スターリンク個人契約は災害対策に有効?特徴と注意点をチェック
※(1/14)スターリンクの屋外利用について、問い合わせの回答などを追記しました
令和6年能登半島地震の話題で、衛星通信サービスの「スターリンク(Starlink)」があれば通信状況が改善されるのではないかという声があります。
携帯電話会社は平時から衛星通信を使った移動基地局などを運用しており、今回の能登半島地震でもNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルともに、衛星通信を用いた移動基地局を現地に投入しています。
スターリンクに限った話でも、業務提携を行っているKDDI(au)が移動基地局のバックボーン回線として活用するほか、法人向けを取り扱うKDDIやソフトバンクが被災地に提供しています。
とはいえ、個人や企業でもスターリンクを用意しておけば災害時でも安心では?と興味を持った方もいるでしょう。そこで、実際にスターリンクをどのように利用すれば効果的に活用できるのか、実際のところを見ていきましょう。
Xのイーロン・マスク氏が手掛ける「スターリンク(Starlink)」
スターリンクを改めて説明すると、X(旧Twitter)やテスラで知られるイーロン・マスク氏が手掛ける、スペースX社の衛星通信・衛星インターネットサービスです。
同社では自社開発のロケット(Falcon 9)を用いて5000機以上(2024年1月時点)の低軌道(LEO)通信衛星を打ち上げ、衛星コンステレーションを構築。対応アンテナさえあれば、地球上の全域で高速インターネットを利用できるよう整備を続けています。将来的には4万2000機まで打ち上げる計画を持っています。
日本では前述のとおり、KDDIがスペースXと業務提携しており、設備や技術面での協力関係にあります。契約ですが、法人向けはKDDIのほかにもソフトバンクなどが取り扱っています。個人契約の場合は、スターリンクの公式サイトやコストコでアンテナを購入し、オンライン契約すれば利用できます。
この地球規模の衛星インターネットにより、広大な面積を持つ国や海上、飛行機でも快適なインターネット環境を提供できます。日本は山がちで居住できるエリアが狭いうえに光回線の整備が進んでいることから、当初はあまり注目されていませんでした。ですが、ウクライナ支援にて素早く提供されたことで、緊急時に便利な通信回線として知られるようになっています。
実際に日本で個人契約する場合、必須のスタンダードキットが5万5000円(セール時に3万円前後で購入できる場合もあります)、料金プランは月額6600円から(スタンダードプラン、契約住所のみでの利用の場合)です。
平時かつ空などの通信環境が良好ならダウンロード100Mbps前後、アップロード10Mbps前後を期待できます。光回線を利用できない山中や離島の住居にとっては魅力的なサービスといえるでしょう。
衛星通信や衛星インターネット自体の歴史は古く、法人向け中心だとインマルサットやIrigium、近年だとOneWebなどのサービスが存在します。また、AmazonのProject Kuiper 、AST SpaceMobile、銀河航天などもサービス実現に向けて現在実験を進めています。ただ、現時点で個人でも契約しやすく高速なサービスは、事実上スターリンクのみとなっています。
今後のスターリンクですが、携帯電話が圏外のエリアでスターリンクの衛星と手持ちのスマートフォンを直接接続し、低速ながらもメッセージの送受信などを行えるサービスが計画されています。日本ではKDDI(au)が2024年内の提供開始を目指しており、開始すれば災害時のほか、山や海での遭難時に役立つことが期待されます。
災害時に孤立の恐れがある山中や離島に最適
災害対策でスターリンクの導入を考える場合、有用に活用できるのかが重要です。結論から言うと、有用なのは災害で道路や電力インフラが被害を受けると孤立しかねない山中や郊外、海が荒れると着岸できない離島といった地域です。
日本は山岳地帯と離島が多く、令和6年能登半島地震で被災した能登半島に限らず孤立する恐れのある地域が多くあります。
そういった地域で、災害による交通網の寸断や停電といった深刻な被害を受け、携帯電話網や光回線、固定電話などの連絡手段が断たれた場合、スターリンクとポータブル電源、発電機といった非常用電源の組み合わせはかなり有用です。
なお、個人向けのスターリンク(スタンダードキット)は平均消費電力が50~75Wあたりです。山中や離島での災害対策用でほかの電気機器も利用することを考えると、10kg以上で価格も10万円以上しますが、容量1000Wh以上のモデルをお薦めします。
発電機や車のシガーソケットを利用できるあいだに、電力をポータブル電源にも貯めておきましょう。ポータブル電源は貯めた電力を長期間、必要なぶんだけを出力できます。このため、スターリンクのほかスマホやモバイルPC、USBに対応したポータブル機器の利用や、LED照明の利用に向いています。
都市部では繋がらない可能性がある
一方で、都市部や周辺の住宅地の災害対策にスターリンクが有効かというと、やや難しいと考えたほうがいいでしょう。
というのも、スターリンクを利用するには空が広く開けた場所が必要です。室内やマンションのベランダに設置しても上空の衛星を捕捉できず、初期設定を進めることすらできません。マンションやビルで利用するには、屋上などに設置するためのオーナーや組合の許可が必要になる場合があります。
一戸建て住宅の場合は、周りに高い建物がないという条件のもと、ポールなどを用いて、できれば屋根より高い位置にスターリンクのアンテナを設置する工事が必要です。もし地上に置いて利用したい場合は、高台の立地や広い庭を持っているか、公園や海、川に面しているといった条件のクリアが必要になります。
スターリンクに待望の日本向け「屋外モード」を追加
「車でスターリンクを運んで、広場やキャンプ場で利用すればいいのでは?」スターリンクのサイトでも、そういった利用方法の写真が掲載されています。以前は、スターリンクを屋外で利用すると日本の電波法に違反することか利用するのが難しい状況でした。ですが、2023年末からスターリンクの仕様が改善され、屋外でも利用しやすくなりました。
2024年1月現在、スターリンクの設定を「屋外モード」に設定することで、日本の屋外でもWi-Fi接続(2.4GHz帯、屋外DFS対応の5.6GHz帯)を利用できるようになりました。ただし、スターリンクのWi-Fiルーター部はアンテナ部と違って屋内向けの防滴設計なので、車内に置くなど雨よけをしたうえで利用しましょう。
以下、スターリンクへ日本国内の「屋外モード」について問い合わせた内容の抜粋です。
とはいえ、スターリンクを標準設定のまま日本の屋外(車中も含む)で利用すると、屋内専用の一部帯域(5.2~5.3GHz帯)のWi-Fiを停止できず電波法に違反する点は変わりません。必ず設定を変更しておきましょう。
「屋外モード」設定方法
都市部ではeSIM副回線など、2回線契約でリスクを分散
とはいえ、交通網の充実した都市部ではインフラが被害を受けても完全に孤立する可能性は低く、電力や携帯電話網、光回線といった通信網も早期の回復を期待できます。都心部においてスターリンクなどの衛星通信は、自治体や企業、町内やマンションの管理組合レベルならともかく、個人で用意するにはやや過剰な設備といえます。
都市部で災害時の通信対策を行う場合は、スターリンクを検討する前にスマートフォンの2回線目の契約を考えたほうがいいでしょう。
ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは、基本的に独自の設備でエリアを構築しており、災害時に1社が使えなくても、他社なら使えるという場合も存在します。このため、自身のスマホや家族で、異なる携帯電話会社の回線を用いたサービスを契約しておけば、災害対策になるというわけです。
現在のスマートフォンの多くは、eSIMを用いて副回線サービスや他社プランを追加で契約し、1台で2回線ぶんの契約を使い分けられます。うまく活用しましょう。