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「夫年上婚」が8割近くも激減しているのに「年の差婚」が減っているわけではない矛盾

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

婚姻減の方が深刻

出生数が80万人を切るという話ばかりをニュースにするメディアだが、2021年の婚姻数は50万1138組で、これは、1930年の 50万6674組に次ぐ低さである。

この記事(「出生数80万人割れ?」発生結婚出生数からみれば予想通りの未来がきただけの話)で説明した通り、発生結婚出生数に基づけば、基本的に出生数は婚姻数と連動する。たとえ離婚があったとしても、1婚姻当たり1.55人の子どもが生まれると考えていい。

つまり50万組しか結婚が発生しなければ80万人以上も子どもが生まれるはずがないのである。むしろ深刻なのはこっち(婚姻減)の方だろう。

夫年上婚は8割減

婚姻減の要因はさまざまあるが、ひとつ数字として顕著なのが夫年上婚の減少である。それは、初婚夫婦の年齢差の長期推移を見れば一目瞭然である。

1970年に約62万組あった夫年上婚だが、2021年実績ではわずか14万組にまで激減。その差48万組である。減少率は77%減である。

まるで、コロナ禍における居酒屋の売上並みに減少している。

全体の婚姻数が減っているのだから「さもありなん」と思わず納得してしまいそうになるが、妻年上婚や夫婦同年齢婚はそれほど減ってはいない。50年間通じて、常に一定の数の婚姻数がある。

つまり、婚姻数の減少とは、ひとえに「夫年上婚」の減少に尽きるといっても過言ではない。

お膳立ての崩壊

なぜ、「夫年上婚」だけが激減するのかについては、お見合い婚と職場結婚の減少で説明がつく。実は、お見合いと職場結婚の減少もまた、ほぼ夫年上婚の減少と同数だからである。

お見合い結婚比率が過半数を割ったのは1965年頃。今では5%以下にまで減っている。その後、お見合いの代替えとして機能していた職場結婚も1990年代前半をピークに減少に転じた。今では、職場で異性をデートに誘う者なら「セクハラ扱い」されるリスクすらあり、職場縁は今後も減り続けるだろう。

夫年上婚が多かったのは、こうしたお見合いや職場での出会いのきっかけによるところが大きい。こうした社会的な結婚お膳立てシステムの崩壊が、婚姻数の減少を招いているのである。

日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

ちなみに、いつの時代もいる「3割の恋愛強者」にとってはそんな事情はお構い無しである。全体の婚姻数が減ろうが、恋愛強者は勝手に自分で相手を見つけて恋愛し、結婚していくだろう。

裏返せば、お膳立てがなければ結婚できない者がそのまま放置されたがゆえの婚姻減なのである。

2020年において男性の生涯未婚率は28.3%と過去最高となった。これは45-54歳のいわばおじさんの未婚率の平均であるが、これだけ「夫年上婚」が減っているのだからそうなってしまうのだろうと納得性がある。この連載でも、「結婚を希望しているのなら若いうちに」と何度も言っているのはそういうことである。

年の差婚は減っていない

しかし、この夫年上婚の内訳をもう少し紐解いていくと、別の発見がある。

人口動態調査では「夫年上婚」の年齢差を1歳差から7歳差以上まで分類している。

それらを「夫年上婚」を100として構成比の推移をグラフ化したものが以下である。

1歳差の夫年上婚が一番多く、1990年代後半から常に25%程度で推移している。1歳差なので、これは同年齢婚と同じなのかもしれない。

一方で、1歳差に次ぐ2位は「夫7歳以上年上婚」なのである。2005年以降は、2歳差を抜いて2位を継続している。

これは構成比なので、全体の婚姻数が激減している以上実数は減っているのだが、なぜか「夫7歳以上の年上婚」だけはむしろ2015年あたりに最高比率を記録している。

これは、前述したお膳立て婚の減少だけでは説明できない。それより、2005年以降の経済状況を鑑みると、就職氷河期からリーマンショックと、それに付随する全体的に給料デフレの中で、若い男性が「お金に苦しんでいた」時期でもある。実際、この時期に20代の若者の可処分所得は最低になっている。

「力ある者とない者」との格差

就職も年収もままならない若い男性たちにしてみれば「結婚どころではない」という状況の中、一部の遊び歩いて未婚のままだった「中年恋愛強者」や、親ガチャの恩恵にあずかった富裕層の子たちが、難なくいい大学、いい会社、いい給料を手に入れて、中年以降に「トロフィーワイフ」的な意味合いで年の差婚をしたという解釈も成り立つ。

写真:アフロ

要するに、「夫年上婚」全体が減少したのではなく、恋愛力の格差や経済力の格差が2000年代以降明確になり、「年の差婚ができる者とできない者」とを選別したといえるだろう。

芸能人の年の差婚の話題がいつもニュースになるが、女優やアイドルを射止めた相手の男性に関してよく「一般男性」と表記される。芸能人ではないという意味の呼称であるが、決して彼らは「一般」ではない。何億もの年収や資産をもつ「特別な男性」だ。

もはや結婚は、恋愛力や経済力など「力ある者だけができる贅沢行動」になりつつあるのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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