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ワールドカップの「にわかファン」、その後は?

松岡宏高早稲田大学 教授
(提供:イメージマート)

サッカーのワールドカップが終わって1カ月以上が経ちました。皆さんはその後サッカーの試合中継をテレビやインターネットを通して視ましたか?

筆者の周りには、高校サッカーの中継を視たり、三笘選手のイギリスでの活躍をニュースで視たりする人は多くいましたが、ヨーロッパのサッカーリーグの試合を有料放送で視ている人は限定的でした(Jリーグはシーズンオフ)。サッカーに詳しく、ヨーロッパの試合中継をフォローするような人たちが真のファンで、それ以外は「にわかファン」だと捉えられてしまうとすれば、それはスポーツ界にとっては勿体ないことです。

ワールドカップに興奮した後、年始には箱根駅伝、高校サッカー、大学ラグビーなどを視て、3月には野球のWBCを視るという人は多いのではないでしょうか。そういう多くのスポーツファンがスポーツを支えています。4年に一度のワールドカップでサッカー日本代表を応援する人、どんな種目でも日本代表チーム・選手を応援する人は、「にわか」ではなく必ず定期的に戻ってきます。ワールドカップで盛り上がったサッカーファンがWBCで野球に取られてしまうというようなネガティブな捉え方は全く必要ないでしょう。

そもそも「にわか」ファンであることは悪いことなのでしょうか。スポーツファンの研究では、BIRGing(Basking in Reflected Glory)という概念が紹介されています。自身はテレビの前で汗もかかずに観戦を楽しんでいるだけなのに、ハードワークして勝利したチームや選手の成功に便乗して自身の心理的なステータスを向上させるという多少「よこしま」な行動です。十数年ぶり、数十年ぶりに優勝したチームのファンが急に増えるのはこの行動の表れです。チームの不調時でも応援し続けてきたファンからすると、あまり気分の良いことではないでしょう。しかし、流行に身を任せたり、上手くいっている人や物事に便乗したりすることは、日常においてもよく見られることです。「あの有名人は私の高校の先輩だ(実際には会ったこともないのに)」とか言ってしまうように、私たち「ひと」の習性ですので仕方ありません。

ただし、スポーツの場合は勝ち負けの可能性は半々です。BIRGingと対になるCORFing(Cutting off Reflected Failure)という行動もあります。これは、失敗者からの影響を遮り、自身のステータスの低下を防ぐ行動です。負けたチームや選手のファンであることを隠したり、ひどいときにはファンをやめたりします。50%の確率で、度々ファンに離れられたら、チーム経営は成り立ちません。チームの好不調に関係なく応援し続けてくれるファンが必要であることは間違いありません。

早稲田大学 教授

1970年京都生まれ。京都教育大学卒。オハイオ州立大学で博士号(Ph.D.)を取得。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。特に、スポーツ消費者(実施者、ファン・観戦者)の心理や行動の解明を研究テーマとし、スポーツをする人、見る人が増える仕組みづくりを検討している。現在、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本スポーツマネジメント学会理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。著書に、スポーツマーケティング(共著:大修館書店)、図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント(共著:大修館書店)など。

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