【なぜ仮面ライダーは願いを叶えたかったのか?】戦わなければ生き残れない!ライダーバトルの正義とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
早いもので衣替えのシーズンですが、皆さまいかがお過ごしですか?
さて、今回のテーマは「騎士(ナイト)」です。
騎士とは、馬に乗っている武士、あるいはナイト(knight)の訳語といわれています。一方でナイトも、中世の騎士や主義などに献身的に尽くす勇士を指す言葉であり、英国でも階級を象徴する言葉として使用されています。
私達が暮らす日本でも、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスによる、騎士になりきった男の冒険を描いた「ドン・キホーテ」の物語が浸透していますが、これは現実と物語の区別がつかなくなった男の冒険談でした。
そんな「騎士(ナイト)」ですが、我が国が世界に誇る「特撮ヒーロー番組」の歴史でも、度々使用されてきたモチーフでもありました。
今回は、そんな「騎士(ナイト)」の特撮ヒーローの中で、極めて悲劇的な宿命を背負ったヒーローに焦点を当ててみたいと思います。
彼の名は「仮面ライダーナイト」。
仮面ライダーナイトは、2002年に放送された東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー龍騎』に登場した仮面ライダーのひとり。
つまりナイトは番組タイトルのとおり、厳密には主人公ではありません。しかし、『仮面ライダー龍騎(2002)』本編において、彼は主人公・龍騎と行動を共にするだけでなく、共闘あるいは対立を繰り返し、互いに唯一無二の関係となった、いわば「もうひとりの主人公」というべき存在でした。
仮面ライダーナイトは、「とある事情」から仮面ライダーとなる道を選び、仮面ライダー同士が己の願いを叶えるために殺し合う世界へ身を投じていったヒーロー。
本記事では、そんな戦わなければ生き残れない哀しき宿命を背負った青き騎士のライダー、仮面ライダーナイトの物語を辿ってみたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【昭和から平成へ】生まれ変わった仮面ライダーシリーズ!『クウガ』から始まった平成仮面ライダーシリーズ栄光の歴史とは?
さて、ここからは仮面ライダーナイトのお話に入る前に・・・『仮面ライダー龍騎(2002)』を輩出した仮面ライダーシリーズの歴史について、少しだけご紹介をさせてください。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。「変身!」というかけ声と決めポーズで、主人公の姿がパッと格好良いスーパーヒーローに変わり、ショッカーの戦闘員達をなぎ倒し、恐怖の怪人を「ライダーキック」(必殺技)でやっつける描写が、子ども達の心を掴んだのです。
その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーX(1974)』、『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになりました。
時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』であり、本作で試みられたのが、仮面ライダーシリーズにおける「既成概念の破壊」でした。
つまり「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」、「奇声を放つ戦闘員の集団と、それを率いる悪の怪人」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた概念、いわば「お約束」を破壊し、平成という時代に適合した新たな仮面ライダーを創造しようとしていたのです。
その結果、『仮面ライダークウガ(2000)』は、主人公(五代雄介)が古代遺跡から発掘されたアークル(変身ベルト)を身に宿して変身する仮面ライダークウガが、警察組織と共に、古代の封印から解かれた戦闘民族(グロンギ怪人)相手に「みんなの笑顔を守る」ために戦う物語が描かれました。
これまでの仮面ライダーシリーズの既成概念を破壊する、全く新しい世界観で好評を得た『仮面ライダークウガ(2000)』に続き、シリーズのバトンは次回作『仮面ライダーアギト(2001)』へと継承されました。本作では4人の仮面ライダーが登場し、それぞれが己の信念のために「闇の力」が送り込む怪人と戦う物語が展開されました。『アギト(2001)』に登場する4人の仮面ライダー達も改造人間ではなく、超常的な力から仮面ライダーとなった存在のほか、なんと警視庁の人間が怪人と戦うために強化服を装着し、仮面ライダーとして戦闘に参加する姿も描写されました。
つまり、もはや「仮面ライダー=改造人間」ではなく、特別な力のない一般人でも何かしらの必要な手続き(ベルトの入手、アーマーの装着等)を踏めば、誰でも仮面ライダーになり得る可能性が『クウガ(2000)』、『アギト(2001)』を通じて描かれており、この「誰でも仮面ライダーになれる」展開は、平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』において、大いに飛躍することになります。
【戦わなければ生き残れない!】13人の仮面ライダー達のバトルロワイヤル!目覚めぬ恋人のために変身する仮面ライダーナイトはどんなライダー?
『仮面ライダークウガ(2000)』からはじまり、『仮面ライダーアギト(2001)』を経て継続されてきた平成仮面ライダーシリーズは、シリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』の放送を迎えることになります。
『仮面ライダー龍騎(2002)』は2002年から2003年にかけて、全50話とテレビスペシャルが放送されました。本作の物語は、鏡の中にある世界(ミラーワールド)を舞台に、13人の仮面ライダー達が己の願いを叶えるために殺し合い、最後のひとりになった者が願いを叶えることが出来るという、仮面ライダー同士のバトルロワイヤルが描かれました。
「仮面ライダーが怪人(本作ではミラーモンスター)を倒す」という、仮面ライダーシリーズ最低限の醍醐味は堅持しつつも、「世界の平和」ではなく己の欲望のために仮面ライダー同士が殺し合うという展開、さらに本作に登場する怪人達(ミラーモンスター)も、鏡の中の世界(ミラーワールド)から人を襲い、仮面ライダーに倒されるだけでなく、仮面ライダーに力を与えてくれる存在としても描かれており、モンスターと「契約」をすることで、仮面ライダーはモンスターの力を使うことが出来るという独特な試みも行なわれました。
仮面ライダーの必殺技である「ライダーキック」等も、カードに宿るモンスターの力を使って放つという、ライダーと怪人(ミラーモンスター)が協力関係にあることも、これまでのシリーズになかった大きな魅力の一つでした。
そんな『仮面ライダー龍騎(2002)』は、13人の仮面ライダーが登場する物語。よってひとり一人個性豊かな仮面ライダーが登場しました。仮面ライダーがそれぞれの信念を掲げ、己の願いのために力を競い合いながらひとり、またひとりとライダーが儚く散っていく・・・という展開を通じて、仮面ライダーが抱えるそれぞれの事情を描いていきました。
意識不明状態の恋人を助けるために戦う仮面ライダーナイト、悪徳刑事が変身した仮面ライダーシザース、不治の病のため「永遠の命」を求めて弁護士が変身した仮面ライダーゾルダ、情緒不安定な性格で「英雄」になりたい承認欲求に取り憑かれた仮面ライダータイガ等、従来の仮面ライダーシリーズのような世界の平和ではなく、己の「願い」のために仮面ライダー達は壮絶なバトルを繰り広げます。
そんな個性豊かな仮面ライダー達の中から、本記事にて焦点を当てるのは、仮面ライダーナイト。
仮面ライダーナイトに変身するのは、秋山蓮という24歳の青年。冷静沈着でクールに振る舞う反面、感情的かつ喧嘩っ早く、相手の胸ぐらを掴むこともしばしば(主に仮面ライダー龍騎こと城戸真司)。お金にはケチな性格なのが玉に瑕(このお金を巡る一件が龍騎とナイトを繋ぐ一因となる)。主人公・仮面ライダー龍騎にとってライバルであり、良くも悪くも天然で単細胞な龍騎(真司)の性格をよく知る理解者でもありました。
彼の願いは「意識不明の重体となった恋人を再び目覚めさせる」ことであり、この願いを叶えるために、蓮は仮面ライダーナイトとなって、仮面ライダー同士の殺し合い(ライダーバトル)に参加していました。
蓮は恋人を助ける願いを叶えるために、仮面ライダーナイトを名乗って他のライダーに戦いを挑みつつも、その感情の底にあるのは心優しい性格。時に蓮は、人を襲う怪人(ミラーモンスター)から人々を守る戦いに身を投じることも多々ありました。
そんなナイトの前に現れたのが、本作の主人公・仮面ライダー龍騎(真司)ー。
偶然仮面ライダーへ変身する際に必要なカードデッキを入手したことから、真司は仮面ライダー龍騎となり、鏡の中にある世界(ミラーワールド)を舞台とした仮面ライダー同士の殺し合い、さらにミラーワールドに潜み、人を襲う怪人(ミラーモンスター)の存在を知ります。
お人好しで正義感は強いものの、単純な性格である真司が契約したのは赤く巨大な竜のモンスター(ドラグレッダー)。ナイトは当初、そんな「かなりの大物」と契約した龍騎(真司)を警戒し、「今のうちに潰しておいた方が良さそうだな」と戦いを挑みますが、これに怒ったヒロイン(蓮の下宿先で働く女性)が建物のガラスをたたき割った結果、ナイトは戦意喪失ー。
ビルのオーナーに蓮は弁償代(3万円)を払いますが、今度は真司に蓮が弁償代と請求書を送るための彼の連絡先(名刺)を要求。真司が(しぶしぶ)名刺を蓮に渡したことを契機に、以降も蓮と真司の交流が続いていくことになります(そもそもナイトが龍騎を突然襲ったことが事の発端ではありますが・・)。
蓮の願いは、「意識不明の重体となった恋人を再び目覚めさせる」こと。
これに対し、真司の願いは「ミラーモンスター(怪人)から人を守り、ライダーバトルを止める」こと。
両者も「人を助ける」という目的は共通ですが、恋人のためにライダーバトルを肯定する蓮と、人々を守る正義感からライダーバトルを否定する真司は対立し、感情的にぶつかり合うことも多々ありました。
しかし彼と何度も行動を共にしていった蓮も、やがて「人を守るためにライダーになったんだから、ライダーを守ったっていい!」と主張する真司のことを少しずつ理解していくようになります。
戦いは激しさを増し、次々に散っていく仮面ライダー達。
ナイト(蓮)と龍騎(真司)は、タイムリミットが迫るライダーバトルにおいて、自問自答しながらも苦しい戦いを続けます。ナイトと龍騎も互いに戦いますが、どうしても龍騎(真司)はナイト(蓮)に止めをさせません。そんな両者ですが、彼らを引き裂く悲劇が起こりました。
それは「真司の死」でしたー。
物語の終盤、ついに鏡の世界(ミラーワールド)から、私達の生きる現実世界へと飛び出したミラーモンスター達は次々に街や人を襲います。
真司は生身の状態でミラーモンスターの襲撃から子どもを庇い、吐血。
白い車に寄りかかりますが、車には大量の血痕が残されていました。
そんな真司のもとに真っ先に駆け寄ったのが、蓮(ナイト)でした。
「俺さ・・・昨日から、ずっと考えてて・・・それでも、わかんなくて・・・でも、さっき思った。やっぱり、ミラーワールドなんか閉じたい。戦いを止めたいって。きっと・・・すげぇ辛い思いしたり、させたり、すると思うけど・・・それでも、止めたい。それが・・正しいかどうかじゃなくて、俺も・・・ライダーのひとりとして、叶えたい願いが・・・それなんだ。」(真司)
蓮は涙ぐみ、声を震わせ応えます。
「あぁ・・・だったら生きてその願いを叶えろ!死んだら・・・終わりだぞ!」(蓮)
真司は、自身を掴む蓮の手に自分の手を重ねます。
「そうなんだよな・・・蓮は・・蓮はなるべく・・・生きろ・」(真司)
「お前こそ生きろ!城戸・・・死ぬな・・・死ぬな!」(蓮)
「お前が・・・俺に、そんな風に言ってくれるなんてな・・・」(真司)
真司は蓮に最期の言葉を遺し、静かに目を閉じ、頭を垂れます。
「城戸・・・おい城戸・・・城戸ぉーーーーーー!」(蓮)
車に寄りかかる城戸の亡骸を背に、蓮は新たな戦いに向かいます。
その目線の先には、このライダーバトルの主催者(神崎士郎)が佇んでいました。
「お前が最期に信じるものを見つけたように、俺にも信じるものはある。ライダーのひとりとして。」(蓮)
ライダーバトルの主催者(神崎士郎)が使役するオーディンに勝利し、ライダーバトルの勝者となったナイト(蓮)は恋人を助けたいという願いを叶えます。
蓮の恋人(恵理)は病室で目を覚まします。
「蓮・・・そんなところで寝てると、風邪引いちゃうよ。」(恵理)
彼女が目覚めた先には、既にこと切れた蓮の姿があったのでしたー。
蓮(ナイト)と真司(龍騎)、2人の仮面ライダーを巻き込んだライダーバトルの行く末は、両者の死という哀しい展開が描かれた『仮面ライダー龍騎(2002)』。
「13人の仮面ライダー同士のバトルロワイヤルを描く」という、平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』における試みは、賛否両論を呼びつつも大成功し、女性ファンの支持拡大にも大きな影響を及ぼしました。
好評を博した『仮面ライダー龍騎(2002)』は放送終了後、海外版(英題『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT』)の制作や、後続の仮面ライダーシリーズにおいても龍騎(真司)やナイト(蓮)が出演し、後輩の平成・令和の仮面ライダー達と力を合わせる展開も描かれる等、その輝ける勇姿は令和を迎えた現在も健在です。
(※上記の作品は動画配信サービス「東映特撮ファンクラブ」(外部リンク)にて配信中ですので、宜しければチェックしてみて下さいね)。
「いつまで続くんだろうな・・・俺達の戦いは。」(蓮)
「俺が終わらせるまでだよ。」(真司)
ライバル同士、背を向けつつも、実はお互いを理解し合っている2人のライダー。
彼らの戦いの物語は、令和という新時代にどう紡がれていくのかー。
私も1ファンとして、これからも拡がっていくであろう『仮面ライダー龍騎』の物語を応援し続けていきたいと思います。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.3 仮面ライダー龍騎』、講談社
・鈴木康成、『語れ!仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
・鈴木康成、『語れ!平成仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ