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【最新研究】メラノーマ治療の新たな選択肢!免疫チェックポイント阻害薬を超える新薬の可能性とは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

メラノーマは、皮膚のシミやほくろから発生する悪性の皮膚がんです。日本人の皮膚がん患者の約3分の1を占め、近年患者数が増加傾向にあります。メラノーマは早期発見・早期治療が重要で、放置すると他の臓器に転移し、生命を脅かす危険な病気です。

従来、転移したメラノーマの治療選択肢は限られていましたが、近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と呼ばれる新たな免疫療法が登場し、治療成績は大きく改善しました。ICIは、がん細胞が免疫細胞(リンパ球)からの攻撃を回避するために利用する「免疫チェックポイント」と呼ばれるブレーキ役の分子を阻害する薬剤です。代表的なICIとして、PD-1阻害薬のニボルマブやペムブロリズマブ、CTLA-4阻害薬のイピリムマブなどがあります。

しかし、ICIが効果を示さない患者さんも一定数存在し、さらなる治療選択肢が求められています。そこで、世界中の研究者たちが、新たな免疫チェックポイント分子を標的とした薬剤の開発に取り組んでいます。

【免疫チェックポイント阻害薬を超える新たな治療ターゲット】

最新の研究で注目されているのが、LAG-3、TIGIT、TIM-3といった新しい免疫チェックポイント分子です。これらの分子は、T細胞(リンパ球の一種)の活性化を抑制することで、がん細胞が免疫の攻撃を回避するのに関与していると考えられています。

例えば、LAG-3阻害薬のレラトリマブは、臨床試験でICIとの併用により、治療効果を示す期間(無増悪生存期間)を延長しました。また、TIGIT阻害薬のビボストリマブやTIM-3阻害薬のコボリマブも、ICIとの併用で有望な結果が報告されています。

これらの新たな免疫チェックポイント阻害薬は、ICIが効きにくい患者さんに対する治療選択肢となる可能性があります。ただし、現時点では研究途上であり、さらなる臨床試験によって有効性と安全性を確認する必要があります。今後数年以内に、これらの新薬がメラノーマ治療に大きな変革をもたらすことが期待されます。

【がんワクチンや二重特異性抗体など新たなアプローチ】

免疫チェックポイント阻害薬以外にも、がんワクチンや二重特異性抗体といった新しい免疫療法の研究が進んでいます。

がんワクチンは、患者さん一人ひとりのがん細胞に特有の「ネオアンチゲン」と呼ばれるタンパク質を同定し、それを標的としたワクチンを作製する治療法です。ネオアンチゲンは、がん細胞で特異的に発現するタンパク質で、正常細胞にはほとんど存在しません。そのため、新生抗原を標的としたワクチンを接種することで、がん細胞に対する免疫応答を効率的に誘導できると考えられています。

最近の臨床試験では、mRNAワクチンとICIの併用療法が、ICI単独療法よりも再発までの期間(無再発生存期間)や遠隔転移が出現するまでの期間(無遠隔転移生存期間)を延長することが示されました。mRNAワクチンは、ネオアンチゲンの情報をコードしたmRNAを体内に投与することで、抗原提示細胞に新生抗原を発現させ、がんに対する免疫応答を促します。

二重特異性抗体は、T細胞とがん細胞の両方を認識する抗体医薬品です。一方の腕でT細胞の表面にある受容体(CD3など)を、もう一方の腕でがん細胞の表面抗原を認識することで、T細胞をがん細胞に誘導し、がん細胞を攻撃させます。

例えば、皮膚や目の色に関わるgp100というタンパク質を標的としたテベンタフスプは、眼球型メラノーマに対する臨床試験で全生存期間(overall survival)を延長し、海外ではすでに治療薬として承認されています。テベンタフスプは、T細胞受容体とgp100を同時に認識する二重特異性抗体で、T細胞をメラノーマ細胞に誘導することで抗腫瘍効果を発揮します。

【腫瘍浸潤リンパ球療法の可能性と課題】

腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法は、患者さんのがん組織に浸潤しているリンパ球を採取し、体外で大量に培養した後、再び患者さんの体内に戻すことで、がんに対する免疫応答を増強する治療法です。TIL療法は、他の治療法が効かなくなったメラノーマ患者さんに対する新たな選択肢として注目されています。

最近の臨床試験では、ICIが効果を示さなくなったメラノーマ患者さんに対し、TIL療法が無増悪生存期間を延長することが報告されました。また、TIL療法とICIの併用療法も検討されており、さらなる治療成績の向上が期待されています。

ただし、TIL療法には課題もあります。まず、患者さんのがん組織から十分な数のTILを採取できるとは限りません。また、採取したTILを体外で大量に培養するためには、特殊な設備と技術が必要で、コストと時間がかかります。さらに、TIL療法では、副作用として高熱や低血圧、臓器障害などが起こる可能性があるため、慎重な患者管理が求められます。

これらの課題を克服するため、ゲノム編集技術を用いてより効果的で安全なTILを作製する研究が進められています。例えば、TILの活性を抑制する因子を遺伝子レベルで取り除いたり、がん抗原に対する受容体を導入したりすることで、より強力ながん特異的なTILを作製できると期待されています。

以上のように、メラノーマ治療においては、免疫チェックポイント阻害薬に加え、新たな免疫療法の開発が精力的に進められています。がんワクチン、二重特異性抗体、TIL療法などの新たなアプローチは、ICIが効きにくい患者さんに対する治療選択肢を広げる可能性を秘めています。

一方で、これらの新たな治療法は、いずれも研究途上の段階であり、大規模な臨床試験によって有効性と安全性を確認する必要があります。また、高額な治療費やアクセスの問題など、克服すべき課題も少なくありません。

しかし、免疫療法の進歩は目覚ましく、近い将来、メラノーマ治療は大きく様変わりする可能性があるでしょう。

参考文献:

1. Tawbi, H. A., et al. (2022). Relatlimab and Nivolumab versus Nivolumab in Untreated Advanced Melanoma. New England Journal of Medicine, 386(1), 24-34.

2. Khattak, A., et al. (2023). Distant metastasis-free survival results from the randomized, phase 2 mRNA-4157-P201/KEYNOTE-942 trial.

3. Sarnaik, A. A., et al. (2021). Lifileucel, a Tumor-Infiltrating Lymphocyte Therapy, in Metastatic Melanoma. Journal of Clinical Oncology, 39(24), 2656-2666.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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