シリア軍、クルド民族主義勢力、ロシア軍がアレッポ県北部で攻勢を強め、避難民がにわかに増加
シリア紛争の解決に向けたシリア政府と反体制派の和平交渉「ジュネーブ3会議」が中断を余儀なくされるなか、シリア軍と西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊(YPG)が主導するシリア民主軍は、ロシア軍の空爆支援のもとで連携し、アレッポ県北部ヌッブル市、ザフラー町一帯で、アル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」の連合に対する攻勢を強め、トルコ領からアレッポ市北部にいたる反体制武装集団の兵站路を寸断することに成功した。
シリア軍はまた、南部ダルアー県でも進軍を続け、ダルアー市の北部の反体制派の要衝アトマーン村を制圧、またその北に位置するイブタア町では反体制派との停戦に合意した。
しかし、アレッポ県北部でのシリア軍、シリア民主軍、ロシア軍の攻勢に伴う戦火の拡大は、避難民の増加をもたらし、2万人とも言われる人々がトルコ国境に殺到、欧米諸国内で非難の声が高まった。
2016年2月上旬のシリア情勢をめぐる主な動きは以下の通り。
1.シリア政府、リヤド最高交渉委員会双方が「前提条件」に固執し、ジュネーブ3会議が中断
国連安保理決議第2254号が定める政治移行プロセスを実施するため、スイスのジュネーブでシリア政府と反体制派の代表による和平会議「ジュネーブ3会議」の準備が、スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連アラブ連盟共同特別代表の仲介のもと進められた。
会議は、デミストゥラ共同特別代表がシリア政府、反体制派の代表団との個別会談を通じた間接交渉の形式で予定されていた。
1月25日に予定されていた会合は、29日に一端延期された後、デミストゥラ共同特別代表は2月1日にシリア政府、反体制派の代表団との個別会談を開始すると発表した。だが、この個別会談も、シリア政府、反体制派の代表団双方が「前提条件」を提示するなかで、実質的には行われなかった。
すなわち、リヤド最高交渉委員会が指名した反体制派代表団は、(1)ロシア軍、シリア軍による空爆・砲撃停止、(2)反体制派支配都市へのシリア軍の包囲解除と人道支援物資の搬入、(3)シリア当局による逮捕者釈の放を通じて、シリア政府が「善意」を示すことを交渉開始の条件とする一方、シリア政府側は「無条件での交渉」を主唱しつつも、シリア政府が「テロ組織」とみなすイスラーム軍幹部が反体制派代表団に参加していることに疑義を唱えた。
こうした事態を受け、米国は「無条件での交渉」の必要を強調、またロシアもリヤド最高交渉委員会に参加するイスラーム軍やシャーム自由人イスラーム運動を「テロ組織」とみなしつつも、そのメンバーが反体制派代表団に個人資格で参加することを是認するなどして、調整が進められた。
しかし、シリア政府、反体制派が歩み寄ることはなく、リヤド最高交渉委員会は「人道に関する諸要求」が受け入れられなかったとしてジュネーブを去った。これを受け、デミストゥラ共同特別代表は「当事者らの側でさらに行うべきことある」として会議を中断、2月25日に再招集すると発表した。
会議中断を決断したデミストゥラ共同特別代表は、国連安保理での非公式会合で、テレビ会議システムを通じて進捗を報告、シリア政府、反体制派双方の姿勢が会談実施を妨げたことを明らかにした。それによると、シリア政府代表団が、国連安保理決議第2254号の個別項目(第12、13項と思われる)に立ち入ることを嫌い、「間接交渉実施に関する手続き」に固執する一方で、リヤド最高交渉委員会が「前提条件のリストを持参し、これによっていかなる実質的進展をも実現する余地を奪った」ことが延期の主因だったという。
他方、シリア政府は、リヤド最高交渉委員会が、サウジアラビア、カタール、トルコの指示を受け、会議を当初から頓挫させたと非難した。
2.米、ロシアのPYD、YPGへの政治的、軍事的支援強化にトルコが反発
ジュネーブ3会議が、イスラーム軍メンバーの参加の是非、国内でのシリア軍、ロシア軍による暴力などを争点として中断に追い込まれるなか、会議をめぐるもう一つの争点、すなわちクルド民族主義政党の民主統一党(民主連合党、PYD)は、米国、ロシアからこれまで以上の政治的、軍事的支援を獲得することに成功、このことがトルコの反発を招いた。
米国は、ジュネーブ3会議の延期が決定するのと前後して、大統領特別大使代理のブレッド・マクガーク氏が、PYDが主導する西クルディスタン移行期民政局実効支配下のアレッポ県アイン・アラブ市(クルド語名「コバーニー」)入りし、西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊(YPG)を中心とするシリア民主軍幹部と会談した。
マクガーク氏は、英仏両国の高官とともに現地入りし、ダーイシュ(イスラーム国)に対する「軍事計画」についてシリア民主軍幹部らと意見が交わした。
また、会談には、シリア民主軍の幹部に加えて、西クルディスタン移行期民政局ジャズィーラ地区、コバーニー地区の代表も参加し、マグガーク氏らから「自治はあなた方の権利だ」とエールを送られたという。
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また、フランス外務省は、ジュネーブ3会議への出席を見送ったPYDを次回の会合に参加させることを国連が決断したと発表した。
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一方、ロシアとPYDの関係をめぐっては、西クルディスタン移行期民政局が2月10日、モスクワに初となる代表部を開設した。
民政局ジャズィーラ地区渉外委員会(外務省に相当)副委員長を務める民主連合党政治局メンバーのアミーナ・ウースー女史によると、西クルディスタン移行期民政局はロシア以外にも、ベルリン(ドイツ)、ワシントンDC(米国)、フランス(パリ)、国際社会において決定力を持つすべての国、さらにはアラブ諸国にも代表部を設置する準備を行っているという。
また、後述する通り、ロシア軍は、アレッポ県北部(アフリーン市、アアザーズ市一帯)でのシリア民主軍によるアル=カーイダ系組織・「穏健な反体制派」連合組織掃討戦を空爆支援し、西クルディスタン移行期民政局、さらにはシリア政府の支配地域拡大を後押しした。
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米国とロシアによるクルド民族主義勢力への積極支援に対し、PYDをクルディスタン労働者党(PKK)と同じ「テロ組織」と断じるトルコ政府は強く反発し、レジェップ・タイイプ・エルドーアン大統領は「ジュネーブで会議が開かれているなかでコバーニを訪問し、いわゆる人民防衛部隊の司令官から記念の盾を受け取った…。どうして信用できるというのか? 私は君たち(米国)のパートナーなのか、それともコバーニーのテロリスト(が米国のパートナー)なのか?」と不信感を露わにした。
エルドーアン大統領はまた別の機会にも、「あなた方(米国)が彼ら(PYD、YPG)をテロ組織とみなすことを拒否したことで、地域は血の海と化した…。米国よ、あなた方は我々に、PYD、YPGを承認することを強要などできない。我々はこの二つの組織をよく知っているし、ダーイシュのこともよく知っている」と述べ、米国を厳しく非難した。
しかし皮肉なことに、トルコ政府が、PYDを「テロ組織」と断じ、「テロとの戦い」の枠組みのなかで、西クルディスタン移行期民政局の存在や米国の政策への批判を強めたことで、アサド政権に対する厳しい姿勢は相対的に影を潜めることになった。
3.シリア軍、YPGがロシア軍の空爆支援のもと事実上連携し、アレッポ県北部国境地帯とアレッポ市の兵站路の寸断に成功
米国・トルコがアレッポ県北部に設置合意した「安全保障地帯」西端一帯および、西クルディスタン移行期民政局の実効支配下にあるアレッポ県北西部、そしてアレッポ市北部一帯では、ロシア軍の空爆支援を受けたシリア軍、そしてYGP主導のシリア民主軍が、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、そして「穏健な反体制派」と目されるヌールッディーン・ザンキー運動などからなる反体制武装集団に対して一大攻勢をかけた。
シリア軍、国防隊、ヒズブッラー戦闘員、イラン革命防衛隊、そしてアラブ系・アジア系外国人戦闘員とともにアレッポ市北部のドゥワイル・ザイトゥーン村、タッル・ジャビーン村、ハルダトニーン村、ラトヤーン村、マアルサト・ハーン村、ラトヤーン村、ハルダトニン村、ダイル・ジャマール村一帯の農場地帯を次々と制圧し、ついにはヌスラ戦線などの3年以上にわたる包囲を受け、孤立していたヌッブル市、ザフラー町(いずれも12イマーム派の村)の包囲を解除することに成功し、反体制武装集団の拠点都市の一つタッル・リフアト市に向けて進軍を続けた。
この動きと並行し、YPGや革命家軍からなるシリア民主軍は、アフリーン市方面から南下し、ヌッブル市に隣接するハリーバ村、ズィヤーラ村からヌスラ戦線などの反体制武装集団を掃討した。
シリア民主軍はまた、ヌッブル市の北部に位置するマンナグ軍事飛行場に近いマルアナーズ村、アクラミーヤ村、そしてダイル・ジャマール村を制圧した。
かくして、西クルディスタン移行期民政局が実効支配するアフリーン市一帯の地域とシリア政府の支配下にあるアレッポ市北部一帯が結ばれ、トルコからアレッポ県北部のアアザーズ市を経て、アレッポ市、あるいはイドリブ県方面へと続く反体制武装集団の兵站路が寸断された。
なおクッルナー・シュラカーは、複数の地元消息筋の話として、シリア民主軍とシリア軍はカフィーン村で合流、「友好的なムード」のなかで会談を行い、同地に合同検問所を設置することで合意したと伝えた。
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シリア軍とシリア民主軍によるアレッポ県アアザーズ市南部一帯への侵攻を受け、同地で活動する活動家は声明を出し、県北部で活動するアル=カーイダ系の武装集団と「穏健な反体制派」の双方合わせて15組織に対して、既存の武装集団を解体したうえで、「アレッポ軍」として統合し、シリア軍に対する反転攻勢に出るよう呼びかけた。
「アレッポ軍」への統合を要請されたのは、シャーム戦線、「命じられるままに進め」連合、山地の鷹、第1中隊、ヌールッディーン・ザンキー運動、イスラーム軍、ムジャーヒディーン軍、シャーム自由人イスラーム運動、シャーム軍団、イスラーム覚醒大隊、アブー・アマーラ大隊、東部革命家連合、ヤルムーク旅団、第16師団、スルターン・ムラード師団。
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シリア軍とシリア民主軍の攻勢を受け、アレッポ県北部では後述の通り、多くの避難民が発生した。また、アレッポ北部、イドリブ県北部、ラタキア県でのロシア軍の行動を受け、トルコは、ロシアが領空侵犯したと批判した。だが、これに対してロシアは、トルコがシリア領内に軍事侵攻するための準備を行っていると反論した。
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なお、シリア人権監視団は、シリア軍がアレッポ県ヌッブル市、ザフラー町の包囲解除戦を本格化させた2月1日以降、ロシア軍の空爆で506人が死亡、うち89人が民間人、105人がシャームの民のヌスラ戦線などの外国人戦闘員だと発表した。
同監視団によると、このうち民間人は89人(うち子供23人)、シリア軍兵士、国防隊、外国人シーア派戦闘員は143人、イラン人戦闘員は14人、ヒズブッラー戦闘員は3人、シャームの民のヌスラ戦線などジハード主義武装集団戦闘員は274人だという。
ジハード主義武装集団戦闘員274人のうち、シリア人は169人、ヌスラ戦線などの外国人戦闘員は105人にのぼるという。
4.シリア軍はダルアー県北部のアトマーン村を制圧する一方、イブタア町で反体制派と和解合意
アレッポ県北部で攻勢を強めたシリア軍は、ロシア軍の空爆支援を受け、南部のダルアー県でも進軍を続け、5日にはダルアー市北部の反体制武装集団の拠点都市のアトマーン村を完全制圧した。
また8日には、アトマーン村の北部に位置するイブタア町で、シリアの当局者が地元の名士と会談し、停戦協議を行い、和解合意を結んだ。
和解合意は、シリア軍・治安当局が拘束したイブタア町住民の釈放、同地への地上部隊の砲撃とシリア軍、ロシア軍の空爆の停止、食料・医療物資、生活必需品の同町への搬入、町内の公共機関でのシリア国旗の掲揚、イブタア町を実効支配する武装集団によるシリア軍への攻撃の停止と同町の治安活動への従事、合意が履行されなかった場合のシリア軍による介入、を骨子とする。
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このほか、シリア軍は、ラタキア県では、国防隊、ヒズブッラー戦闘員、イラン革命防衛隊、アラブ系・アジア系外国人戦闘員とともに、ロシア軍の指揮の下に、県北部のアーリヤ村および周辺の丘陵地帯で、シャームの民のヌスラ戦線などからなるジハード主義武装集団と交戦、同地を制圧した。
一方、ダマスカス郊外県では、シリア軍はアジュナード・シャーム・イスラーム連合、ヌスラ戦線、イスラーム軍などからなるジハード主義武装集団とダーライヤー市・ムウダミーヤト・シャーム市間の回廊地帯で攻防戦を続け、同回廊を掌握した。
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これに対して、反体制武装集団はアル=カーイダ系組織(アル=カーイダ・メンバーが結成し、アル=カーイダとの関係を否定する組織)のシャーム自由人イスラーム運動がラタキア県のハーフィズ・アサド前大統領の生地カルダーハ市を砲撃した。
5.シリア軍がアレッポ県バーブ市近郊、アレッポ市東部の発電所近郊でダーイシュ(イスラーム国)を掃討する一方、ダーイシュはダマスカスでの自爆テロで対抗
ロシア軍による空爆支援が、アレッポ県北西部などでのシリア軍、シリア民主軍の対アル=カーイダ系組織との戦闘に対して重点的に続けられ、また米国主導の有志連合の空爆が限定的ななか、シリア軍、シリア民主軍のダーイシュ(イスラーム国)に対する攻勢は緩慢なものにとどまった。
シリア軍は、ロシア軍の空爆支援を受け、アレッポ県東部(バーブ市近郊、発電所近郊)ヒムス県東部(カルヤタイン市一帯、タドムル市一帯)、ダイル・ザウル市一帯(ダイル・ザウル軍事飛行場一帯)でダーイシュと戦闘を続け、アレッポ県ではダーイシュの拠点都市の一つバーブ市近郊のスィーン村、ジュッブ・ガブシャ村、ジュッブ・カルブ村、ウワイニーヤ村、そして戦略的要衝バルラヒーン丘を制圧した。
これに対して、西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊が主導するシリア民主軍は、有志連合の空爆支援を受け、ハサカ市南部、ラッカ県アイン・イーサー市一帯でダーイシュと一進一退の攻防を続けた。
一方、米・トルコ領政府が設置合意したアレッポ県北部の「安全保障地帯」の東端(ユーフラテス川沿い)に位置するジャラーブルス市近郊では、トルコ軍がダーイシュと散発的に交戦した。
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こうしたなか、9日、首都ダマスカス県のマサーキン・バルザ地区にある警察クラブ駐車場で爆弾を積んだ車1が自爆し、9人が死亡、20人が負傷する事件が発生した。
事件発生直後、ダーイシュがインターネットを通じて声明を出し、犯行を認めた。
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このほか、ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、ヒムス県の教練キャンプにダーイシュが撃った迫撃砲弾が着弾し、ロシア軍顧問1人が死亡したことを認めた。
また、カナダ政府は、有志連合に派遣していた戦闘機6機の撤退を決定した。
6.各国がシリア避難民への資金拠出を約束するなか、アレッポ県北部での戦闘激化を受け、避難民が増加
ロンドンで、シリア国内の避難民とヨルダン、レバノン、トルコをはじめとする国外避難民の支援を目的とした国際会議「Supporting Syria and the Region」が開催され、約70カ国の代表が参加した。
会議では、主催国の英国が2020年までに12億ポンド(17億5,000米ドル相当)を、クウェートが13億米ドルを、ドイツが11億7,000米ドルを、EUが33億6,000米ドルを、そして米国は9億米ドルを避難民支援のために拠出すると誓約、参加国全体で計100億米ドル以上を新たに拠出することが表明された。
日本からは武藤容治外務副大臣が出席し、3億5,000万ドルを拠出すると表明した。
なお、各国の拠出発表額は以下の通り:
ドイツ:2016年に13億1,100万ドル、2,017年に12億200万ドル
EU:2016年に10億ドル、2017~2020年に13億9,300万ドル
米国:2,016年に9億2,500万ドル
英国:2016年に7億3,100万ドル、2017~2020年に12億300万ドル
日本:2016年に3億5,000万ドル
ノルウェー:2016年に2億7,800万ドル、2017~2020年に8億8,100万ドル
サウジアラビア:2,016年に2億ドル
UAE:2016年に1億3,700万ドル
オランダ:2016年に1億3,600万ドル
デンマーク:2016年に1億100万ドル
クウェート:2016年に1億ドル、2017~2020年に2億ドル
総額:2016年に52億6,900万ドル、2017~2020年に48億7,900万ドル
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アレッポ県北部(ヌッブル市、ザフラー町一帯)でのシリア軍、シリア民主軍の攻勢に伴う戦闘激化を受け、アンダーン市、フライターン市、ハイヤーン町、バヤーヌーン町など反体制武装集団支配地域の住民多数が、トルコ国境に位置するバーブ・サラーマ国境通過所一帯、アアザーズ市一帯、そして西クルディスタン移行期民政局の拠点であるアフリーン市方面に避難した。
『ハヤート』(2月6日付)によると、バーブ・サラーマ国境通過所では数千人が足止めを食い、また国連OCHAのリンダ・トム報道官は、推計で約2万人がバーブ・サラーマ国境通過所近くに殺到、また5,000から1万人がアアザーズ市内に避難、そして西クルディスタン移行期民政局アフリーン地区の中心都市アフリーン市にも1万人が避難していると発表した。
避難民の数に関して、トルコの複数の消息筋は、トルコ国境に殺到している避難民の数が4~5万人にのぼっていると伝える一方、キリス県知事は、シリア領内の国境地帯に設置された避難民キャンプにはすでに6万人が避難、その数は2日後には9万人に、1週間後には15万人に増大するだろうと述べた。
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事態を受け、西クルディスタン移行期民政局(アフリーン地区)は避難民受け入れ態勢を整える一方、YPGは、イドリブ県を拠点とするアル=カーイダ系組織主導の軍事連合組織ファトフ軍の援軍約80人が、アフリーン市一帯を経由して戦闘が続くアアザーズ市方面に入ることを認めた。
他方、トルコ政府も受け入れの意思を表明、メヴリュト・チャヴシュオール外務大臣はトルコ国境近くに押し寄せているシリア人避難民約5万人(推計)のうちの1万人の領内への入国をこれまで認めたと発表した。
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避難民発生をシリア軍の攻勢、そしてロシア軍の空爆の結果とする批判が高まるなか、シリアでの人権侵害を調査するため国連人権理事会調査委員会(パウロ・セルジオ・ピネイロ委員長)が、シリア政府のもとで、殺人、恣意的逮捕・拘束、拘置所・獄中での性的暴行、拷問などの非人道的犯罪が続けられており、それらは戦争犯罪にあたるとする報告書を発表したと伝えた。
7.サウジアラビア、バハレーン、UAEが米主導のもとでシリアへの地上部隊を派遣すると意思表明
サウジアラビア国防省顧問のアフマド・アスィーリー准将は4日、米主導の有志連合がシリア領内でのダーイシュ(イスラーム国)掃討を目的とした地上作戦の実施を決定すれば、「これに積極的に貢献することになろう」と述べ、シリアへの軍事介入に前向きな姿勢を示した。
これを受け、バハレーンのファウワーズ・ビン・ムハンマド・アール・ハリーファ在英大使も6日、「バハレーンは、テロと戦う有志連合の監督のもと、シリア領内に地上部隊を派遣する用意がある…。この部隊はダーイシュ(イスラーム国)とだけ戦うわけではない」と述べた。
さらに、UAEのアンワル・カルカーシュ外務担当国務大臣も7日、「ダーイシュに対する戦闘は地上部隊を必要としており、我々の第1条件は地上部隊が米国の指揮下にあることだ」と述べた。
サウジアラビア国防省顧問の発言を受け、有志連合合同司令部のパトリック・レイダー報道官(大佐)は、歓迎の意を表明した。
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一方、サウジアラビアのアーディル・ジュバイル外務大臣は、訪問先のワシントンDCで記者団に対して、地上部隊を派遣する場合は「有志連合の指揮下でなされる…。作戦において、サウジアラビアが主導的な役割を果たす場合においても、米軍の指揮の下に行われねばならない」と述べた。
また「米国政府は、サウジアラビアが特殊部隊を派遣する用意があることに関して、有志連合が派遣を決定した場合、強く支持」する姿勢を示したと付言、「サウジアラビアは地上部隊の一部を構成することになろう」と強調した。
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こうした動きに対して、シリアのワリード・ムアッリム外務大街居住者大臣は「サウジアラビアの狂気」と批判、シリア政府の許可のない部隊派遣を敵対行為とみなすと述べた。
またイランは、サウジアラビアの意思表明がプロパガンダに過ぎないと一蹴した。
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本稿は、2016年2月上旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事はhttp://syriaarabspring.info/?page_id=26242を参照ください。
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