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国家の悲劇ー。豪州で数百匹のコアラが山火事の犠牲に

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ポートマッコリー・コアラ病院のコアラ(写真:アフロ)

国家の悲劇ー。オーストラリアのポートマッコリーにあるコアラ病院の院長は、山火事で多数のコアラが犠牲になったことに対し、このように表現しました。死亡したコアラは350匹以上にも及ぶと見られています。

山火事の詳細

オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州のポートマッコリ―地区で28日(月)、山火事が発生しました。出火原因は落雷と見られ、東京ディズニーランドのおよそ半分の広さに相当する2,600ヘクタールが焼失したと伝えられています。

この地区は「多様な遺伝的背景を持ち、環境への適応力が高いコアラ数百匹が生息している」ほど、珍しいコアラが生息する貴重な森であったようです。

コアラは山火事が起きると、木のてっぺんに登り、火が通りすぎるのを待つのだそうです。しかしガーディアンの記事によると、今回は火の勢いが強く、焼け死んでしまったコアラや、手のひらや爪に大やけどを負って、もう二度と木に登ることができない状態になっているコアラが多数いる可能性があるとのことです。

まだ被害の全容が把握できていませんが、調査団が調べたところ100ヘクタールで2匹のコアラしか生存が確認できなかったようです。ポートマッコリー・コアラ病院は人員を増やして、被害に遭ったコアラを収容する準備を整えています。

記録的干ばつ

山火事の背景には、長引く高温と少雨があります。

2018年4月から2019年9月の干ばつの状況 (出典元: オーストラリア気象庁)
2018年4月から2019年9月の干ばつの状況 (出典元: オーストラリア気象庁)

上の図は、2018年4月から今年9月までの干ばつの状況ですが、観測史上最悪の干ばつ状態が起きていることを表す濃い赤色の部分が、オーストラリアの至る所にあることが分かります。特に今回コアラが犠牲になったニューサウスウェールズ州北部では、そのほぼ全域で史上最悪の干ばつが起きています。

山火事がもたらすコアラへの影響

そもそもコアラは基本的に動きが遅く、住み家であるユーカリの木も燃えやすいため、しばしば山火事の犠牲となります。そのうえ近年は、高温と少雨の影響で山火事が増加し、被害に遭うコアラの数も増えているのです。

コアラの個体数は、過去20年で半減する地域があるなど急激に減少していて、オーストラリア全体でも野生のコアラは43,000匹しかいないといわれています。一部では数十年後には絶滅するおそれも指摘されていて、国際自然保護連合は「絶滅のおそれの可能性のある種」の一つとして指定しています。

そもそも「コアラ」の意味とは、先住民の言葉で「水を飲まない」なのだそうです。オーストラリアの乾燥した厳しい環境の中で順応してきたコアラにとっても、このところの環境の変化はあまりにも急激で、種の存続も危ぶまれるほどです。

(↑今年9月にクイーンズランド州の山火事で救助されたコアラの親子)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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