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ゆりやんレトリィバァ『情熱大陸』で見せた“肉吸い激怒”、記者が取材で感じた「嘘」を捨てた生き方の魅力

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

「もうええて、なんでやねん」「なんでキャンセルされなあかんねん」「返して、私の…。腹立つ」「もう、お腹すいた。はー、くそ。許さん」

ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)の11月26日放送回で、密着を受けたお笑い芸人・ゆりやんレトリィバァは番組中盤で激怒する姿をさらした。

なぜゆりやんレトリィバァは怒ったのか。それは、フードデリバリーで注文した昼食の肉吸いが、配達人によって配達キャンセルをされたからだ。

ゆりやんレトリィバァはその事前、肉吸いを求めて出演劇場のなんばグランド花月近辺の店をまわっていた。しかしいずれの店舗も売り切れ。“肉吸いの口”になっていたため、どうしてもそれを食べたかった。だから注文したのに届けられなかったので、憤った。泣きわめき、机を叩き、髪を振り乱し、椅子から立ち上がって駄々をこねるようにした。

そのあと、きつい目をしながらも「この出来事をネタにしたらどうか」という風に周囲に話して、笑顔を取り戻した。番組はその姿に、「ゆりやんには大人と子どもが同居していた。無垢な欲望を肯定し、その欲望に出口を与える術」というナレーションを重ねた。SNSでも「肉吸いが食べられずに怒っているのがおもしろい」など真っすぐな感情を好意的に受け止める視聴者の感想が目立った。

ただこの“肉吸い激怒”に至るまでのいくつかの場面で、ゆりやんレトリィバァの感情はいろんなところへ行き来しているように見えた。それらがすべて前フリになっていたから、より“肉吸い激怒”がおもしろく映った。

「最近怒ることがない」と言った翌日に激怒。どこまでが本気で、どこまでが笑い?

たとえば自身が主演する映画『極悪女王』(2024年公開予定/Netflix)の撮影中に怪我をした際、一部の週刊誌が「再起不能」などと報じ、それを鵜呑みにした読者らがスタッフを非難したこと。ゆりやんレトリィバァは「記事しか情報源がないじゃないですか、だからしょうがないですけど、みんなそれを見て多方面を叩いたりして。めっちゃつらくて、それが。(スタッフは)安全に私たちのことを第一に考えてやってくださっているのに」と悲しそうに話した。その様子は、腹の底になにかたまっているものがありそうな感じだった。

それでもそのあとの場面で「最近全然、怒ってないんで。思いを乗せたネタってやっぱり怒りの方が大きいんですよね」と怒ることがなくなったと明かした。担当マネージャーも「最近は怒ってない。(ゆりやんレトリィバァに対して)一時期はびびってたときもあったけど」と証言。以前まで、ゆりやんレトリィバァのネタの源には怒りがあった。今はそれがない。穏やかな日々を送るようになったことで、ゆりやんレトリィバァ自身、ちょっと複雑そうでもあった。

そうやって「全然、怒っていない」と話した翌日、“肉吸い事件”で怒りが大爆発。いろいろ前フリがあった分、この激怒はどこまでが本気で、どこまでが笑いとして意識されたものなのだろうかと混乱させられた。

しかもゆりやんレトリィバァは、シリアスな場面もふざけ倒して笑いに変えた“前科”がある。2019年に起きた吉本興業の闇営業問題でコメントを求められた際、「私は子どものときから吉本に入るのが夢で、いま吉本に入らせていただいて…」と神妙な面持ちで話した後、うつむいて両手で目頭を押さえ、そして顔を上げたら二重まぶたの変顔を披露する「泣き真似ネタ」を繰り出した。そういうことがあったからこそ、 “肉吸い激怒”も「ネタかも」と疑う部分があった。

そもそも今回の『情熱大陸』の冒頭も、コロコロチキチキペッパーズのナダルの顔がたくさんプリントされたトレーナーを来て登場。多くの視聴者もきっと、そのトレーナーの柄に釘付けになったはず。それには特に触れられず、真面目に「アメリカ進出」のことなどが語られた。「おもしろい」という意味でいろいろ引っかかるものがあった。どういう気持ちでナダルの顔がプリントされたトレーナーを着てカメラ前に現れたのか。そしてそんなオープニングを迎えたこの『情熱大陸』を、私たちはどこまでまともに取り合って良いのか。視聴者として考えさせられた。

ゆりやんレトリィバァ「誰にでも愛想を振りまかない」

では、ゆりやんレトリィバァは作為的だったかと言われたら、そうではない気もする。番組序盤「こういう立ち振る舞いをしないといけないとか、これができないと使えないやつとか、そういう枠をとっぱらいたいというか」と話していた。つまり彼女はこの時点で、これからは気取ったり自分に嘘をついたりせず、素直に、自由に生きていきたいと口にしていたのだ。

筆者は2023年5月、ゆりやんレトリィバァにインタビューした。その印象は、これまでおこなった無数のインタビューのなかでも上位にくるほどクールな取材対応だった。自分に思い当たらない質問に対しては「ないです」の一言で終わらせて次の話へ移らせる。一つひとつの会話もそれほど長くない。取材に対するサービス精神が良いかと言われたら、そうではない。設けられた取材時間も大幅に前倒しで終了した。少なくともこの日、ゆりやんレトリィバァにインタビューしたほかのいくつかのメディアや取材者に印象を聞いても同様だった。

でも決して「おもしろみに欠けた」「悪い印象だった」というわけではなかった。短いながらも言葉に芯が通っていたからだ。特に興味を引いたのが、「これまで守ってきたけど最近は『守らないようにしよう』と考えているのは、誰にでも愛想を振りまかないということですね」「今まではどんなときも、誰にでも愛想を振りまいていました。でももう、自分に嘘をつきたくないんです。愛想を振りまくのは、結局は自分を感じ良く見せたいからじゃないですか。ずっとニコニコしていることがしんどくなってきちゃって」というコメント。

ゆりやんレトリィバァは、自分の生き方として「嘘」をやめた。マスコミ対応だけではなく、すべてにおいても。筆者は、上記のコメントを伝えてくれていたからこそ、クールなインタビュー姿勢であっても嫌な気持ちにはならなかったし、いろいろ納得もさせられた。

嘘がないからこそ「一括で買ったベンツで帰宅」と歌える

愛想を振りまくことをやめ、自分に嘘をつくことをやめたゆりやんレトリィバァ。だからこそ、Awich, NENE, LANA, MaRI, AI & YURIYAN RETRIEVERとして参加した「Bad B*tch 美学 Remix (Prod. Chaki Zulu)」(2023年)ですばらしいラップを発表することができたのではないか。

「一括で買ったベンツで帰宅」「Netflixでも主役はるし」と堂々と成功体験をアピールし、「まだおもんないとか言ってんの? 文句があんならトロフィー見せろ」とアンチを挑発。さらに「こちとらまじで覚悟が違う」「ふざけ倒すのがわたしの美学」とぶつける。鳥肌が立つほど格好良く、リアルであり、きわめて内面的なリリックである。本音で生きることを選択した人だから歌える赤裸々さだ(そしてこのラップには間違いなく怒りが乗っている)。

“肉吸い激怒”も、ナダルの顔がプリントされたトレーナーも、ラップも、そしてアメリカでのお笑い挑戦も、すべて「嘘」のない生き方からくるもの。どれも素直な感情である。そんな現在のゆりやんレトリィバァは、とても素敵に見える。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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