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横山典弘が語った「ゴールドシップ初騎乗で史上初の宝塚記念連覇に導けた理由」とは?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
14年、宝塚記念を連覇したゴールドシップと鞍上・横山典弘騎手

難しい馬を託された名手

 今週末、阪神競馬場で宝塚記念(GⅠ)が行われる。ここで昨年に続く連覇を狙うのがクロノジェネシス(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)だ。今年で62回目となる春のグランプリ。過去に連覇したのはゴールドシップただ1頭。2013、14年の話だった。

14年、宝塚記念連覇を決めた直後のゴールドシップ
14年、宝塚記念連覇を決めた直後のゴールドシップ

 3歳時の12年には皐月賞(GⅠ)と菊花賞(GⅠ)の2冠を制すと、更に有馬記念(GⅠ)で古馬を撃破して優勝。4歳時の13年は先述した通り宝塚記念を勝利した。これらの記録だけでも当時のトップホースだった事が分かるだろう。

 しかし、そんな高い能力をコンスタントに発揮出来る馬ではなかった。13年の天皇賞(春)(GⅠ)で5着に敗れるとGⅡの京都大賞典でも5着。また、ジャパンC(GⅠ)では15着に大敗するなど、掴みどころのないタイプだった。

 父ステイゴールドは現役時代、レース中に再三フラフラと寄れて走った。それどころかUターンしてしまったレースもあった。その気性の難しさは産駒に受け継がれる事も多く、ゴールドシップのクセ馬ぶりも正にこの父の血から来ていると思わせた。運動中に立ち上がる事も一再でなく、関係者は皆、苦労をしていた。14年には阪神大賞典(GⅡ)を勝利したものの天皇賞(春)(GⅠ)では7着。掲示板にも乗れずに終わると、連覇のかかる宝塚記念での鞍上を、陣営は名手・横山典弘に託した。

直前の天皇賞では豪州の名手C・ウィリアムズが騎乗したが7着に敗れていた
直前の天皇賞では豪州の名手C・ウィリアムズが騎乗したが7着に敗れていた

初コンビも好騎乗を披露

 指名を受けたトップジョッキーはまず3週連続で栗東トレセンへ出向き調教に騎乗。当時、その時の模様を次のように語った。

 「1週ごとにお互いに慣れていったけど、そもそも聞いていたほど悪い馬とは感じませんでした」

 レース当日もその印象に違いはなかった。

 「馬場入り後はすぐに返し馬には移さず、少し歩かせてから止まるように指示したところ、しっかりと止まりました」

 だからレースもしやすかったと続けた。

馬場入り後、しっかりと歩かせ、止まらせてから返し馬に移した横山
馬場入り後、しっかりと歩かせ、止まらせてから返し馬に移した横山

 スタートこそ今一つだったが、無理に押す素振りも見せないままスッと先行した。3コーナーでは手綱をしごいて動いていった。直線もひと追いごとに鞍下が反応。最後は2着のカレンミロティックを3馬身突き放して春のグランプリ連覇を達成してみせた。

 初めてのタッグでパートナーを完璧に勝利へいざなった横山だが、レース後には「考えている競馬が出来る枠順(12頭立ての11番枠)だったし、特別な事は何もしていません。今日のゴールドシップなら誰が乗っても勝てたでしょう」。破顔する事なくそう語った。

最後は完全に抜け出し宝塚記念連覇を達成したゴールドシップ
最後は完全に抜け出し宝塚記念連覇を達成したゴールドシップ

 今一つのスタートにもかかわらずスッと先行した理由を「ペース判断とかではなく、楽に走らせてあげようと思ったら自然とあの位置になった」と言った。3コーナーで手を動かした事に関しては「元々手応えよく上がっていくタイプではない」と言い、直線しっかりと捉えて抜け出したシーンにも「馬場が悪くて伸びている感じがしなかったので、最後までしっかり追っただけ」と語った。全てにおいて自分の手柄ではないという姿勢は“さすが”と感じさせたが、もちろんこの言葉を額面通りに受け取ってはいけない。彼の天性の才能と技術があったからこそ、そのように考えられたのであり、考えた通りに騎乗出来たのだ。そして、その先にあった戴冠だったのは疑いようのない事実なのである。

自分の手柄にしない理由

 酸いも甘いも数多くの経験を積んだプロフェッショナルの彼だから、最後まで自分を褒める事はなかったが、頑なにそういう姿勢を貫く理由を聞くと、当時、答えた。

 「何度も乗っているウチパク(内田博幸騎手)と、負けた時の共通点などを話し合ったのも役立ったし、須貝尚介調教師と色々話し合ったのも勿論大きかった。だから自分だったから勝てたとは本当に思っていないんです」

 そして、更に続けた。

 「あと、いつも面倒を見ている厩務員さん。急に暴れて生きた心地のしない時もあるだろうけど、厩舎から坂路まで曳いて歩くとか、毎日この難しい馬と付き合っている。こういう人達と比べたら自分は調教に3回と競馬で1回乗っただけ。そういう事です」

 後に凱旋門賞でもコンビを組み、翌春の天皇賞(春)(GⅠ)ではこれまたミラクルな手綱捌きを披露するわけだが、それはまた別のお話。機会があれば紹介しよう。

後に凱旋門賞に挑戦したゴールドシップと、フランス・シャンティイで同馬の調教に跨る横山
後に凱旋門賞に挑戦したゴールドシップと、フランス・シャンティイで同馬の調教に跨る横山

 ところで、今年は子息である和生や武史の活躍が目立つ。父としてそれはそれで嬉しいだろう。しかし、騎手として積み上げて来た様々なモノがそう簡単に瓦解しない事を私達ファンは知っている。老け込むのはまだ早い。大ベテランの更なる活躍を期待したい。

ゴールドシップと横山。向かって右は横山が「厩務員さんのお陰」と語った今浪隆利厩務員
ゴールドシップと横山。向かって右は横山が「厩務員さんのお陰」と語った今浪隆利厩務員

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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