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ワールドカップ最終予選で改めて見えたバスケット女子日本代表が直面する長年の課題

青木崇Basketball Writer
ワールドカップに向けての課題が見つかった女子日本代表 (C)FIBA.com

 2月10日から大阪で開催された女子のFIBAワールドカップ最終予選、日本は1勝1敗という結果に終わった。ベラルーシが来日直前に新型コロナウィルス感染によって来日できず、棄権せざるを得なくなった影響もあり、2試合を戦ったことで出場権を獲得。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦での逆転負けは、ワールドカップ、そしてパリ五輪での金メダルという目標に向けて、日本が改めてクリアしなければならない課題を突きつけられたと言っていい。

 カナダとの初戦は、1Q中盤からハーフタイムまで選手とボールの動きがうまく連動できず、いい形でなかなかショットが打てない局面が多かった。また、東京五輪でも得点源だったカナダのナーラ・フィールズのドライブをなかなか止められず、インサイドの対応も後手になったことも重なり、3Q残り6分42秒で20点のリードを奪われる。

 しかし、後半になってから足がより動くようになり、山本麻衣がフィールズに厳しく対応するなどディフェンスの強度は上がっていく。オフェンスでも赤穂ひまわりと馬瓜ステファニーのドライブをきっかけに、オープンで打てるショットが増えたことで4Q終盤に追いつき、延長で突き放しての勝利を手にした。

 心身両面でタフなチームであることは、「選手たちが常にポジティブにゲームと向き合い、お互いに力を高めあって最後の最後まで高いエネルギーでプレーできた」という恩塚享コーチの言葉でも明らかだ。ひざのケガから代表復帰を果たした渡嘉敷来夢は、この試合で恩塚コーチの前向きなアプローチがチームにとって大きなプラスになったことを実感する。

「ハーフタイムの時に前半は自分たちのバスケットができていない、動きが硬かった印象でした。恩塚さんが“いつものみんなと違うよ。もっと動いていこうよ。フットワークを使って、相手もついてきていないから”というポジティブな言葉をかけてくれたので、焦ることなく一人一人やることをやってみよう、なりたい自分に向けてプレーすることによって、どんなゲームでも諦めずにやればひっくり返るんだなというのは感じていました」

 中2日での試合となったボスニア・ヘルツェゴビナ戦は、カナダ戦と対照的にボールが動き、林咲希がオープンになる機会が増えるなど、前半だけで12本の3Pショットを決めて主導権を握った。3Q序盤で高田真希の3Pショットで49対38とこの試合で最大のリードを奪ったが、「自分がペイント内で脅威になってチームを助けなければならない」と話す198cmのジョンケル・ジョーンズがゴール近辺で大きな壁となり続けたことで、日本はペイントにアタックしてもなかなかフィニッシュできない事態に直面する。

日本にとって大きな壁となって立ちはだかったジョーンズ。渡邊雄太と同じジョージ・ワシントン大出身 (C)FIBA.com
日本にとって大きな壁となって立ちはだかったジョーンズ。渡邊雄太と同じジョージ・ワシントン大出身 (C)FIBA.com

 ボスニア・ヘルツェゴビナは64対96のスコアで大敗したカナダ戦と違い、時間の経過とともに試合感覚を取り戻し、ジョーンズを起点にオフェンスの遂行力を上げていく。昨季WNBAでMVPを受賞した実績があるジョーンズは、高さを生かしたインサイドでのフィニッシュだけでなく、ドライブ、ステップバックのジャンプショットで得点を稼いだだけではなく、残り1分37秒に逆転勝利を決定的にするニコリーナ・ジェーボの3Pショットをアシスト。36点、23リバウンド、4アシスト、2ブロックショット、貢献度を示すEFFは51というパフォーマンスを見せたことが、日本から大きな勝利を手にする原動力になった。

「戦術的なところでもっといい考え方や戦い方をコーチとして導けなかったことに対して、この学びを次に生かしていきたいと思います。ジョーンズ選手への対応の部分に対して準備が足りなかったと考えています。それはリバウンドのところだったり、ローポストのプレーというところです」

 恩塚コーチは試合をこのように振り返る。高さを武器にペイント内で強烈な存在感を示せる選手に対し、日本はビッグゲームで何度も苦しめられてきた歴史がある。今回のボスニア・ヘルツェゴビナ戦以外でわかりやすい例をあげるならば、アメリカに敗れた東京五輪決勝戦と、リオ五輪で逆転負けを喫したオーストラリア戦だ。

 東京五輪の決勝戦は、アメリカのセンターで203cmのブリットニー・グライナーに18本中14本のFGを決められて30点。リオ五輪のグループ戦で最大16点リードを逆転されての敗北となったオーストラリア戦では、203cmでフィジカルの強さが際立つエリザベス・キャンベージに25分22秒のプレーで37点、4Qだけで18点を奪われている。

グライナーのショット・チャート (C)FIBA.com
グライナーのショット・チャート (C)FIBA.com

キャンベージのショット・チャート (C)FIBA.com
キャンベージのショット・チャート (C)FIBA.com

ジョーンズのショット・チャート (C)FIBA.com
ジョーンズのショット・チャート (C)FIBA.com

 例として取り上げた試合のショット・チャートを見ると、グライナーとキャンベージに共通している点は、得点のほとんどがペイント内であること。しかし、ジョーンズはアウトサイドでもプレーできるオールラウンダーということもあり、日本の対応がより難しくしていたのはまちがいない。高田はジョーンズについての印象をこう語る。

「インサイドはグライナー選手同様強かったんですけど、ジョーンズ選手は外のシュートもあるので、そういった意味では守りづらさもありますし、オンボール(スクリーン)をされたときの守り方というのは3Pがある分、自分たちも打つ手をたくさん打っていかないと守れない。中もあって外もある本当に能力の高い選手だと感じました」

 日本はボスニア・ヘルツェゴビナ戦で20本の3Pショットを成功させた一方で、ペイント内で14点しか奪えなかった。ジョーンズの高さがフィニッシュの精度を下げたことは、20本中7本のショット成功という数字でも明らか。ゴールにアタックしてのフィニッシュが持ち味の赤穂は、「私の仕事はシューターじゃないので、そこを入れられたのはよかったんですけど、もっとアタックしなければいけなかったと思います。決め切るというところもオリンピックですごくブロックされて、そこが課題となっていました。そういう練習もしてきた中でブロックをかわすことを意識しすぎてシュートが入らなかったので、その中でも決め切るという課題がまた見つかったと思います」と話していた。

 恩塚コーチが“世界一のアジリティー(敏捷さ、機敏さ)”を武器に戦うことを掲げる日本は、今回の予選で久々に世界レベルを体感し、いろいろ学ぶことができた。渡嘉敷の代表復帰も、ディフェンスとリバウンドでは本当に心強い。しかし、2m級の高さを武器にペイント内を支配できる選手に対するディフェンスのレベルアップは、世界の頂点を目指す日本がクリアしなければならない大きな課題であることに変わりはない。

 恩塚コーチがこれからどのようにチーム作り上げ、高さへの対応という大きなチャレンジに対して答えを導き出せるのか? 9月22日からオーストラリアで行われるワールドカップは、その成果が出るか否かを知る機会となる。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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