Yahoo!ニュース

学生アスリート、君たちは本当に勉強する気がないのか?

松岡宏高早稲田大学 教授
関東大学サッカー連盟フェイスブックより

「単位より、順位。」?

関東大学サッカーリーグ戦が今日から始まるらしい。この情報源は上にあるポスターである。ただ、日程よりもポスター内の左下にある「単位より、順位。」というコピーが目に留まる。学生サッカーも人気向上を目指していろいろと企画立案する中で、「キャッチーなコピーを思いついた」とでも思ったのだろうか。それなら大きな間違いである。

「単位より、順位。」を額面通りに受け取れば、「私たちは学業よりもサッカーを優先します」と公言していることになる。さらに言えば、「授業への出席、レポート、テストを疎かにしてでも、勝ち点のためにサッカーに時間を費やします」と読み取れる。少なくとも筆者と周囲の人々はそのように理解した。これは関東大学サッカー連盟という組織から発信されたメッセージであるが、学生アスリートたちも同じ認識なのであろうか。そうであれば、彼らは大学でサッカーをする必要はない。サッカーを優先してやりたいのであれば各地のクラブチームで、さらに能力があればJリーグでやればよい。大学に所属してサッカーをする者は、プロ選手ではない。大学生である。「順位」より「単位」が優先されるのは当然であろう。

大学スポーツビジネス化、その前にやることが。

「日本版NCAA」を掲げて大学スポーツを活性化させる動きがある。試合の観客や視聴者を増やし、スポンサーを増やし、収入増を目指すのであろうが、大学スポーツの魅力とは何なのか?プロとは違い、学を修めながら高いパフォーマンスを発揮することではないか。「学の放棄」を宣言した大学スポーツには価値はない。誰も応援したいとは思わないであろう。同級生だって、授業に来ずに試合出場届を提出するだけで、毎回授業に出席している自分たちと同じように卒業できてしまう学生アスリートを心から応援できるだろうか?

当事者たちが「単位より、順位。」という認識を持っているならば、「日本版NCAA」を掲げて周りが大学スポーツの価値を高める試みをする必要はない。この認識の改善をしないままに大学スポーツのビジネス化を推し進めると、ますます「勉強しない学生アスリート」が増えるだけである。アメリカの大学スポーツがビジネスとして成立している背景に、アスリートの教育に関するNCAAと各大学競技スポーツ局(Athletic Department)の取り組みがあることを重視すべきである。このままでは大学スポーツの価値を下げることになる。

早稲田大学 教授

1970年京都生まれ。京都教育大学卒。オハイオ州立大学で博士号(Ph.D.)を取得。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。特に、スポーツ消費者(実施者、ファン・観戦者)の心理や行動の解明を研究テーマとし、スポーツをする人、見る人が増える仕組みづくりを検討している。現在、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本スポーツマネジメント学会理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。著書に、スポーツマーケティング(共著:大修館書店)、図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント(共著:大修館書店)など。

松岡宏高の最近の記事