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東京ディズニーリゾートの障がい者割引料金をUSJと比較 視覚障がい者への配慮が新たな楽しみ方を生む

山口有次桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授
出所:東京ディズニーリゾート公式Webサイト

 筆者は2013年から、視覚障がい(全盲)をお持ちの研究者・小林剛士さんと、観光・レジャー施設のバリアフリーに関する研究を行っている。その成果は毎年、論文や研究ノートにまとめ学会発表している。ここでは、東京ディズニーリゾート(TDR)とユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の障がい者割引料金を比較分析し、誰もが楽しめるパークづくりについて考察する。

 前提として、一般的な観光・レジャー施設の多くが、入園チケット等の障がい者割引を行っているのに対し、TDRは、障がい者を含むすべてのゲストが平等であり、障がい者も健常者も同様に楽しめるシステムやサービスを提供し、それをよりよくするために日々改善をつづけているため、割引料金を長らく導入していなかった。

 しかし、ついに2020年4月からTDRでも導入されると発表されたが、コロナ禍で延期され、実際には2021年10月から1デーパスポートの障がい者割引が導入された。ちなみにUSJでは、2001年の開業当初から、1デイ・スタジオ・パスの障がい者割引料金が設定されている。両パークとも、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、被爆者健康手帳、戦傷病者手帳を持っていれば、同伴者1名とともに割引料金を適用できる。

一般料金はUSJの方が高いが、障がい者割引料金はTDRの方が格段に高い

 1日パスは、TDRの大人料金が7,900〜10,900円、USJが8,600〜10,900円であり、TDRよりUSJの方がやや高めに設定されている。しかも、TDRには中人(12歳の中学生〜18歳の高校生)設定があり、大人料金は18歳以上が対象であるが、USJは12歳以上から大人料金となる。

 それに対し、USJは、一般料金が5段階の変動制であるのに障がい者割引料金は月日にかかわらず同額であり、かつその料金がTDRよりかなり安い(図1)。障がい者割引料金と一般料金の差をみると、USJが大きく、TDRが小さいことがわかる(図2)。USJは2001年の開業時から長年、一般料金に対する障がい者割引料金が50%程度に設定されており、対してTDRは80%程度である。これらの差は、前記のようなTDRの理念が影響している。

図1 TDRとUSJの1日パス障がい者割引料金比較

注:両パークの公式Webサイト表示料金を基に筆者作成。TDRは月日により6段階の料金設定。USJは一般料金が5段階の変動制であるのに対し障がい者料金は同一。
注:両パークの公式Webサイト表示料金を基に筆者作成。TDRは月日により6段階の料金設定。USJは一般料金が5段階の変動制であるのに対し障がい者料金は同一。

図2 TDRとUSJの1日パス障がい者割引料金と一般料金の差

注:両パークの公式Webサイト表示料金を基に筆者作成。TDRは月日により6段階の料金設定。USJは一般料金が5段階の変動制であるのに対し障がい者料金は同一。
注:両パークの公式Webサイト表示料金を基に筆者作成。TDRは月日により6段階の料金設定。USJは一般料金が5段階の変動制であるのに対し障がい者料金は同一。

図3 USJの1デイ・パス障がい者割引料金の推移と一般料金に対する割合%

注:USJ公式Webサイト等から関連情報を収集して筆者作成。価格変動制導入後は最高額と最低額の中間値で算出(点線表示)。
注:USJ公式Webサイト等から関連情報を収集して筆者作成。価格変動制導入後は最高額と最低額の中間値で算出(点線表示)。

視覚障がい者も楽しめるパークづくりが健常者に新たな楽しみ方を生む

 一般的に障がい者というと、車イス使用者(肢体不自由者)をイメージするかもしれないが、視覚障がいから、聴覚障がい、内部障がい、知的障がい、精神障がいなど多様であり、その度合や症状によっても千差万別である。そのため、TDRでは空間的な対応の限界があるとして、すべての障がい者がすべてのアトラクションを利用できるわけではなく、その規定を明確に示し、できるだけカバーしようと努めている。人的対応や情報提供を含め、その優れたバリアフリー対応の水準は世界でもトップクラスと評価できる。

 しかし、筆者らが長年、観光・レジャー施設のバリアフリーについて研究した結果、視覚障がい者が楽しめるという点については全般的にその配慮が大きく欠けている。これはTDRやUSJでも同様である。テーマパークの楽しみ方において、視覚以外の五感を駆使しようとする工夫が一部に見られるが、どうしても視覚に依存することは多く、視覚を用いることができない視覚障がい者は極めて大きなハンデを負っている。

 TDRが健常者と障がい者を平等に扱おうと考え、障がい者割引料金と一般料金の差を大きくしないことは理解できる。だが、パーク内での楽しみ方がどうしても大きく制限されてしまう視覚障がい者に対しては何らかのテコ入れが必要である。何も打つ手がないとしたら、まずは特別な割引料金を設定することが考えられる。だが、パークの理念を踏まえると、視覚障がいがあっても楽しめる工夫を加えることが望ましい。視覚だけに依存しないで楽しめるパークづくりは、結果的に健常者や他の障がい者にも新たな楽しみ方を生みだす可能性がある。

 視覚障がい者も健常者と同じようにディズニーテーマパークを存分に楽しめるようになる日を心待ちにしている。

参考文献

  1. 小林剛士・山口有次(2024)、北海道の観光・レジャー施設におけるバリアフリーに関する一考察、『余暇ツーリズム学会誌』第11号、pp.89-96
  2. 小林剛士・山口有次(2023)、沖縄における観光・レジャー施設のバリアフリーに関する一考察、『余暇ツーリズム学会誌』第10号、pp.89-94
  3. 小林剛士・山口有次(2022)、九州地域における観光・レジャー施設のバリアフリーに関する一考察、『余暇ツーリズム学会誌』第9号、pp.67-72
  4. 小林剛士・山口有次(2021)、観光・レジャー施設における人的なバリアフリーの現状と課題、『余暇ツーリズム学会誌』第8号、pp.23-32
  5. 小林剛士・山口有次(2020)、観光・レジャー施設における人的なバリアフリーに関する事例研究、『余暇ツーリズム学会誌』第7号、pp.31-36
  6. 小林剛士・山口有次(2019)、視覚障がい者のための観光・レジャー施設のバリアフリーデザイン :視覚障がい者による多様な施設事例に基づくアプローチ、『余暇ツーリズム学会誌』第6号、pp.11-20
  7. 小林剛士・山口有次(2018)、観光・レジャー施設における視覚障がい者の「体験」に関するバリアフリーデザイン、『余暇ツーリズム学会誌』第5号、pp.79-84
  8. 小林剛士・山口有次(2017)、視覚障がい者が観光・レジャー施設の魅力を楽しむためのバリアフリーデザイン、『余暇ツーリズム学会誌』第4号、pp.57-62
  9. 小林剛士・山口有次(2016)、視覚障がい者のためのゲームセンターのバリアフリーデザイン、『余暇ツーリズム学会誌』第3号、pp.47-52
  10. 小林剛士・山口有次(2015)、視覚障がい者のための観光施設のバリアフリーデザイン 関東地域の観光施設のバリアフリー対応に関する一考察、『余暇ツーリズム学会誌』第2号、pp.63-68
  11. 小林剛士・山口有次(2014)、視覚障がい者のための海水浴場のバリアフリーデザイン、『余暇ツーリズム学会誌』第1号、pp.71-76
桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授

早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年より桜美林大学ビジネスマネジメント学群助教授、准教授を経て、2009年より現職。専門分野は、レジャー産業、レジャー施設、レジャー活動。1990年から『レジャー白書』の執筆に携わる。近年はアジア諸国のレジャー活動状況調査を実施し発表。単著『新 ディズニーランドの空間科学 夢と魔法の王国のつくり方』『観光・レジャー施設の集客戦略 利用者行動からみた“人を呼ぶ魅力的な空間づくり”』、共著『「おもてなし」を考える 余暇学と観光学による多面的検討』『観光経営学』『観光学全集 観光行動論』等。レジャー施設に関する論文多数。

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