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特許庁が「ブラック・サバス」は日本では著名ではないと判断

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:Splash/アフロ)

ちょっと前に、英国のヘビメタバンド、ブラック・サバスのメンバーを請求人とする拒絶査定不服審判がありました(特許情報プラットフォームの審決公報DBメニューに審決番号2017-650015を入力すると審決文を参照できます)。

これは、「BLACK SABBATH」という商標登録出願(マドリッドプロトコル国際登録経由)が、商標法4条1項8号違反で拒絶されていたのに対して、出願人であるブラック・サバスのメンバーが不服を申立てた審判です(他にも論点はありますが、補正により解消したので説明省略)。

商標法4条1項8号 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

特許庁のもともとの拒絶理由は、

本願商標は,イギリスのヘビーメタルバンドを表すところ,同バンドは3名で構成されているものの,出願人は,そのうち2名の同意書を提出するのみで,残る1名の承諾書を提出していないため,グループ全員の同意を得たものとはいえない。したがって,本願商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。

ということでした。出願人が、Anthony Frank Iommi(トニー・アイオミ)とJohn Michael Osbourne(オジー・オズボーン)なのでビル・ワードギーザー・バトラーの承諾書が得られていないということでしょう。サインひとつもらえば済む話なのですが、何かもらえない事情があったのでしょうか?

さて、結果的にこの審決により、無事商標登録は認められたのですが、その理由はちょっと衝撃的でした。

原審が拒絶理由で示した証拠及び当審の職権調査によれば,該文字は,1970年に英国でデビューしたヘビーメタルバンドのバンド名であり,日本においても当該バンドの音楽CDが販売されている事実はうかがえるとしても,このバンド名が我が国において広く知られていることを認めるに足りる証拠は見出すことはできない。

したがって,本願商標は,他人の著名なバンド名を含む商標とはいえず,商標法第4条第1項第8号に該当しない。

ということです。要するに、ブラック・サバスは日本では著名でないので、4条1項8号の「著名な芸名」にあたらない(ゆえに、登録を認める)というものです。結果的には商標登録が認められたわけですが、ブラック・サバス側としては喜んでいいやら悲しんでいいやらという感じではと思います。ただ、実際のところ、商標法における「著名」のハードルは結構高いので、音楽ファン以外にも広く知られているかという観点で言えばしょうがないかなという感じもします。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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