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全国の大学で吹き荒れる「尹錫悦退陣」旋風 学生や宗教界まで拡大すれば危ない!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領の退陣を求める時局宣言を発表するソウル大学教授ら(JPニュース)

 日本では滅多に見られないというか、あり得ない現象だが、韓国では大学教授らがホットな政治問題で政府にものを申すことがある。集団で時局宣言を出して、要求を突きつけるのである。

 時局宣言は政治的、社会的混乱が生じた時、あるいは深刻な問題が発生した時にそれ相応の地位のある人々が集まり、憂慮を表明し、事態解決を促す宣言を指す。教授や市民団体などは多くの場合、時局宣言を通じて国内及び国際情勢に対して意思表示を行う。

 一時は17%まで下がった尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の支持率は現在、20%台まで回復したものの依然として不人気であることには変わりはない。その証拠に10月下旬から外大,淑明女子大、仁川大学から始まった大学教授らの抗議運動は収まるどころか、エスカレートする一方だ。

 時局宣言を出した大学は11月28日午後1時現在、全国約70大学に上り、4300人の教授らが時局宣言に署名している。

 今日(28日)も日本の東京大学にあたる国立のソウル大学の教授525人が連名で時局宣言を発表し、尹政権の退陣を求めていた。ソウル大学は尹大統領の母校である。

 「民主主義を拒否する大統領を拒否する」と題する時局宣言でソウル大の教授らは「尹錫悦と同門であることを恥じている学生らの壁新聞が良心の鏡のようで我々も恥ずかしく思っている」と述べ、尹大統領に対して「政府の度重なる失政と失策、それによる混乱の元は大統領と夫人の権力私有化と恣意的乱用にあるのに尹大統領は一度たりとも責任にある説明をしなかった」と批判していた。

 そのうえで「尹大統領は一日も早く退陣すべきだ。韓国社会の将来のためにも彼の辞任は必然的であり、金建希(キム・ゴニ)女史にまつわる各種疑惑、最近露見された公選挙介入と国政壟断疑獄の真実を明らかにする特検(特別検事任命)こそが崩れつつある民主主義を立て直す一歩となる」と強調していた。

 これまで主な大学で出された教授らの「時局宣言」をみると、延世大は「嫌悪の政治で連帯意識は去り、共同体も崩れた」、淑明女子大は「権限と責任は一緒に与えられているのに大統領としての資格がない」、全南大は「我々はこれ以上、黙ってはいられない」、そして最南端の済州大は「憲政秩序が著しく棄損されている今の状況を大変憂慮し、怒っている」と、どれもこれも辛辣な内容だった。

 驚いたことに尹大統領の支持基盤である保守層の牙城である慶尚北道にある慶北大の教授らにいたっては「民主主義を求める!尹大統領を解雇する!」との横断幕を掲げ、教授らは尹大統領を「何の能力もなく、だれも責任を取らない」と痛烈に批判していた。

 また、忠清北道にある忠北大は「時局宣言」で尹大統領に対して要求事項として▲夫人の疑惑を捜査する特別特別特別検察官の即時受け入れ▲政治的中立性を棄損している検察の改革▲朝鮮半島平和のための国防及び外交政策の施行の3点を突きつけ、これら要求に応じない場合は、朴槿恵(パク・クネ)元大統領を弾劾に追い込んだ「2016年の蝋燭デモの時よりもより強力に弾劾と退陣を求める」と警告していた。

 野党第1党の「共に民主党」は第2野党の「祖国革新党」と共同歩調を取り、1か月前から毎週土曜日に街頭に出て10万~20万規模の集会、デモを行っており、また労働組合も「韓国労組」と「民主労総」の2大労組が共に街頭に繰り出し、尹大統領糾弾集会を開いている。

 今後、学生らが教授らの「時局宣言」に供応し立ち上がるようなことになれば、尹大統領にとっては由々しき事態になりかねない。学生らは野党、宗教界と並んで反体制の3本柱であるからだ。

 すでに幾つかの大学では尹大統領を批判する壁新聞が貼られている。誠心女子大では女子学生らが記者会見を開き、「反民主、反民生、反歴史大統領尹錫悦を弾劾する!」と気勢を上げているが、徐々に全国に波及する兆しにある。

 また、宗教界でも天主教聖職者ら1446人が本日、「憲法遵守と国家保衛から祖国の平和統一と国民の福利増進まで投げ捨ててしまった責任を問い、尹大統領の罷免を宣告しよう」との内容の時局宣言を発表していた。

 ちなみに、大学教授らの時局宣言は韓国現代史では局面ごとに重大な役割を担っている。初代大統領の李承晩(イ・スンマン)氏が1960年4月19日に学生運動によって倒された時はその先鋒を担ったのがまさに大学教授らの時局宣言であった。

(参考資料:尹大統領は大丈夫か? 支持率は大統領就任以来過去最低、世界25カ国首脳の中で最下位)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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