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HARUMI FLAGにも?マンション転売ヤーに、昔からおばあちゃんがいる理由

櫻井幸雄住宅評論家
マンションの転売ヤーと聞いて、おばあちゃんを連想する人は少ないだろうが……。(提供:イメージマート)

 「HARUMI FLAG」の旧・選手村マンションが大人気のうちに完売。今は、タワー棟の販売に移っている。これから新築されるタワー棟と比べて、割安だったのが、旧・選手村マンション。東京五輪の選手村として使われた建物のリノベーションであったため、周辺の相場価格より安く販売された。当然、転売目的の購入者も多く、入居は来年3月の予定なのに、早くも売り物が出ている。

 入居前に転売することなど許されるのか、と納得しかねる人も多いだろう。

 しかし、条件次第でマンションの新築未入居・転売は可能だ。そして、このような“転売ヤー”行為は、昭和時代から行われていた。さらにいうと、以前から転売ヤーを行っていた人には、高齢のご婦人が交じっている。

 なんと、マンション転売ヤーの世界で、おばあちゃんは古株だったのである。

 知られざるマンション転売の一端を解説したい。

新築未入居での転売は許される?

 まず、マンションを新築未入居で転売することは許されるのか……これは、ゲーム機やスニーカーを新品未使用の状態で売ることが許されるのと同様に、可能である。

 「本当は、自分で住むつもりで購入した。しかし、急に親の家を継ぐことが決まったので、未入居のまま売却することにした」というような理由付けができるからだ。

 ただし、一部のマンションは転売できない。それは、5年とか10年の期限を区切った「転売禁止」が付くケースだ。国や都道府県の土地など公共性の高い土地を活用したマンション分譲の場合、土地代が安いので割安に販売されることが多い。その場合、「転売禁止」期間が設けられるマンションがこれまでも複数あった。

 その代表事例として今も不動産業界で語り草になっているのは昭和後期に新大久保駅と高田馬場駅の間で分譲された「西戸山タワーホームズ」だろう。「間違いなく値上がりする」といわれ、購入希望者が殺到。販売パンフレットをもらう行列ができて、3時間待ちに。そのパンフレットが欠品となり、最後はモノクロコピーをまとめたものが渡された。

 パンフレットが簡素だったのは、2008年8月に販売された「シティタワー品川」も同じ。「値上がり間違いなし」のマンションには購入者が殺到し、だからこそ転売禁止や賃貸禁止の期間が設けられ、自己居住専用という条件がつく。

 「HARUMI FLAG」の旧・選手村マンションも同様のケースとなるのだが、「転売禁止」の期間は設けられなかった。だから、新築未入居の状態で「中古」として売り出す人がはやくも出ているわけだ。

 「転売禁止」の期間を設けなかったのは、旧・選手村マンションとして4000戸を超える住戸を売り切らなければならず、完売することを第一に考えたためだろう。

 結果的に大人気マンションとなったのだが、販売開始時は購入を躊躇する声もあった。実際、東京五輪の開催が1年延び、同マンションへの入居も1年延びたときに、購入をキャンセルした人が少なからずいた。「このマンションを買ってよいのか」という見方が根強くあったので、確実に売り切るために「転売禁止」を付けなかったと考えられるわけだ。

 これに対し、不動産業界では「この価格で、売れないわけがないだろう」という声があったのも事実。つまり、「転売禁止」を付けるべきだとの意見もあったのだが、今となっては後の祭りである。

 実際に売り出されている物件をみると、新築販売時より3000万円以上高く売り出し価格を設定しているケースが多い。

 これは、希望売却価格なので、そのままの金額で成約するかどうかは分からない。相場が定まっていない時期なので、最初は強気で売値を出している可能性がある。

 それでも、200倍以上の抽選になった住戸もある人気物件なので、買ったときよりも高く売れるのは間違いない。

 では、どんな人が買ってすぐに売り出しているのか。

 潤沢に資金を持っている富裕層?目端の利く転売ヤー?

 いずれの場合も、想像される人物像は男性で、30代か40代のやり手……となりがちだ。

 ところが、不動産の世界には、異なる人物像の転売ヤーが存在する。それは、高齢の女性。じつは、マンションの“おばあちゃん転売ヤー”は昭和時代から人知れず幅をきかせていたのである。

おばあちゃん転売ヤーには、お小遣い稼ぎ……

 おばあちゃん転売ヤーの活動が目立ち始めたのは、昭和の後期。平成バブルが始まる直前だ。平成バブルは「平成」の名が付くとおり、平成元年(1989年)から平成3年(1991年)頃が最盛期。しかし、マンション価格の上昇は昭和の時代から始まっており、「このマンションを買えば、必ず値上がりする」という物件が昭和60年代からいくつも出ていた。

 当然、抽選販売となっていたが、儲かりそうなマンションにいくつも申し込みを入れて、当たった住戸を購入。未入居のまま転売するおばあちゃんが目立ったのである。

 バブル最盛期、そのような「値上がり必至のマンション」は、少なくとも2倍に、物件によっては10倍まで値上がりした。しかし、おばあちゃん転売ヤーは、そこまでは欲張らず、買ったときよりも1000万円くらい高くなればよしとした。1.2倍とか1.3倍で売ったのである。

 未入居での転売なので、居住用財産の売却に関する税金の特例を使うことはできない。譲渡所得に対する高い税金を払うし、売却に関する手数料も発生するのだが、それでも500万円とか600万円は手元に残る。

 それで十分と考えるのが、おばあちゃん転売ヤーの特徴だ。当時、話を聞いた高齢のご婦人は「お小遣い稼ぎよ」と笑った。

 500万円は「お小遣い」として十分すぎる額と思われるが、バブルで札束の山に埋もれた人たちと比べれば、確かにささやかな儲けだった。

 ローリスク・ローリターンで売り抜けるのがおばあちゃん転売ヤーが目指すところ。危ない橋は渡らずに、不動産投資の醍醐味をちょっとだけ味わい、楽しむわけだ。

今も、元気に活動するおばあちゃん転売ヤーも

 おばあちゃん転売ヤーは、その後もそこかしこでみかけた。

 マンション価格上昇期になると、値上がりしそうなマンションをせっせと物色するおばあちゃんには2つの特徴がある。

 1つは、夫に先立たれ、遺産として現金を多く所有していること。現金を金融機関に預けても今は利息が期待できない。かといって、リスクのある投資は避けたい。そこで、安全確実に資産を増やすことができるマンションを狙うわけだ。

 2つめの特徴は、生活を守るために賃貸経営を行っている人が多く、もともと不動産に関する知識が豊富なことを挙げるべきだろう。

 「儲かるから」と人に勧められて、何も知らない不動産投資を始めるわけではない。勝手知ったる世界なので、自信を持って購入・転売を行うわけだ。

 あまり欲を出さず、少しだけ(といっても、うらやましい額を)儲けて、旅行や観劇を楽しみ、また儲かりそうな物件を物色する……そのようなことを行う高齢のご婦人はいつの時代も一定数いる。

 その元気な様子や抽選に外れてがっかりしている姿をみると、転売ヤーといっても憎めないなあと思ってしまうのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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