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「将棋界の一番長い日」A級最終局は深夜1時過ぎ終了 佐藤康光九段(50)が羽生善治九段(49)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月27日。静岡市・浮月楼においてA級順位戦最終9回戦一斉対局がおこなわれました。

 最後に残った▲佐藤康光九段(50歳)-△羽生善治九段(49歳)戦は1時13分に終局。結果は187手で佐藤九段の勝ちとなりました。

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 今期A級順位戦は、これで全日程終了しました。

佐藤康光九段、二転三転の大熱戦を制す

 佐藤九段は角交換四間飛車→向かい飛車の作戦。そのあまりに独創的な序盤戦術は、ぜひ棋譜を並べてご覧いただきたいところです。ただし途中からは、オーソドックスな美濃囲いに組み換えられました。

 一方の羽生九段は穴熊に組みます。

 中盤ではずっと、佐藤九段が少しリードしていたようです。そして深夜の終盤戦に入ったところでは、勝敗不明の形勢となりました。

 将棋会館での対局は10時に始まりますが、浮月楼での最終戦は9時に始まります。その1時間ほど終局も早くなる計算ですが、本局は日付が変わっても、いつ果てるともしれない戦いが続きました。

 羽生九段は穴熊の遠さをいかして粘ります。それに佐藤九段が攻めあぐねたようで、形勢ははっきり羽生九段よしとなりました。

 対して佐藤九段も自陣に龍を引き上げ、さらには自陣飛車まで打ちつけて、徹底抗戦に出ます。

 両者ともに、来期A級の地位は確定しています。それでも全力を尽くしてこの一局を指し続けます。

 そして佐藤九段は一瞬の間隙をぬって、羽生玉に迫ります。もし両者が銀を打ち合えば、千日手模様。深夜に指し直しでもう一局となるところです。

 160手目。羽生九段は佐藤九段の龍の頭に飛車を打ちつけます。

深浦「かっけーなあー」

 深夜のテンションで、深浦康市九段がそうつぶやきます。深夜の順位戦。両者ともにずっと一分将棋。手の善悪を超えて、死闘の様相を呈してきました。

 そしていつしか、佐藤九段の粘りが功を奏して、また逆転したようにも見えてきました。

中村「もうどっちが勝ちだかわかんない。混戦です」

 中村太地七段がそうつぶやきます。その時、佐藤九段は王手龍取りの犠打を放ちます。これは羽生九段の龍でタダで取られます。その効果で自玉への脅威を緩和した後、羽生玉に詰めろをかけます。

 深夜1時前。ついにクライマックスを迎えました。勝敗のポイントはただ一点。佐藤玉が詰むか詰まないかです。羽生九段の駒台には持ち駒が豊富に乗せられています。佐藤玉は王手がずいぶんと続く形。まさに「詰むや詰まざるや」という状況です。

 少しでも受け間違えればすぐに詰むというところ、佐藤九段は正確に受け続けました。そしてきわどく詰みません。

中村「これ名局賞でどうですか?」

深浦「いいと思います」

 両解説者はそう語り合います。ずいぶん遠い昔のことのようですが、思い返してみれば、本局はあの独創的な序盤からここまでつながっているわけです。

 あまりの熱戦に、中村七段は「ひえー」と感嘆の声をもらしました。佐藤九段は盤外で会長職をこなすかたわら、盤上でも素晴らしいパフォーマンスを見せ続けてきました。

深浦「これをひっくり返す豪腕・・・」

中村「明日も公務に励むんでしょうね」

深浦「今は幸せな時間なんでしょうね」

 両解説者がそう言い交わす中、佐藤九段は正確にしのぎきりました。そして羽生九段は投了を告げています。

 終局時刻は深夜1時13分。総手数は187手でした。

 これにて、今期A級順位戦のすべての対局が終了しました。

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 本局の結果により、来期は佐藤九段が羽生九段よりも順位上位となりました。この順位が来期また、大きな影響を及ぼすことになるかもしれません。

 表には4勝5敗者が6人、ずらりと並びました。星一つを入れ替えただけで、状況はガラリと変わります。終わった後でそれをあれこれ言うのは、あまり意味のないことです。それでもあえていえば、たとえば8回戦の羽生-木村戦の星が逆であれば、木村王位の代わりに羽生九段が降級していたことになります。

 多くのドラマを残して、今期A級も終わりました。来期はまた、どんなドラマが見られるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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