クリスマスケーキの自腹購入の強要、どう対処すればいいの?
昨日から、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、「クリスマスケーキ」の販売ノルマやペナルティに関する相談が多数寄せられている。
「クリスマスケーキの販売ノルマを達成できなければ自腹で購入するように言われている」
「ケーキのノルマを達成できない場合、罰としてタダ働きでトイレ掃除をさせられる」
これらは昨日寄せられた相談だ。ケーキ屋やコンビニなどに勤める学生アルバイターからの相談が特に多い。
売れ残ったケーキの自腹購入の強要の被害は、今日ピークを迎えるだろう。また、年末年始には、おせち料理や年賀はがきの自腹購入の強要の被害が例年多発する。
そこで、以下では、不当なノルマや自腹購入強制の被害を少しでも減らすために、法的論点と対処法を考えていきたい。
法律はノルマを禁止しているか?
まず、法的論点を整理しよう。
ノルマとは広義には「仕事量の割り当て」という意味で使われる。法律は「仕事量の割り当て」を禁止していない。たとえば、「ケーキを三つ販売してください」と指示するのは合法である。ノルマを達成したら時給○○円アップなどインセンティブをつけることも特に問題はない。
だが、現実には、ノルマは何らかのペナルティを伴うことが多い。冒頭でも紹介したが、ノルマを達成できなければ、自腹購入やタダ働きを強要されるなどのケースがある。
ペナルティは違法か?
次に、ペナルティを四つの典型的なパターンがあるので、それぞれ法的な論点を整理しておこう。パターンとは、(1)商品の自腹購入、(2)罰金、(3)賃金カット・タダ働きの三つである。
(1)商品の自腹購入
法律は必ずしも自腹購入を全面的に禁止している訳ではない。従業員が自社商品を自らの意思で購入することは、妨げられていない。たしかに、コンビニの勤務後に、喉が渇いて、その店でジュースを買ったとしても何ら問題はないだろう。
一方で、自腹購入を「強要」することは、法に触れる。たとえば、上司が「買え」と命令するケースや、「買わないとクビ」「買わないとシフトを減らす」などと言われているケースは、自腹購入の「強要」にあたるだろう。こうした場合は、その発言を録音することが大事だ。証拠があれば、後から代金を返すよう要求することもできる。
自腹購入の「強要」にあたるのかどうか、グレーだと感じるケースもあるだろう。職場の上下関係を利用して、上司が「買ってほしい」「みんな買っているけど、君はどうする?」などと言ってくる場合が典型である。こうしたケースでは、その状況の音声をとりつつ、購入の要請には同意しないことが大事だ。それで上司が諦めれば解決するし、執拗に要請を続けてくれば、事実上「強要」になり違法とされる。
(2)罰金
「罰金」については、法律で厳しく規制されている。ノルマ未達成を理由に「罰金」を支払わせることは、大抵の場合、違法だと言える。「罰金」が合法とされるには、就業規則に定めがあり、それが「合理的」な内容である必要がある。だが、アルバイトにノルマを課して罰金までとることは「合理的」ではないので、基本的にすべて労働基準法違反である(刑事罰あり)。
(3)賃金カット・タダ働き
労働基準法では、賃金はその全額を支払う必要があると定められている。ノルマを達成できなかったからといって、働いた分の賃金をカットすることや、タダ働きを命じることは許されない。
また、「ノルマを達成できなければ、時給を引き下げる」と言われるケースもある。この場合は、それに同意しないことが重要である。同意さえしなければ、労働条件の変更(時給の引き下げ)は、法的にみて無効である。また、一方的に時給を下げられたとしても、それ自体が労働基準法違反にあたり、後から差額分を請求して取り戻すことも可能である。
どのような対処法があるのか?
ここまでは法律上の論点を整理してきた。だが、違法だとわかっていても、アルバイトが経営者を正すことは簡単ではない。そこで、違法行為への対処法を次に紹介しよう。対処法の基本は、専門機関への相談という形をとる。それぞれの相談機関の管轄や特徴を押さえることが大切だ。
労働基準監督署への申告
労働基準監督署は、労働基準法違反等の取り締まりや行政指導を行う機関だ。ペナルティの一部には労働基準法に違反するものもあるが、ノルマやペナルティの多くは、民事的な問題であり、労働基準監督署の管轄外となってしまう。残念ながら、労働基準監督署では自腹購入の強要には太刀打ちできないだろう。
労働審判の申し立て
近年労使紛争が増加していることをうけて、労働審判という労働事件専門の司法制度が作られている。通常の裁判に比べると、大幅に解決までの時間が短縮されている(制度の詳細は裁判所のHPを参照してほしい。)。
だが、それでも司法制度の利用のハードルは低いとは言えない。解決まで通常半年程度の時間を要し、弁護士を雇うコストも当然かかってくる。逆に、高額な商品を買わされた場合や継続的に自腹購入を強要される場合には、労働審判の申し立てを検討したらよいだろう。
ユニオン(労働組合)で会社と話し合い
ノルマや自腹購入の強要といった問題の改善を目指すならば、ユニオン(個人加盟の労働組合)に相談することが有効だ。ユニオンが会社に話し合い(団体交渉という)を申し込んだ場合、会社は応じなければならないとされている。だから、受けた被害が法律上グレーの場合でも、話し合いによって改善する道が開かれているのだ。
また、ユニオンに加入して会社と交渉する場合、職場や会社全体の改善を求めることができるというメリットもある。自分と同じ被害を受けている人が他にもいるならば、ユニオンでの交渉をお勧めしたい。
簡単にいえば、アルバイトの法律問題は、金額が少額であるためなかなか裁判や労働審判になじまない。また、今回問題になっているノルマに関しては、労基署も有効に動きにくい。
このことから、ユニオンでの団体交渉が最善の方法になるというわけだ。幸いにも、ここ数年で各地に学生アルバイトの団体が立ち上がっている。有名なところでは、大学生や大学院生が中心となって運営し、首都圏や仙台市などを拠点として活動している「ブラックバイトユニオン」がある(末尾の相談窓口情報を参照)。
解決事例
では、実際にユニオンではノルマ問題をどのように解決しているのだろうか。
以前に「クリスマスケーキの強制買い取りは違法?」という記事を書いたが、その後、多くの相談が寄せられ、実際に問題の解決に繋がっている。解決事例を紹介するので、ぜひ参考にしてほしい(個人の特定を防ぐために事例を一部加工している)。
首都圏在住の大学2年生のAさんは大手コンビニチェーンのアルバイトをしていた。12月初めに店長からクリスマスケーキの販売ノルマ(一人当たり三つ)を言い渡され、「未達成の分は買ってもらうことになるから」と言われた。
Aさんは、それはおかしいと思って、ブラックバイトユニオンに相談し、会社との話し合いの場(団体交渉)を持つことにした。Aさんは、ユニオンからアドバイスをうけ、ケーキの予約表に記載されていた「未達成の場合、買い取っていただきます」という文言をスマホで撮っていた。そのため、会社側も言い逃れできず、Aさんが買い取らされていたケーキの代金を返還するとともに、「今後商品買取りの強要を一切しない」ことに同意した。
今年は、ケーキの買取りの強要がなくなったので、楽しく働けているという。
クリスマス、お正月をたのしく迎えるために
解決事例からも分かるように、ノルマ問題を解決するために大事なことは、「証拠を残すこと」と、「専門機関への相談」に尽きる。
クリスマスから年末年始は、アルバイターにとっては、厳しい時期だ。クリスマスケーキを乗り越えても、その先におせち料理や年賀はがきが待っている。
だが、この記事を読んでくれた方には、ぜひ不当なノルマやペナルティに屈するのではなく、それらを改善させることで、良い年を迎えてほしいと思う。
すでに紹介した「ブラックバイトユニオン」の労働相談窓口は、クリスマスや年末年始も労働相談に対応している。ぜひ活用してほしい。
【クリスマスと年末年始にも対応している無料相談窓口】
いずれも年末年始は相談電話が混み合うことが予想されるので、繋がらない場合はメールで連絡をとるとよいだろう。
ブラックバイトユニオン
03-6804-7245
info@blackarbeit-union.com
http://blackarbeit-union.com/index.html
*ブラックバイト問題に対応している個人加盟ができる労働組合。
NPO法人POSSE
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
http://www.npoposse.jp/
その他の相談窓口
ブラック企業被害対策弁護団
03-3288-0112
ブラックバイト対策弁護団あいち
052-211-2236
札幌学生ユニオン
sapporo.gakusei.union@gmail.com
http://sapporo-gakusei-union.jimdo.com/
首都圏学生ユニオン
03-5359-5259