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映画『メッシ』から考える。世界一のレフティーは右足をどう活かしているのか?

河治良幸スポーツジャーナリスト

これまで4度のバロンドール(世界最優秀選手)に輝き、バルセロナでリーグ300試合に出場。通算31度ハットトリックなどアルゼンチン代表と合わせ、プロのキャリアだけで400以上のゴールを記録するなど、20代にして”生ける伝説”となっているリオネル・メッシ。

映画『メッシ』は、この希代のレフティーが幼少の頃からいかに成長し、家族や仲間の支えを得て現在の成功にいたったかを、関係者の語りとエピソードの描写を組み合わせる形で製作されており、ノンフィクションのヒューマンドラマとして高い完成度を誇っている。

※今後の上映予定

2/22 (日)18:00大阪フットボール映画祭

2/28 (土)18:30福岡フットボール映画祭

3/14 (土)15:30サッポロ・フットボール映画祭

この作品の中である人物が語る「彼は左利きだけど右足もうまく使うんだ」という言葉は、メッシのプレースタイルを的確に捉えたものだ。主なボールタッチやキックが左足で行われることは言うまでもないが、状況に応じた右足の使い方が彼のドリブルやフィニッシュワークをより効果的で、相手に対応しにくいプレーを生み出しているのだ。

メッシはしばしば母国の大先輩であるマラドーナと比較され、映画の中でも対比が強調されるシーンが出てくるが、マラドーナの場合はボールを触り、蹴るのがほぼ左足に偏っていた。“左足1本で世界を制した”とも言われるマラドーナにとって右足はバランスを取るための支点の様なものだったのだ。

メッシも生粋のレフティーであり、主なボールタッチとキックは左足が使われるが、要所で右足を使うことによって、プレーの選択肢を広げ、相手のディフェンスに読まれにくい状況を生み出している。ただ、右足を良く使う他のレフティーと違っているのは、単に頻度が左足より少ないのではなく、左足と異なる役割を右足が担っていることだ。

ドリブルを観察すると、スピードに乗った状態で前に押し出すためのボールタッチはほとんど左足だが、マーカーに揺さぶりをかける、あるいは抜く瞬間にボールを引っ掛けて横にスライドする場面で右足インを駆使しており、左足の側を切ってきた相手をいなしながら、右方向にかわす時にはうまく右足のアウトを使っている。

左利きの多くの選手はシュートやパスこそ練習次第で右足とあまり変わらないレベルまで引き上げることができるが、ドリブル時のボールタッチだけは左右を器用に使いこなすことは難しい。メッシもドリブルの推進力と安定性を生み出すのは左足だが、そこに右足のアクセントを加えることで、進出するコースの選択肢を増やし、また相手との駆け引きをより有利なものにしているのだ。

それは純粋に右足の感覚が他のレフティーより優れているということではなく、全身として左右のバランスがしっかりしているということだ。主に左足でボールを扱っていようと、バランスは中心にあるから、状況に応じてすぐに左から右に置き換え、また戻すこともできる。もう1つはボールを持っていても足下をほとんど気にせず、ディフェンスの動きを常に察知しながらプレーできているため、その中で効果的に左足を使う判断を磨くことができたのもあるだろう。

キックに関しては利き足の左より威力も精度も落ちるのは明らかであり、左に持ち替える時間とスペースが無い時や左からのパスにダイレクトで合わせる様なシチュエーションに限られる。ドリブルやキープ時のボールタッチほど気の利いたプレーはできない。それでもゴール前で泥臭くフィニッシュを実行する場面では十分に活かされており、例えばFKを蹴れるほど右足のキックに磨きをかける必要は無いだろう。

メッシの左足が対戦相手の脅威であることは言うまでもないが、高いレベルのステージになるほど右足の役割が重要性を増し、そのアクセントがあるからこそ左足が強力な武器になることを認識して見れば、決勝トーナメントに突入するチャンピオンズリーグや3月22日に行われるクラシコなどでも見方が違ってくるのではないか。

その右足に関する言及のみならず『メッシ』には世界最高峰のストライカーを深く知るエピソードが凝縮されている。大阪、福岡、札幌の会場に足を運べるサッカーファンには是非ともお勧めしたい。

☆映画『メッシ』とは?

ロサリオの貧民街に生まれ、低身長症を患った少年が、なぜ世界的なサッカープレイヤーになったのか?誰が彼に成功への強さを与えたのか?

メッシの栄光への道のりを追ったスポーツ・ドキュメンタリー。

幼なじみ、小学校時代のチームメイト、イニエスタ、マスチェラーノ、ピケ、クライフ、メノッティ、サベージャ、マラドーナのインタビューとプレー映像、再現ドラマでメッシの秘密に迫る!

アルゼンチン、スペイン/ドキュメンタリー/93分/監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア

提供:松竹メディア事業部

ヨコハマ・フットボール映画祭2015は東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県・牡鹿半島でのアニメ映画祭の開催を支援しています。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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