北欧の料理界で働き方改革!三ツ星レストランが週4日勤務を導入
ノルウェー最高峰のレストランといえば、首都オスロにあるMAAEMO(マエモ)。2010年にオープンし、その15か月後、ミシュランガイドで二つ星を、2016年にはノルウェーで初となる三ツ星を獲得した。「新北欧料理」(ニュー・ノルディック・キュイジーヌ)といわれる、料理の新潮流でを巻き起こす店のひとつだ。予約がとりにくいレストランとなったが、今でもマエモを求めて、世界中か旅人がやってくる。
今、北欧の料理界のトップエリートたちの間で、「働き方」について今一度考えなおそう、という動きがでてきている。
デンマークで最も予約が取りにくいレストランといわれている、NOMA(ノーマ)のシェフを務める料理人レネ・レゼピ氏は、9月に開催されたシンポジウムMADで語った。
「未来のキッチンを左右するのは人だ。私は、ノーマを、人を吸い込んでしまうブラックホールにはしたくはない。料理人たちが次世代の偉大な料理人になれるように、私たち自身が健康であってほしい」(smak.no)。
ノルウェーの経済紙ダーゲンス・ナーリングスリヴ(DN)によると、マエモは、従業員20人に週4日勤務を提案し、すでに導入して1か月半が経っているという。ノーマも週4日勤務を導入予定だ。
料理界の病気
「この業界を、我々自身でなんとかするべき時がきたと、心から思う。この世界に入ってきた若者に、生活が寄り添っていないことは明白。この料理界の病気ともいえる。タフであれという空気がある。でも、なぜそうでなければいけないのだろう?まるで、明日がないかのように働いてきた。自分たちの泡の中に閉じこもって。でも、息を吸って、周りの人たちのことを考える時がきたんだ」と、マエモのシェフ、エスベン・バング氏はDN紙に語る。スタッフたちは、最初は懐疑的だったが、自分たちの生活と労働環境のバランスを考えるべきだと話し合ったという。
「我々は手本となる必要がある。これまでずっとマラソンを走ってきた。これかもマラソンを走り続けていくために、新しい働き方が、そのエンジンとなってほしい」(DN)
従業員が笑顔で出勤できる環境作りをするのがボスの役目
オスロにある人気レストランStatholdergaardenは、既に週4日勤務制を導入して15年目を迎える。週35時間のスタッフの労働時間でも、従業員が喜んで出勤し、創造性が増し、経営にマイナスの影響を与えていない(DN)。
Det er paa tide at vi tar tak i oss selv (DN/smak.no)
ノルウェーでは、ミシュラン星店が次々と閉店することが、今年の2月に話題となっていたばかりだった。
ノルウェーでミシュラン星獲得店が次々閉店する理由は「ストレス」?のびのびした環境を好むシェフたち
DN紙に対し、2013年にオープンしたファウナの店長は「もう限界だ。ファウナは我々が予想していた以上に大きくなってしまった。楽しく営業するはずが、成功への恐怖に頻繁に襲われるようになった」と、原因は経済面ではなく、精神的なものだと語る。
オーナーたちは料理界から去るわけではなく、新しい料理プロジェクトに意欲を燃やす。彼らが別れを告げるのは、ミシュラン星を獲得して有名になりすぎた店だ。「鳴りやまない予約の電話がなくなると思うと、ほっとする」とファウナのキッチンシェフのスヴェンソン氏は同紙に語る。
元々、のんびりと夏休みをとっていたノルウェーの料理界
ノルウェーの有名レストランでも、そこまで過酷な労働環境なのかと思うが、日本ほどではないかもしれない。多くのレストランは、夏休み6~7月の時期には、およそ3週間ほどの夏休みをとる。大都市に世界中からの観光客が集まる時期なのだが、どこもドアが閉まっているので、旅行者が抱く不満要素として観光業界では認識されている。それでも、ノルウェーの人々は、その時期を「稼ぎ時だ。働こう」とは考えない。優先すべきは、自分の時間、大切な人たちと過ごす時間だ。バカンスはしっかりととる。
それでも、ミシュラン星や有名レストランが抱える、人気すぎるがゆえの連日の混雑、そして、「ベストでなければいけない」というストレスは、重すぎるものだ。
「働く時間を減らそう」という動きは政界でも
「働く時間を、もっと減らそう。給料が低くなったとしても」という動きは、料理界だけではない。左翼勢力の政党や団体、緑の環境党なども政策案として唱えていることだ。ソールバルグ首相が率いる保守党は、「もっと働くべき」という姿勢をとる。
マエモらが率先する週4日勤務制は、過労とストレスという課題を抱える料理界に、新しい扉を開かせるかもしれない。ゆったりとしたノルウェー王国の人々に、ストレスは似合わない。ストレスや自分の時間が優先できないことが原因で、店を離れる人がいても、全く不思議ではない。料理業界が、これからも長く続くように、週4日勤務制が従業員たちに新しいエネルギーを与えるのだとしたら、良い試みではないだろうか。
Photo&Text:Asaki Abumi