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オリンピックとスポンサー(1)

松岡宏高早稲田大学 教授
競技場内に広告看板がない!(写真:ロイター/アフロ)

リオ五輪も終盤に差し掛かっているが、アスリートたちの素晴らしいパフォーマンスからまだまだ目が離せない。時差はあるが、日中よりは夜や早朝のテレビ中継のほうが日本には合っているようで、結果的に視聴率も悪くない。ところで、オリンピックの競技場内の様子が、サッカーのワールドカップや世界陸上とは違うことにお気づきだろうか?

オリンピックの競技場内にはスポンサー企業の広告看板が見当たらない。これは、オリンピック憲章(第5章:オリンピック競技大会)に次のような記載があるためだ。

「IOC 理事会が例外として許可する場合を除き、オリンピック区域の一部とみなされるスタジアム、競技会場、その他の競技区域内とその上空は、いかなる形態の広告、またはその他の宣伝も許可されない。スタジアム、競技会場、またはその他の競技グラウンドでは、商業目的の設備、広告標示は許可されない。」

1984年のロサンゼルス五輪以降、積極的に民間資金が投入され、今やIOC(国際オリンピック委員会)の収入の約35%をスポンサーシップ契約料(2009年~2012年ロンドン五輪までの4年間で約28億米ドル)が占める。これだけスポンサーマネーが重要であるにも拘らず、競技の場はクリーンに保つというルールがあることからも、オリンピックが他のスポーツ大会とは異なる特別なイベントであることがよくわかる。

ちなみに、競技場内で目にする企業のロゴは、タイム計測とスコアを担当しているOmegaと、選手のウェアやシューズについているスポーツメーカーぐらいである。このウェア等のロゴも、商業目的が前面に出ないように、その大きさが限定されている。

さて、大会会場に広告看板を設置できないスポンサー企業に与えられているのは、「オリンピックを応援している」という表現およびオリンピック・ロゴを使用する権利である。この権利を行使して、企業やブランドの認知度やイメージ向上、そして商品の販売促進活動に取り組んでいる。この権利を持つのは一業種につき一社となっており、この仕組みが始まったのも1984年のロス五輪である。TOP(The Olympic Partners)と呼ばれるIOCのワールドワイドパートナーは、現在はコカ・コーラ、マクドナルド、パナソニックなど12社であるが(うちブリジストンとトヨタが2016年はエリア限定)、各社は定められた商品・サービスカテゴリーにおいてオリンピックを利用したマーケティングができる唯一の企業である(なお、TOP以外の各大会組織委員会、各国オリンピック委員会のスポンサー企業は別途契約がある)。

このように特別な権利を所有してマーケティング活動ができるのだが、競技会場に看板が設置できず、看板が世界中の人々によって視聴されるテレビなどに映し出されることがないとなると、スポンサーとしての「うまみ」はかなり少なくなる。それでも相当な資金を投じた契約が成立するということは、各企業がそれ相応の価値を世界最大のスポーツイベントに見出しているということである。

早稲田大学 教授

1970年京都生まれ。京都教育大学卒。オハイオ州立大学で博士号(Ph.D.)を取得。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。特に、スポーツ消費者(実施者、ファン・観戦者)の心理や行動の解明を研究テーマとし、スポーツをする人、見る人が増える仕組みづくりを検討している。現在、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本スポーツマネジメント学会理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。著書に、スポーツマーケティング(共著:大修館書店)、図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント(共著:大修館書店)など。

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