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BOØWY、1986年に高崎で収録した映像作品『BOØWY VIDEO』へ込めた秘密!?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
BOØWY photo by UNIVERSAL MUSIC JAPAN

1986年7月2日、まだ音楽アーティストがビデオ作品を気軽に販売できなかった映像カルチャー黎明期。BOØWYは初のビデオ作品『BOØWY VIDEO』をリリースした(※2021年9月1日、BOØWY 40周年を記念してBlu-rayにて復刻)。

当時、1万円近い価格ながら販売はもちろん、ビデオショップによるレンタルや、ファンによるネットワークを通じての貸し借り、ダビングされた結果、インターネットなき時代にBOØWYは“映像ありきのクチコミ”によって全国でファンを増やし続けた。

そのひとつのきっかけが本作だ。

監督は、後のBOØWY映像作品でも知られる前嶋 輝(株式会社フィッツロイ代表取締役)。収録は、1986年5月1日に氷室京介(Vo)布袋寅泰(G,Cho)松井恒松(B)(※現在は松井常松)のお膝元、高崎市文化会館にて行われた。

ツアー中であったが本公演のみ、映像収録が主目的であったため、2台のクレーンと5台のカメラと花道、そしてライヴ・レコーディングのために様々な機材が準備され、コンセプチュアルなイメージ映像を楽曲の合間に挟み込むことでバンドのニュー・ウェーブかつニュー・ロマンティックス世界観を具現化した。

ステージ衣裳は、沢田研二などを手掛けたデザイナー早川タケジが担当。BOØWYのライヴを観てファンとなった早川は、限られた制作時間の中で当日に間に合わせたという。メンバーそれぞれのキャラクター性を活かしたデザインが興味深い。氷室が珍しく髪をおろしているのは、衣装に合わせてのアレンジだろう。

オープニング「PROLOGUE」は、ライヴ・アルバム『"GIGS" JUST A HERO TOUR 1986』のものとは異なり、歓声の入っていないヴァージョンが収録されている。のちに、2015年にスタートした会員制アーカイブ・サイト『BOØWY HUNT』が新宿で主催したファンミーティングでも公開された布袋寅泰作編曲によるレア音源だ。そして何といっても本作の見所はオープニング「BAD FEELING」での氷室京介のシルエットだろう。バンドの“らしさ”を解き放つ象徴的なシルエットは、BOØWYによる発明だと思う。

もっとも注目すべきは、ライヴパフォーマンスの完成度の高さだ。すでに、この時点で“BOØWYらしさ”は完成していた。当時25歳だった氷室京介による空間を支配するステージング、自由自在にサウンドを展開していくダンサブルな布袋寅泰の圧巻のプレイ、ビートを牽引する松井恒松と高橋まこと(Ds)による鉄壁のリズム隊の凄み。この映像に惚れ込み、楽器やバンドをはじめたバンドキッズは後を絶たない。

さらに、松井恒松が自身が作詞した「LIKE A CHILD」演奏時にシンセサイザーDX7を駆使してシンセベースを引いている様にも注目だ。口にピックをくわえ、キャッチーなフレーズをプレイしている。『BOØWY VIDEO』でしか観れないシーンだ。

監督の前嶋は語る「ツアーでのライブ映像収録だと客席が決まっているので、当時は機材も大きかったので撮影しづらかったんですよ。でも、高崎はライヴを撮影するための公演だったので、アングルにこだわってカメラを設置できました。花道を作ってもらったり、セットも細かくこだわったり、ちょっと通常のツアーとは違うんですよね。やっぱり、カメラをいろんな角度で置けるのがよかったんです。せっかくビデオのためのライヴだから、普段では撮れないアングルで撮影してみようってコンセプトだったと思いますね、たしか。」(※BOØWY HUNT『BOØWY STORY ARCHIVE』より)。

ステージセットにも着目したい。退廃的なSF映画『ブレードランナー』を彷彿とさせるディストピアな近未来的イメージ。25都市全37公演となったBOØWYを全国区に押し上げたツアー『JUST A HERO TOUR』でも同セットが全国を巡った。

なお、ライブ映像にインサートされるシングル「わがままジュリエット」のミュージックビデオで印象的な洋館は駒沢で撮影されたという。富士の樹海へとトラック走らせ、落ち葉や木々を拾って館内に敷きつめた。「ミス・ミステリー・レディ」、「JUST A HERO」にも、「わがままジュリエット」に登場する“Lady”が出演しているのも興味深い。洋館にて封印された書物を読むことで、稲妻が鳴り響き、少女が包帯巻きになるヴィジュアルなど、後のサブカルチャーに大きな影響を与えたフェチな演出が時代性をあらわしてる。

ここで、BOØWYがロックバンド史に名を残し、伝説たる所以となった1986年7月2日に行われた日本武道館ライヴ『JUST A HERO TOUR』について触れなければならない。氷室による「ライヴハウス武道館へようこそ!」のMCによって一般音楽ファンにも語り継がれる歴史的公演は、当時テレビ放送され、ファンに待望されているにも関わらずビデオやDVD、Blu-rayなど映像販売が未だ企画されていない。

バンドは、ツアー『JUST A HERO TOUR』を大切なライヴと捉えていたゆえに、ターニングポイントとなる日本武道館での公演日1986年7月2日に敢えて『BOØWY VIDEO』を全国発売したのだろう。未来永劫残る”1986年のBOØWY”を映像収録するにあたり、彼らは日本武道館の場ではなくルーツである高崎市文化会館を選んだのだ。ゆえに日本武道館公演を記録したライヴ盤『"GIGS" JUST A HERO TOUR 1986』をリリースしながらも、映像を世に残すことはなかった。

観ることができない記念碑的ライヴ映像があることは、生でライヴを体験できなかった後追いBOØWYファンにとって“幻想”を加速する大きなファクターとなった。ロックのビジネス化が進んだ90年代以降から顧みれば、このお宝映像をリリースしないことはレアな事象だ。

しかし、そこにBOØWYらしい矜持があるのだろう。

長年のファンはあらためて、そんな意図を考えつつ2021年9月1日にBlu-ray映像で再販された『BOØWY VIDEO』を、バンドが想いを込めた演奏でのワンシーン、ワンフレームへの意気込み、目線、表情、サウンドと共振するシンクロニシティーを感じて欲しい。これまでBOØWYのライヴ映像を観たことがなかった新規ファンは、これを機会にBlu-ray版『BOØWY VIDEO』を手に取ってコンセプチュアルな世界観を体験して欲しい。

1980年代、日本最高峰のロックバンドが最高のライヴを最高の作品としてコンセプチュアルに記録していたことを語り継いでいきたい。

Blu-ray BOX『BOØWY VIDEO』 photo by UNIVERSAL MUSIC JAPAN
Blu-ray BOX『BOØWY VIDEO』 photo by UNIVERSAL MUSIC JAPAN

BOØWY オフィシャルサイト

https://www.universal-music.co.jp/boowy/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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