全勝街道を走っていた挑戦者を一蹴したWBAライト級チャンピオン
18戦全勝12KOでWBAライト級2位にランクされた挑戦者、フランク・マーティンは”ゴースト”というニックネームで呼ばれていた。ボクシング・タウンとして名を馳せるミシガン州デトロイト生まれの29歳、6人きょうだいの末っ子だ。だが、当地でグローブをはめた訳ではない。
17歳までのマーティンは、レスリングを愛し、アメリカンフットボールのランニングバックとしても活躍する高校生だった。高校最終年次に一家でインディアナ州に引っ越し、ボクシングを始める。2015年のナショナルゴールデングローブ大会では、準決勝に進出した。サウスポーのマーティンは、4階級を制した名チャンプ故パーネル・ウィティカーを目標に汗を流し、翌年の同じ大会で優勝。そして、プロに転向する。実力を認められながら、“ゴースト”と名付けられるようになった。
WBAライト級チャンピオンのジャーボンテイ・“タンク”・デービスは、映画『ゴーストバスターズ』のテーマ曲で1万3249人が詰め掛けた満員のMGMグランドガーデン・アリーナに姿を現した。セコンド陣は、同映画にちなんだTシャツを纏っていた。
デービスがリングに上がるのは、ライアン・ガルシアを7ラウンドで葬った2023年4月22日以来だった。これほどのブランクを作ったのは、家庭内暴力の罪で自宅謹慎処分を受けたにもかかわらず、これに違反した結果、44日間の懲役刑を喰らったからだ。私生活の乱れに厳しい視線を送るジャーナリストが多く、なかなかパウンド・フォー・パウンドの上位に名前は挙がらないが、今日のボクシング界で、テレンス・クロフォードや井上尚弥と並ぶトップレベルの実力者であることは間違いない。
14カ月の空白を埋めようとしたのか、デービスは慎重な立ち上がりを見せた。高く、固いガードで、マーティンのジャブをブロックする。両拳を下げたのは、3ラウンドに入ってからだった。挑戦者にカウンターや連打をヒットされたシーンもあったが、マーティンの攻撃を躱す自信を示していた。
第8ラウンド、チャンピオンは左アッパー、左フックをぶち込み、負け知らずの挑戦者をキャンバスに沈める。同回1分29秒でKO勝ちし、自身の戦績を30戦全勝28KOとした。
試合後デービスは振り返った。
「2~3ラウンドのウォーミングアップが必要だったね。ヤツのフットワークは気にならなかったし、そのうち疲労することは分かっていた。だから、狙いやすいポジションに立ったんだ。ヤツを痛めつけたのはアッパーカットだ。ドーン!ってな。
俺は長い間この世界にいる。7歳からトレーニングをし、8歳から戦い続けてきた。生まれつき、ボクサーなんだよ。集中力を維持し、自分の精神が求める向上心と共に進んでいる」
ジャーボンテイ・“タンク”・デービスも井上尚弥と同じで、脅かす存在が見当たらない。全勝中だったマーティンも、歯が立たなかった。デービスはスーパーライト級でガルシアとの再戦を受け入れる構えだが、力の差は明白だ。
強過ぎてライバルに恵まれない”タンク”。スーパーフェザーから3階級を制覇中だが、この男もまた、対戦相手選びで苦労しそうだ。