凱旋門賞へ向けアイルランドで始動するレジェンド・武豊に対する現地調教師の言葉とは
評価の上がる今年のパートナー
9月19日の園田競馬場。2000勝以上しているジョッキーを対象にこの日、行われたゴールデンジョッキーカップ。ここにJRA代表として選定された武豊。1998年に初めて日本ダービーを勝った際のスペシャルウィークの勝負服に身を包み、醸し出されるノスタルジックな雰囲気とは真逆の、先を見据えた言葉が口を突いた。
「ルックドヴェガは距離ですかね……。他がコケて、勝手に評価が上がって来ましたね」
ルックドヴェガは今年のフランス版ダービーであるジョケクラブ賞(GⅠ)を制した馬。デビューからそこまで3戦3勝だったが、凱旋門賞(GⅠ)を目指して出走した前哨戦のニエル賞(GⅡ)でよもやの3着敗退(5頭立て)。下馬評では最有力と思われていたこの馬だが、一気に暗雲が立ち込めた。
武豊の言う「他がコケて」の代表格がこの地元のダービー馬で「勝手に評価が上がった」と語るのはアルリファーの事。自身が今年の凱旋門賞でタッグを組むアイルランドの4歳牡馬だ。
先のルックドヴェガの他、フォワ賞(GⅡ)勝ちのイレジンはせん馬のため凱旋門賞には出走出来ない。また、ヴェルメイユ賞(GⅠ)に臨んだ有力馬オペラシンガーが5着、勝利したブルーストッキングは凱旋門賞に登録がない事など、混沌として来た現状から、新聞記者に「今年のヨーロッパ勢はそんなに強くないからチャンスありそうですね」と言われたと語る武豊は「俺のもヨーロッパの馬なんだけどね」と苦笑した。
ジョセフの語る武豊
アルリファーを管理するのはアイルランドのジョセフ・オブライエン。伯楽エイダン・オブライエンの子息としてジョッキーとしてもキャメロットとオーストラリアでのイギリスのダービー(GⅠ)2勝など多くのGⅠを制覇したが、長身で減量に苦しんだ事もあり、16年に僅か22歳で調教師に転身。開業2年目の17年にリキンドリングでメルボルンC(GⅠ)を勝つと、翌18年にはラトローブでアイリッシュダービー(GⅠ)他、更に翌19年にはイリデッサでブリーダーズCフィリー&メアターフ(GⅠ)を制する等、蛙の子は蛙と言わんばかりの大活躍。調教師としてもトップクラスの手腕を示している。
さて、先日アイルランドを訪れた際、そんなジョセフ・オブライエンに話を伺った。アルリファーの状態に関しては次のように語った。
「前走後も良い状態を保っています。2400メートルという距離の目処が立ったのは大きいし、ゆったりとした臨戦間隔もこの馬には合っていると思います」
更に武豊とタッグを組んで挑む事に関して、続けた。
「レジェンドと一緒にヨーロッパ最高峰の1番に臨めるのは、今から楽しみです」
「武豊=レジェンド」が世界の共通認識である事が分かる発言に、思わずこちらの頬も緩む。
そしてそのレジェンド自身は?というと22日の中京競馬の後、ドバイ経由でアイルランド入りするために日本を発った。08年、ゴーランパーク競馬場で騎乗して以来のアイルランド入りとなる今回の目的地は勿論、ジョセフの厩舎。事前に1度、アルリファーに跨り、感触を確かめる予定でいる。世界が認めるレジェンドが、凱旋門賞へ向けて好い感触で臨める事を期待したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)