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オバマ政権は人権攻撃で金正恩政権を降参させられるか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米国から「人権抑圧者」と烙印を押された金正恩委員長

オバマ政権は核とミサイルを手放さない金正恩政権への外交圧力の最後の手段として、金正恩委員長と党・軍幹部ら11人を「人権抑圧者」「人権犯罪者」と告発し、「制裁対象」に指定した。資産凍結や米国人との取引禁止、米国への入国禁止などが制裁対象とされるが、直接的な効果は望めないものの金正恩政権には外交、心理的プレッシャーにはなる。

なぜ、オバマ政権は外国の最高指導者を「制裁対象」とする前代未聞のカードを切ったのか?その理由は、外交圧力や経済制裁では北朝鮮の核・ミサイル開発をどうにも止められないことによるオバマ政権の焦りと怒りによるところが大きい。

オバマ大統領は政権発足以来、北朝鮮に大量破壊兵器を放棄させる手段として独自制裁を科してきた。しかし、現実には核開発もミサイル開発も阻止できなかった。以下、時系列的に検証してみる。

2009年2月3日

米財務省はミサイルとその関連技術の取引や大量破壊兵器の拡散活動に介入してきた朝鮮鉱業産業開発会社(KOMID)、Mokong貿易会社、SINO-KIの3社に制裁を科した。

2009年4月5日 

3度目の「テポドン」(衛星)発射

2009年5月25日

2度目の核実験を実施

2009年8月11日

米財務省はミサイルなど大量破壊兵器(WMD)拡散活動の関連で朝鮮クァンソン銀行(KKBC)を金融制裁の対象に指定。同銀行はすでに制裁対象に指定していたタンチョン商業銀行と朝鮮ヒョッシン貿易会社の金融取引を支援してきた疑いをもたれていた。

2009年9月8日

米国務省は大量破壊兵器開発に関与したとして北朝鮮の原子力総局と、朝鮮タングン貿易会社を制裁対象に追加。朝鮮タングン貿易会社は大量破壊兵器の研究・開発を支援している北朝鮮第2自然科学アカデミーに属する。

2009年10月23日

米財務省は大量破壊兵器拡散に関与したとしてアムノッカン開発銀行と、同行を経営管理するタンチョン商業銀行のキム・トンミョン会長に対して資産凍結などの制裁措置を発動した。アムノッカン開発銀行は2006年設立。

2009年12月

米財務省は北朝鮮の要注意金融機関として「クムガン銀行」を新たに追加。財務省が注意を喚起した北朝鮮の金融機関は全部で18行に上る。

2011年4月19日

米財務省は北朝鮮の武器輸出入業者「グリーン・パイン・アソシエーティッド」社の商取引に協力したとして、北朝鮮の金融機関「バンク・オブ・イーストランド」(別名ドンバン銀行)を新たに金融制裁対象に指定。北朝鮮の武器密輸などに関連した個人や団体に対し在米資産凍結などの金融制裁を可能にした2013年8月の大統領令に基づく措置。

2012年4月13日

4度目の「テポドン」(衛星)発射

2012年12月12日

5度目の「テポドン」(衛星)発射

2013年2月12日

3度目の核実験を実施

2014年7月23日

米財務省が貨物船「チョンチョンガン号」の武器不法取引絡みで船社2社を制裁対象に含める。

2015年1月2日

北朝鮮がソニーの米映画子会社に対しサイバー攻撃を行ったとして米財務省はレコネッサンス・ジェネラル・ビューロー(RGB)(別称・偵察総局)、コリア・マイニング・デベロップメント・トレーディング・コーポレーション(KOMID)、コリアン・タングン・トレーディング・コーポレーションを制裁対象に指定。

2015年7月23日

米財務省は北朝鮮の武器取引に関わったとしてシンガポールの船舶会社「SSC」及びレオナルド・ライ会長を制裁対象に指定。

2015年10月2日

米国務省は大量破壊兵器に関与したとして朝鮮鉱業開発会社とヘソン貿易会社を制裁対象に指定。

2016年1月6日

4度目の「核実験」を実施

2016年2月7日

6度目の「テポドン」(衛星)を発射

2016年2月18日

北朝鮮に対する包括的制裁強化法である「2016対北制裁と政策強化法案(H.R.757)」が発効。オバマ大統領が法案を作った下院を通過して37日で北朝鮮制裁法を発効させたことは戦争状況を除いて極めて異例である。この法の発効で法的に米国は北朝鮮に対してさらに強力な独自制裁を加えることが可能となる。

2016年3月2日

米財務省は核実験とミサイル発射への独自制裁として個人11人、機関5つを制裁対象に指定。個人の中には黄秉西軍総政治局長、李容茂、呉克烈両国防副委員長、朴英植人民武力相らが含まれた。

2016年3月16日

米財務省は新たな制裁対象として国家安全保衛部要員としてシリアで活動するチョ・ヨンチョルとエジプトで活動するリ・ウォノら2人と労働党宣伝部など15組織・船舶20隻を新たに指定。北朝鮮の外貨調達窓口で軍と関係が深いイルシム国際銀行も含まれた。年間約10億ドルを稼ぐとされる石炭産業など鉱業分野や、大量破壊兵器の運送に関わる船会社も制裁対象となった。

2016年6月1日

北朝鮮を「主要マネーロンダリング憂慮国」に指定。米金融機関と北朝鮮の金融機関との取引はすでに禁じられているが、新たに第三国にある口座を経由した取引が禁止されることになった。

2016年7月5日

米国務省は北朝鮮の個人1人、企業3社を制裁に指定。「ナムフン貿易会社」と「センピル貿易会社」と軍事協力関連部署の「General Department of Military Cooperation」の3社と、「ナムフン貿易会社」のカン・ムンギル社長。ロシアの企業3社にも制裁を科す。

2016年7月6日

米財務省は人権侵害の責任者として金正恩朝鮮労働党委員長を含む政権幹部ら11人と政府機関など5団体を制裁対象に指定。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

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