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職人の強みは技術力、職人の弱みは技術力:だからディレクターが必要

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

観光地に行くと、その地域の伝統工芸品に触れることができる。いずれも高い技術によって作られたことがわかる一品であり、目を見張るものがある。

しかし、買わない。確かによいものではあるが、買わない。買う必要性を見つけることができないからである。つまり顧客は、目の前のものがいかなるシーンによって自らを満足させることができるのかがわからないのである。

よいということは、売れるということとは関係ない。買うかどうかは、お金を出す人がそれを利用できるかどうかにかかっている。そうであるのに、よいものを作っていれば売れると思っている職人は少なくない。なぜか。彼らは自分たちの力量、技芸の高さに、誇りを持っている。ゆえにその誇りを傷つけることは許されないのである。

職人の誇りの高さが原因で、経営改革に踏み出すことのできない会社はそこかしこにみられる。職人の技術力の高さは強みであると同時に、ビジネス上の弱みである。

職人は職種転換ではなく、業種転換を:後継者不足の解決のために始めなければならないこと」のなかで書いたが、売れなければ職人は飯を食うことができない。飯を食うことができないのであれば、その技術は廃れるだけである。それではいけない。よいものは後世に残したい。どうにかして売れる仕組みを作らなければならない。

手っ取り早い方法は、職人を活かす人を設けることである。職人の技術を、現代のコンテクストのうちに落とすことのできるディレクターが必要である。

印伝 + JAM HOME MADE

筆者が産まれた山梨には、ご存知のように甲州印伝という伝統工芸品がある。これは、400年以上の歴史を持つ、鹿革に漆で模様を施した伝統工芸である。

印伝はなんというか、渋い。ゆえに多くの人に親しまれているのだが、いかんせん最近の若者の求めるデザインではない。若者が求めるのは、もっとスタイリッシュなデザインである。しかし、そのような商品デザインを職人に求めるのは酷というものである。職人はあくまでも職人である。

そうであれば、職人の技術を若者向けのコンセプトのうちに落とし込める人と組めばよい。甲州印伝の総本家「印傳屋」は、JAM HOME MADEと手を組んだ。ご覧のように、衝動買いしてしまいそうな格好良さである。

しかもこの場合、職人の技術を全く損ねていない。これが職人の技術を活かすということである。

西川ダウン + nano universe

こちらは伝統工芸ではないが、やはり職人、技術者のもつ力量を活かした例である。

西川の歴史は古い。印伝よろしく、400年以上の歴史を持つ。しかし歴史を見ればわかるように、彼らは開拓を続けてきた。ゆえにいまでも、一流の寝具ブランドとして名を馳せている。

彼らは nano universe と提携することを選択した。羽毛布団用の西川ダウンを、ダウンジャケットとして用いることにしたのである。これは長い西川の歴史でも異色である。しかし判断は正しかった。売れ行きは好調である。

この場合もまた、技術を損ねてはいない。それどころか、新しい境地を切り拓いている。どちらの側にいたのかはさておき、何らかの方向づけを行う人がいたからこそ、彼らの強みは活かすことができたのである。

ディレクター = 方向づける人 を設ける

仕事の場におけるディレクターという役割には、こうであるという定義はないようである。しかし、映像関係においては役者ではなく演出家、音楽の世界ではミュージシャンではなく制作責任者を指すように、彼らは何らかのものをまとめ上げ、言葉の通り方向づけを行うのが仕事である。

職人にもディレクターが必要である。能力があるということは、いまだ価値あるものをつくることを保証しない。彼らの高い力量、強みを、世の中において価値あるものへと方向づけなければならない。それを可能とする人を、見つけなければならない。

それは上司ではない。ボスではない。そうではなく、協力者である。コーディネーターである。ある強みを、別の強みと融合させるのである。そうすれば、職人の強みは動的なものになる。現代において活かすことができるようになる。

まずはディレクターを設けることから始めてはどうだろうか。小さな成功があれば、新領域に移行するときの障壁は低くなる。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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