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皮膚がん検診の遅れと影響:コロナ禍のメラノーマ診断の実態と対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【コロナ禍がメラノーマ診断に与えた影響】

ルーマニアの病院からの報告によると、2020年3月から2021年1月にかけて、メラノーマの新規診断数が大幅に減少しました。通常なら27件ほどあった診断数が、わずか4件にまで落ち込んだのです。これは、感染予防のための外出自粛や、病院での感染リスクを懸念して、多くの方が定期的な皮膚チェックを控えたことが原因だと考えられます。

しかし、診断数の減少は決して喜ばしいことではありません。むしろ、早期発見・早期治療の機会を逃してしまう危険性が高まったのです。

【メラノーマの進行度と予後への影響】

コロナ禍以降、メラノーマと診断された患者さんの病状が以前より悪化していることがわかりました。具体的には、以下のような変化が見られました:

1. 腫瘍の厚さを示す指標の平均値が上昇

2. 異型分裂(がん細胞の異常な分裂)の数が増加

3. Ki-67指数(細胞増殖の速さを示す指標)が上昇

これらの指標の悪化は、メラノーマがより進行した状態で発見されていることを示しています。つまり、コロナ禍による診断の遅れが、患者さんの予後(治療後の経過)に悪影響を及ぼしている可能性が高いのです。

この状況は非常に憂慮すべきです。メラノーマは早期発見・早期治療が極めて重要ながんの一つです。診断の遅れは、治療の難しさを増し、生存率の低下にもつながりかねません。

【コロナ後のメラノーマ診療の課題と対策】

コロナ禍の影響は、パンデミックが収束した後も続いています。2023年2月から2024年1月にかけての調査では、メラノーマの新規診断数は18件と、コロナ前の水準には戻っていませんが、徐々に回復の兆しが見られます。

しかし、依然として課題は残されています:

1. 転移や再発の増加:コロナ禍以降、リンパ節や他の臓器への転移例が増加しています。

2. 診断の遅れによる進行例の増加:より進行した状態で発見されるケースが増えています。

3. フォローアップの不十分さ:定期的な経過観察が滞ったことで、再発の早期発見が難しくなっています。

これらの課題に対処するため、以下のような対策が必要です:

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

1. テレメディシン(遠隔医療)の活用:オンラインでの皮膚チェックや相談を積極的に導入する。

2. 啓発活動の強化:自己検診の重要性や、早期受診の必要性について、より広く周知する。

3. 医療機関の感染対策強化:患者さんが安心して受診できる環境を整える。

4. スクリーニングプログラムの拡充:皮膚がん検診の機会を増やし、早期発見につなげる。

メラノーマは、早期に発見すれば90%以上の確率で治癒が期待できる皮膚がんです。しかし、進行すると治療が難しくなり、生命を脅かす可能性もあります。だからこそ、定期的な皮膚チェックと早期受診が重要なのです。

皆さん、もし皮膚に気になる変化(ほくろの形や大きさの変化、新しいほくろの出現など)があれば、迷わず皮膚科を受診してください。また、年に一度は皮膚科での全身チェックを受けることをおすすめします。

コロナ禍を経て、私たちは健康管理の重要性を再認識しました。メラノーマに限らず、あらゆる病気において、早期発見・早期治療の大切さは変わりません。自分の体に関心を持ち、少しでも気になることがあれば、専門医に相談する習慣をつけましょう。

参考文献:

1. Sabău, A.-H., et al. (2024). The Impact of the COVID-19 Pandemic on Melanoma Diagnosis: A Single-Center Study. Diagnostics, 14(18), 2032. https://doi.org/10.3390/diagnostics14182032

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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