英最高裁、驚愕の判断で「議会閉会は違法」と結論付ける 窮地に陥ったジョンソン首相
英最高裁が、24日、満場一致で驚くべき判断を下した。
ジョンソン英首相による、約5週間の議会閉会を「違法」としたのだ。議会の干渉なしに、英国の欧州連合(EU)からの離脱に向けて道筋を作ろうとしていた首相の試みは、打ち砕かれた。
現在、英国の議会は9月10日から10月13日まで、約5週間にわたり閉会中だ。閉会は、首相の助言によってエリザベス女王が決定したが、首相の狙いは議会を「黙らせる」ことだったと言われている。
政府側は、「新たな政策の実現には、一度議会を閉会し、新たな会期が必要になる」、と閉会の理由を述べていた。
8月末、閉会を伝える手紙が送られた
首相は、EU側と離脱後の条件を決めずに、「崖から飛び落ちるようにして」離脱する、いわゆる「合意なき離脱」も辞さない離脱強硬派だ。
一方、与党・保守党内及び野党の中では「合意なき離脱だけは、避けたい」という声が大半だ。野党議員の中にはEUから離脱するかどうかの国民投票を再度行うべき、という政治家も多い。
議会の夏休みが終了する直前の8月28日、首相は議員に向けて手紙を書き、9月上旬から10月中旬まで、議会が閉会となることを告げた。例年、この時期に議会は休会するが、これは政党の党大会があるためで、時期はかなり短い。5週間は異例の長さである。
EUからの離脱期限(10月31日)に向けて、議論をする日が大幅短縮されることを知った議員らは大抵抗し、閉会の違法性を問う裁判が複数開始されたものの、9月10日、議会は閉会されてしまった。
これまでに、北部スコットランドの裁判所は議会閉鎖を違法とし、政府が不服として上訴。ロンドンの裁判所は同様の訴訟で、議会閉鎖の是非は「司法判断に適さない」としたため、原告側が上訴した。
最高裁は2件を一括して処理することにし、審理は19日まで3日間にわたって行われた。判決が出たのが、24日である。
最高裁の判断とは
政治家の判断に、司法が口を出す。これだけで、「いかがなものか」という懸念が出るのは、当然だろう。
しかし、最高裁の判断の文書(サマリーと完全版)の論旨は、明確だ。
以下、サマリーから要点を拾ってみたい。
ー司法の場がこの問題を扱うのは、合法なのか?
最高裁:合法である。政府の行動に対して、司法が合法性を問う行為は過去何世紀もあった。
国王には「君主の特権」がある。裁判のいずれの当事者も、これに対して最高裁が司法権を持つことについては認めている。
しかし、特権にも限度がある。
-君主特権の限度とは?
これを判断するため、最高裁は憲法にある2つの原則を適用した。
1つは、国の主権となる、議会の存在だ。議会は国の誰もが守るべき法律を作る。もし、時の政権が君主特権を盾に議会の立法能力を阻止することがあれば、その存在が台無しになる。
もう1つの原則は、議会の説明責任だ。首相や内閣に責任ある行動を取らせるのは、議会の仕事になる。
そこで、次の疑問が出てくる。
―今回の閉会は、議会がその憲法上の機能を実行するための能力を、正当な理由なしに、阻害したと言えるのかどうか?
サマリーは、この議会閉会は普通の閉会ではなかった、と説明する。
夏休み明けから離脱予定日10月31日までの8週間の中で5週間が閉会となり、この間、議会は憲法上の機能の実行を阻止された。
議会の「閉会」は、「休会」とは異なる。閉会となれば、上下院で法案の審議も採否もできなくなる。政府の政策についての審理もできなくなる。担当大臣に質問し、その答えを議会の委員会で議論することもできない。途中まで議論をしていた法案はすべて、廃案措置となり、新会期で最初から始めることになる。休会の場合は、上下院での審議はないものの、ほかの活動は続行できる。
また、今回の閉会が特別な時期に行われることにも留意する必要がある。10月31日の離脱日には、英国の憲法に根本的な変化が起きるはずだ。有権者に選ばれる議員が法案を審議する下院は、どのように変化が起きるかについて意見を表明する権利がある。(閉会による)私たちの民主主義の基盤への影響は極端に大きい。
最高裁が聞いた限りでは、このような極端に大きな影響を引き起こす行動を正当化する理由は示されなかった。
従って、最高裁は、議会閉会への首相の(エリザベス女王への)助言は違法であったと結論付ける。理由は、この閉会は、議会が憲法上の機能を実行するための能力を、合理的な理由なしに、阻止するあるいは阻害するからだ。
議会は閉会していない。最高裁の11人の裁判官の一致した判断である。
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以上、要旨を紹介してみた。分かりやすいように言葉を補ったり、言い換えたりした部分がある。詳細は原文を参考にしていただきたい。
下院議長のジョン・バーコウ氏は、25日、議会が再開すると述べている。
今、国連総会出席のためニューヨークにいるジョンソン首相は、予定を切り上げて帰国するだろうか?