「24時間営業」にお得な料金設定 B3の新星が秘めるアリーナの強み
22年秋から4チームがB3に参戦
B3では新規参入クラブが旋風を巻き起こしている。2021-22シーズンの優勝を決めた長崎ヴェルカ、2位と好調のアルティーリ千葉は、チームの活動も今季からという純然たる新顔だ。コロナ禍で降格が停止された影響もあり、21-22シーズンはB1が22チーム、B2が14チームで開催されている。B3は15チームによる構成で、さらに4月20日の理事会で下記4チームの入会が認められた。
・東京ユナイテッドバスケットボールクラブ
・立川ダイス
・ヴィアティン三重
・湘南ユナイテッドBC
今回はB3入りの決まったクラブから、立川ダイスとアリーナ立川立飛のストーリーに焦点を当ててみたい。
アリーナとチームの一体経営が実現
立川ダイスのルーツは3x3(3人制バスケ)で、地元の商工会議所が町おこしを目的として立ち上げたチームだ。B3参入に合わせて、新たにアリーナ立川立飛をホームにした5人制のチームを立ち上げる。現在の運営母体は「一般社団法人多摩スポーツクラブ」で、同アリーナの運営を担っている組織だ。
アリーナ立川立飛は3千人規模の施設で、完成は2017年秋。立飛ホールディングスが建設して、多摩都市モノレール・立飛駅から徒歩1分の好立地にある。立川ダイスは2022-23シーズンから、アルバルク東京に代わる同アリーナの主となる。
立川ダイスの代表を務める原宏樹は2016年春まで8年にわたって、bjリーグの職員を務めていた。サラリーキャップやオン・ザ・コートなどの制度設計と運用、ファイナルズやオールスターの運営といった業務が彼の担当だった。彼は哲学の研究者を目指して早稲田大学文学部の研究科で学び、修士課程終了後にプロバスケの道に進んだ変わり種だ。
“しんがり”としてbjリーグの最終シーズンに携わっていた原は、次のステージにアリーナ作りを選んだ。彼はこう振り返る。
「色んなチームからお話をいただいたのですが、その中に立飛さんのオファーがありました。『アリーナを民間で造ろうとしている会社があるけれど、特にバスケットボールの現場のことがわかる人間を探しているようだ』という話でした」
自前、民設は理想だが……
アリーナ立川立飛は2017年10月に完成した施設だ。原は2016年4月から建設に関わり、リーグ時代に味わった思いを噛み締めつつ、使用者や選手の目線を盛り込んだ。
「リーグにいてずっと思っていたのは、自前のアリーナを持つ有意性です。特に東京・大阪・福岡といった都市部は体育館を押さえるのがすごく大変です。かつ施設を押さえたとしても(仮設スタンドや興行用の装置を)作ってばらして、作ってばらしてという設営作業をずっとしないといけない。自前のアリーナを持つのは夢ですが、イニシャルコストがものすごくかかります」
プロ野球を見れば“球場と球団の一体経営”のメリットは明らかだ。福岡ソフトバンクホークス、横浜ベイスターズは既存の球場を買収までして、一体経営を実現している。一方で過去のバスケ界にはそこまでの資本力、投資余力がなく、それが効率的と理解しつつ、なかなかそこに踏み出せていなかった。
原もプロジェクトに関わり始めた当初から、アリーナを基盤にしたクラブという構想を持っていた。その前段階として運営コストを抑えられる、使用者にとって使い勝手のいい施設作りを志向した。
民設アリーナの採算性確保は容易でない。例えば琉球ゴールデンキングスは沖縄市による公設ながら“夢のアリーナ”を実現している。もっともこれはキングスの人気、木村達郎社長による継続的な働きかけ、防衛省や内閣府の補助金といった稀有な条件が揃ったもので、簡単に真似のできる手法ではない。
また行政の造る施設は仕様、使用条件が当然ながら行政の意向に左右されやすい。特定の競技をえこひいきできず、バスケに限っても小中高シニアと全世代への公平性が要求される。
ニーズに応じて24時間営業も
アリーナ立川立飛はこの国ではまだ珍しい民設アリーナで、これから誕生する施設のモデルとなり得る事業だ。当然ながら原の願いも反映させやすかった。
「ここのお話をいただいたときに『自分が主催者だったときにこうしてほしかった』というものを全て詰め込みました」
例えばアリーナ立川立飛は24時間営業だ。利用者側のニーズがある場合に限られるが、必要に応じて深夜・早朝の営業も行っている。公共の施設でよくある「23時までに全員が退館しなければいけない。」といった規則がない。
料金設定も基本料金から色々なオプションをつけて積み上がっていく形態でなく、込み込みのインクルーシブ。使用者側の“お得感追求”もあるが、それ以上に交渉や計算の手間が双方にとってコストになるという発想だ。原は民間視点で料金設定をシンプルに変えた。
電気料金を大幅に削減
原が採算性確保のために手掛けたアクションの一つが電気料金の削減だ。電気料金はこの手の施設にとって極めて大きなコストで、電気料金はその年の最大使用量を基準に設定される。彼らは「空調を早めに入れて慣らしていく」「必要に応じて電源車を用意する」などの工夫で、最大使用量を半分以下に落としたという。
アリーナ正門の反対側にある搬入口にも、原の知見が反映されている。元々の構想では4トントラックの荷台に合わせた段差があった。物流センターのように同じサイズのトラックだけが入る施設ならば、扉を開けてそのまま下ろせる高さが合理的だ。しかしスポーツイベントの機材はハイエースなどのライトバンで運ばれることが多く、段差が邪魔になる。
多彩な用途で高い稼働率を維持
原は設計、建設に次いで運営にも手を挙げた。
「セットでやらせてもらえればと考えて、立飛ホールディングスの村山社長に『運営も一緒にやらせてください』とプレゼンをしました。所有者の立飛から業務委託を受けて、我々(一般社団法人多摩スポーツクラブ)がここを運営しています。」
ハードソフト両面の工夫で、アリーナ立川立飛は興行原価をかなり抑えられる施設になっている。そして開業当初から高稼働率を維持している。アルバルク東京に加えて、Fリーグ・立川アスレティックFCのホームでもある。また卓球Tリーグ、格闘技、テニス、eスポーツなどあらゆる競技で使われている。2018年9月にはテニスの東レパンパシフィックオープンが開催され、全米オープンを制した直後の大坂なおみ選手が出場した。
金土日の稼働率はほぼ100%で、平日もテレビやYouTuberの撮影によく使われているという。21年末にはトム・ホーバスHCと東京五輪の女子バスケ銀メダルメンバーが『スポーツ王は俺だ!!』の収録に臨んだ。
オーナーの狙いは地域貢献
アリーナ立川立飛のオーナーである「立飛ホールディングス」のルーツは前身の立川飛行機。現在はモノづくりをやめて不動産を主力事業としており、立川市の25分の1の土地を所有している大地主だ。一企業ながら、街づくりに取り組んでいる。
原はそんな企業の発想と強みをこう説明する。
「立飛さんはこれほどの土地を持っている会社ですが、地域の人にどうやって還元するか、地域の人と一緒にやる道を探したいというお話をされていました。地域全体を意識して活動するなかで、ららぽーと立川立飛やこのアリーナ立川立飛、バーベキュー場のあるTACHIHI BEACHが建設されました。また立川駅前にはGREEN SPRINGSという施設があって、そこにはTACHIKAWA STAGE GARDENという約2,500名収容のホールもあります。立川には芸術・文化・スポーツの施設が規模感の割には少ないという背景がありました」
施設単体の採算性を見れば、文化・スポーツへの関わりはマイナスかもしれない。しかしそのような施設は賑わいを作り、活気を上げ、街の価値を高める。言うならば大正、昭和の鉄道事業者が沿線に遊園地、野球場などの娯楽施設を作ったのと同じ種類の行動だ。
一体経営のメリットは?
初年度の予算は1.5億円程度を想定しているとのことだが、これはB3として中の上レベルだろう。埼玉ブロンコスなどでヘッドコーチを務めた山根謙二氏がGMとして、チームの編成を進めている。
アリーナ発B3クラブの強みは、練習とオフィスの環境だ。
「スタッフはそのままスライドして、アリーナの運営をしながら立川ダイスの運営もします。アリーナ事業とダイスの事業を2つ同時にやりますが、中で働く人間が2倍必要なわけでなくて。融通し合えます。事務所は当然このアリーナ内にあって、選手の練習もここで行います」
選手の地域活動、イベントへの参加にはオフィスと現場の協力が不可欠で、物理的な近さは強みになる。練習場と試合会場の距離も、近いに越したことはない。
ライバルは八王子
立川市自体は人口18万人強の都市で、交通・商業の要衝だ。東大和や小平、国立、国分寺も含めた「立川商圏」は100万人規模。マーケットとして見れば、Bクラブが十分に成り立つボリュームを持っている。そもそも立川は新宿駅から中央特快で30分足らず。立飛駅はモノレールに乗り換えて二駅で、駅の目の前にアリーナ立川立飛がある。
八王子には同じB3の東京八王子ビートレインズがある。八王子は立川から10分の近距離だが商圏としては別で、ライバル的な立ち位置だ。原は言う。
「特に八王子戦は立川の方々も注目している試合です。八王子との試合がサッカーでいうクラシコとなるよう、多摩地区をもっと盛り上げていきたいと思っています」