6月12日13時からジャニーズ事務所の性加害問題の再発防止チームによる記者会見が突如として開かれました。ジャニーズ事務所が会見を開いていない状態で、なおかつ、再発防止チームはまだ検証もしていない、中間報告や結果でもない段階での異例な会見でした。しかも3名の再発防止チームのうち1名は名前も組織も未公表で欠席。二人だけの会見。この記者会見は説明責任の場としての役割を果たしたのでしょうか。一方、報道陣は国民の知る権利を背負って「質問責任」を果たしたのでしょうか。
最初に問題点をまとめておきます。
- 会見の位置づけ、目的がわからない。説明できないことだらけで会見を開く意味が不明。1名欠けているため3人の顔見せの場ともなっていない。しっかり調査するという決意表明のわりには、意気込みはあったもののスケジュールもなく、終始受け身の姿勢だった。
- ジャニーズ事務所が会見を開いて説明したかのような誤解を世の中に与える。再発防止チームがこの時点で会見を開くことそのものがジャニーズ事務所のダメ対応に加担することになっているように見えた。
- 報道陣の質問が、事実認定方法や法的責任に偏り、社会的責任への決意を引き出していなかった。被害者や国民の気持ちを背負った質問が少なかった。
なぜ、そう思うのか、質疑応答の全文を掲載して上記の理由を説明します。
(前編、中編、後編と3回に分けて掲載します)
■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)
会見の位置づけがわからない
会見の趣旨は、司会から説明がありました。
冒頭説明であれっと思った違和感は2点。司会の名乗り方。司会がジャニーズ事務所との関係を明確にせず、別会社の名前を出したことで、主催はどこなのかがわからなくなりました。クロダさんなる人物の所属会社はわかりましたが、どの立場で司会に立っているのかわかりません。ここで名乗るのであれば、ジャニーズ事務所の危機対応事務局、あるいは再発防止チーム事務局支援のボックスグローバルジャパン、と名乗るべきでした。あるいは、自分達の社名を出すのではなく、ジャニーズ事務所に出向する形式をとり、ジャニーズ事務所社員として司会進行を取り仕切れば、余計な混乱を引き起こさなかったといえます。
2点目の違和感は3名がチームであるなら、手続きが済んでから3名で行えばよいはずです。なぜ、手続きが済んでいない状況での会見なのか。ここで中途半端な印象が残りました。というのも「調査の進め方や取り組み状況について、チームの座長より、直接皆さまにご説明させていただきます」と司会が言っているのに、会合は顔合わせの1回しか開催されておらず、手法についてもこれからだとしているからです。ここから推測できることは、ジャニーズ事務所として会見を開催せよ、の声に対して、一刻も早く会見を開く必要があると認識しつつ、社長がどうしてもやりたくないと言い張り、自社主催ではやりたくないため、1名の所属と名前が公表できない段階でも、前検事総長の睨みを利かせた会見で記者会見を開いた、という事実を作りたい、といった思惑があるように見えます。
この会見の位置づけに関して「司会のあなたはどのような立場なのか、関係性を明らかにしてほしい」「手続きが済んだ時点で3名の名前が公表できる段階で記者会見をすればいいのに、なぜ今なのか。」と質問をした記者はいません。報道資料には書かれていたかもしれませんが、見ている人からは全くわかりません。そもそもここが被害者、国民目線に欠如しているといえます。
林さんからの説明では、何のために会見を開催するのか、この会見の主催者は誰なのか、どのような観点からの質問に回答するつもりなのかの説明がありません。これではどういった角度から質問するか、質問する側は戸惑ってしまうでしょう。また、「検証」という言葉は使っていますが、事実の検証ではなく「ジャニーズ事務所の対応を検証する」と説明しています。かくして、報道陣からの質問は、事実の検証なくしてどう再発防止をするのかの質問が多く出てしまうことになります。
以下、報道陣とのやりとりは、意味が通る程度に多少言葉を整えましたが、ほぼそのままとし、筆者の考察コメントを入れました。
記者側は事実認定の行い方について聞いているのですが、林さんは、社長や幹部を聴取するのかどうかについて回答していません。途中で不誠実だと考えたのか、事実認定についてはチームの「専権」といった言葉で強い意志を示しています。しかし、司会は会見の目的を「手法について説明する場」だとしているのですから、幹部への聴取方法について全員行うのか、辞めたマネジャーまで行うのかどうか方針について回答する責任があったのではないでしょうか。最初に会見の位置づけについても質問をしてほしかったと思います。そもそもこの問題について記者会見をしないまま再発防止チームがこの場で会見をしていることに事務所としての対応に問題があるように見える。ジャニーズ事務所が説明責任を果たす前にこのような会見を開いているということは、ジャニーズ事務所のダメな対応に林さん達が加担していることにはなりませんか、と言ってしまってもよかったのではないでしょうか。
マネジャーが送り届けているという情報提供まではよかったのですが、「どのようにご覧になっていますか」という質問は相手が自由に回答できてしまう詰めの甘さがあります。ここで求められるのは、「1960年代から何名のマネジャーがいたのか、ジャニーズ事務所に所属した少年達は総勢何名なのか、デビューした少年は何名なのか、数字の把握は当然するのですよね」と圧力をかける質問をしてほしかったと思います。
林さんはスケジュールについて全く定まっていなかったとしても、危機管理広報の観点からすると、目標はあった方がよかったといえます。期間がわからなければまだかまだかと問い合わせ対応に追われてしまうからです。少しでも対応を減らしていくのもクライシスコミュニケーションの役割です。そもそも方針の説明なら目標スケジュールくらいは発表する責任があったのではないでしょうか。
一方、メディア側の黙殺についての望月さんの質問はずれてしまっています。メディア側の黙殺についての検証はメディアが自ら行うべきことです。「黙殺」ではなく、「ジャニーズ事務所がメディア側へ圧力をかけたのかどうかを検証するのですか」といった質問にすれば検証の対象になる、といった回答を引き出せたでしょう。
オダさんの「タレントに罪はないと思うか」といった質問は、ファンの感情を背負ってのことだろうと思いますが、「罪」という言葉が感情を背負いすぎているように見えます。「罪」ではなく「責任」の言葉の方が適切であったと思います。林さんの回答は「白黒はっきりさせない」という回答でやや冷たい印象になりました。しかし、飛鳥井さんのフォローがよかった。「被害者に責任はない」と非常に温かい言葉でフォローした点はよいチームワークだったと思います。「罪」を「責任」と言い換えている点も質問の意図をくんでいると思います。
検証内容を引き出す質問にするなら「ジャニーズ事務所は性加害問題を起こしながら、タレントを使って利益を出し続けている現在の状況について批判の声があります。不祥事を起こした企業は通常、営業自粛といったことを行うからです。事務所が記者会見をしないから、タレントが批判の矢面に立ち、罪や責任論が浮上しています。タレントを人質にしたようなこの状況についてもジャニーズ事務所の対応問題として検証対象になると考えてよいですか」とすれば聞いている方もすっきりとします。
被害の大きさを追求しない方針であっていいのか
ここで網羅的に調査を実施しないことがここで明らかになりますが、被害者についてのみ回答しており、幹部への調査方法については回答していない点が気になります。幹部への聴取について聞かれるのは2回目ですが、ここでも回答していないのはなぜか。幹部には全員に聞く、といった断固たる姿勢を示すことができなかったため、聞き手に不信感を残してしまいました。
これはナイスフォローです。「メディアへの対応も調査の対象か」と望月さんのずれてしまった質問を的確に修正して投げています。ずれたり、詰め切れなかった質問を報道陣が補いあえば、「よしそこだ」と応援したくなります。
中編へ続く(近日掲載)