プロ野球は飲食店の営業終了時間に合わせる必要があるのか? -「今季延長戦なし」に関するモヤモヤ-
3月18日、プロ野球12球団はオンラインでの実行委員会を開き、今季は延長戦を行わないことで合意した。この決定にはどうもモヤモヤが拭えない。
まずはその目的だ。
目的へのモヤモヤ
一都三県の緊急事態宣言は3月21日で解除されるが、飲食店への時短営業要請は、午後8時までから午後9時までに変更され継続される。NPBの延長戦を行わないという決断は、なるべく午後9時までに試合を終わらせるための措置だという。
2020年の平均試合時間は、延長戦に至ったケースも含めるとセ・リーグでは3時間13分、パ・リーグは3時間18分だ。9回までで終了した試合に限っても、それぞれ3時間10分と3時間16分。これでは全ての試合を9回で打ち切っても、午後6時開始が多いナイトゲームを概ね9時までに終わらせるのは不可能だ。そのため、試合開始時間も15〜30分繰り上げられるという。
確かに、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点からは、多数の観客が一箇所(球場)で過ごす試合時間が短くなるにこしたことはない。しかし、実行委員会は、延長戦をなくせば試合時間がどの程度短縮され、それが感染拡大の防止にどのような効果をもたらすと考えるのか、明らかにしていない。
また、試合時間短縮は新型コロナ対策に依らず、エンタメ性の観点からも極めて重要で、そのためには「9回で打ち切り」以外にも様々な対策が考えられるが、今回は特にそれが議論されたという報道もない。
そもそも、9時までに試合を終わらせることにどこまで感染拡大防止の意義があるかも疑問だ。それどころか、飲食店に合わせて9時に終わらない方が良いかもしれない。多くのアフター5の娯楽が軒並み9時に終了すると、9時過ぎに帰宅ピークがやってくることになり、公共交通機関の混雑が心配だ。通勤では時差出勤が求められている。ならば、プロ野球は9時半~10時頃に終わるレジャーであった方が良いのでは?と思えてくる。
NPBの球場からクラスターを発生させないためには、一部の観客による大声での応援の回避を徹底することの方が効果的ではないか。球場では飲食中以外のマスク着用が呼びかけられてはいるが、始終飲みっぱなしで、結果的にアゴマスクのまま同行者との議論に熱中する観客も少なくない。彼らに対するより強いアクションの方が有効なのではないか。
結局、今回の決定の背後にあるのは、ファクトやデータ、専門家の助言に基づいた戦略というよりは、「やってます」感であり、横並び意識、保身、ことなかれ主義だとも思えてくる。ある意味、この1年の政府のコロナ対応に似通った部分がある。
決定プロセスへのモヤモヤ
もうひとつモヤモヤするのはその決定プロセスだ。プロ野球実行委員会自体は、NPB機構と全12球団のオーナーで構成されるので、今回の決定も正規のステップを踏んだものと言えるのだが、選手不在であることは間違いない。
延長戦がなくなることは、救援投手の出場機会が減ることを意味しており、これは彼らの生活権にも影響する。また、今季は引き分けが増えることが予想され、それは投手にとってオフの契約更改の交渉ネタになる勝ち星やセーブが減ることを意味している(黒星も減るが)。要するに、フィールド上の運営の大きな変更が、その主役である選手、または選手会の意向を全く踏まえることなく決定されていることは、プロ野球の健全な発展に大きな問題であると思う。
報道へのモヤモヤ
最後のモヤモヤは、本件を報じるメディアの姿勢だ。この決定が明らかになってから、延長戦がなくなることによる戦術上の変化に関する考察は散見されるが、本来の目的に対する有効性や決定プロセス、野球という競技のあるべき姿との整合性に関する論評はほとんど見かけない。これは野球やスポーツの領域のみに限らないのかもしれないが、この国の報道の自由度には制約があり窮屈なんだと感じざるを得ない。