をつなげるかどうか、という一局でした。

 佐藤九段先手で、序盤は矢倉模様となります。ただし近年のプロの矢倉は、互いに組み上がることがまれとなってきました。本局もまた定形をはずれ、互いの構想力、腕力が試される展開となったようです。

 佐藤九段は飛車先の歩を交換した後、五段目に構えます。俗にこれを「高飛車」と呼びますが、矢倉の立ち上がりからでは珍しいと言えるでしょう。そして金矢倉を組み上げながら、玉は入城することなく、中住居の位置に腰を据えました。

 神経を使う中盤のねじり合いが続き、本格的な戦いが始まったのは、22時半頃でした。最初に6時間あった持ち時間は、両者ともに1時間を切っていました。

 佐藤九段の高飛車はずっと五段目に居座り続け、最後に桂で取られて使命を終えました。

 終盤戦、広瀬八段は手にした飛車を打ち込んで佐藤玉に迫ります。一方で佐藤九段は広瀬玉の上部から、ガツンガツンと駒を打ち込んで猛ラッシュをかけます。下段の広瀬玉は押しつぶされそうな一方で、佐藤玉は下から追われながら、中段へと泳いで逃げていきます。そして形勢は佐藤九段の方へと傾いていきました。

 対して広瀬八段も手段を尽くして粘ります。時間が切迫する中、深夜の大逆転劇がしばしば見られるのも、順位戦です。しかし佐藤九段は豪腕で優位を築いた後は、終始正確に指し続けました。

 最後は一分将棋の中、21手詰を読み切ってフィニッシュ。前竜王の広瀬八段を力でねじ伏せました。

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 順位5位での佐藤九段の4勝は、過去の例ではほぼセーフ、高い確率で残留という星でしょう。一方で広瀬八段の3敗は、今期は既に、名人挑戦には届かない星となってしまいました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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