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日本人フィジコ池田誠剛インタビュー「日本・韓国・中国のサッカー比較」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国代表時代の池田誠剛コーチ(写真提供:FA Photos)

Jリーグの多くのチームでコーチやアドバイザーを歴任し、韓国代表コーチングスタッフとしてロンドン五輪やブラジル・ワールドカップにも挑んだ池田誠剛。現在は中国の杭州緑城でフィジカルコーチとして活躍する彼は、日本・韓国・中国の3カ国を知る数少ない日本人コーチでもある。

そんな彼に“日韓中サッカー比較”をテーマに3カ国の特長や違いについて聞いた。

―池田さんは日韓中3カ国を知る数少ないコーチだと思うのですが、日本や韓国や中国の選手の資質というか、それぞれの特徴を一言で表すとどんな感じでしょうか?

「まず、日本は環境に恵まれていますね。研究熱心な指導者が多いですし、最先端のトレーニングができる施設も情報も揃っている。チームメイトら周囲の意識も高いのでそれに刺激されて、“自分もやらなければいけない”と自然に思える。そうした環境の良さが、選手たちの自主性にも繋がっていると思います。Jリーグが始まったばかりの頃は右も左もわからない中で、お金は入ってくるし、メディアからもチヤホヤされて、スタジアムも満員になった。その雰囲気に飲まれ舞い上がってしまい自己管理が疎かになる選手もいましたが、そういう選手が消えていくことを間近で見てきたので、“プロとして自分はどうあるべきなのか”という意識も高まっていった。Jリーグが立ち上がったばかりの頃は外国人選手が刺激のひとつでしたが、今では日本人同士が互いに刺激あって互いを高め合っている。それも含めて、“日本は環境に恵まれている”と思います」

―日本サッカー界の環境の素晴らしさについては、ホン・ミョンボ監督も常々語っていますよね。「日本時代も感じたが、日本にはサッカーを体系的に発展成長させる基盤が整っている」と。では、池田さんの目から見た韓国の選手はどうですか?

(参考記事:日本を熟知するホン・ミョンボが見たニッポンとJリーグ)

「韓国の選手は日本とちょっと違っていて、幼い頃から“こうしなきゃダメだ”“これをやらなかったら代表選手にもプロにもなれない”という半ば強制的な指導の中で育ってきているんですよね。強制力が働く中で育つので自主性には欠けますが、“俺は絶対にこの道で一番になってやる”という強い信念がありますから、選手たちはどんなに辛い練習でも歯を食いしばれる。その一途さが韓国選手たちの“強さ”でもあります」

―日韓両国に互いに欠けている部分があるとすれば?

「日本は環境に恵まれている分だけ情報過多なところもあり、それがときとして選手を迷わせてしまうこともあるような気がします。ビジネスに踊らされてしまったり、情報に左右されてサッカーの本質や核心から逆に遠ざかってしまう難点があります。一方で韓国の場合は日本に比べると情報が少なく、サッカーに関して正しい知識や情報が選手たちにしっかり行き渡っていない印象もありますね」

―昨季Kリーグでプレーした高萩洋次郎選手が語った「日韓の違い」でも、日本の選手と韓国の選手ではサッカーに対する情報量で違いがあると思いました。それが韓国人選手の脆さにも繋がっているかな、とも。

(参考記事:日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「日本と韓国の違い」)

「韓国人選手の課題として私が感じるのは、目的がなくなったときに彼らがときおり見せる喪失感です。“この試合に勝たなきゃいけない”“ライバルとの戦いに勝たなかったら、自分にその先はないんだ”と叩き込まれて育つので、目標に対しては貪欲ですが、それがなくなったときは腑抜けのようになってしまう。また、厳しく細かく指示されることに慣れていて、それがないと持て余してしまうんですね。韓国時代、練習中によく“じゃあ、10分間はフリーで各自やるように”としても、選手たちは何をしていいかわからず戸惑ってしまうんですよ。そういう部分が課題でしょうね」

―では、中国の選手たちはどうでしょうか。日本や韓国の選手たちとの違いや共通点はありますか?

「例えば韓国の場合、組織としての規律やルールを重んじることがチーム作りのベースとなっており、その集団の中で選手は揉まれ育てられていく。組織のためなら自己犠牲も厭わない価値観があります。日本も韓国と似ていて、高校サッカー部などでは自己犠牲の精神が美徳で、それがチーム力を高めることに繋がるケースが多いと思います。まずはチームを意識して、その大前提がある上でいかに個性を発揮していくかということが日本や韓国の価値観だとすると、中国の場合ははじめから個なんですね。“自分を評価してもらいたい”“自分が成長していくためにはどうすべきか”ということが全面に出て、“チームメイトや周りの仲間のために自分は我慢しなきゃな”とか、“チームのために自分は何をすきべか”という価値観や発想が乏しい。ちょっと足りないというか、教育されていないんだと思います」

―それに関しては、ホン・ミョンボ監督に聞いた“中国サッカーの印象”でも指摘されていました。「中国の選手の意識改革に注力した」と。中国の選手は個人主義というか、自己中心的なところがあるということでしょうか。

「ひとりひとりは良いんです。素直だし、向上心もある。ただ、若い選手は特に自分中心という考え方が強いような気がします。一人っ子政策の影響で大事に育てられたせいなのか、他人の目もあまり気にしません。ただ、翻っていえば、彼らはとても自由奔放です。規律を守ろうが守らなかろうが、そんなに強く叱咤する指導者もいませんし、厳しく縛られるわけでもありませんから、発想も豊かなんですよ。指導する私が想像もしなかったようなプレーをする選手が、本当に多いですね。日本のようにセオリーに忠実だったり、韓国のように結果や指導者に縛られていないので、中国の選手たちは常識を超える自由さを感じさせます」

―中国の選手が自由奔放で発想が豊かというのは少々意外でした。一般的にサッカーは技術、戦術、体力と言われたりしますが、3カ国をざっくりと表現するならどうでしょう?

「ざっくりですけど思うのは、戦術の日本、フィジカルの韓国、テクニックの中国でしょうか」

―中国はテクニック、ですか。

「ええ。選手たちは総じて器用ですし、日本や韓国のようにある一定のカリキュラムの“枠の中”にはめられて指導を受けてきたわけでもないので、伸びしろもある。ポテンシャルはかなり高いと感じます。ただ、サッカーに取り組む姿勢において、厳しいことを避けたり、今ひとつ限界まで挑戦しないところがあるというか…。それが今の中国の選手のジレンマではなでしょうか。ホン・ミョンボ監督や私が、中国人選手たちを叱咤激励するポイントもそこにあります。“もっと限界に挑戦しよう”、“もっと上を目指そう”と」

―ホン・ミョンボ監督も池田コーチも多くの選手たちを指導してきましたが、中国人選手たちを指導する中でひとつの成功例として挙げる選手はいるのでしょうか?

「例えば中村俊輔選手のことは、中国の若い選手たちによく話します。彼は人一倍ボールに触り蹴っていましたし、自分の弱点を克服するとともに、ストロングポイントにさらなる磨きをかけていました。そういう姿勢を君たちも見習わなければならない、と。中澤佑二選手のことも話しますね。彼の不屈の魂というか、無名だった高校時代のころからブラジルに単身渡って挑戦し、現在もバリバリ頑張っている、と」

―そんなエピソードを聞いて中国の若い選手たちはどんな反応を?

「中国の選手たちも彼らのことは知っていますから、“成功までにはそういうプロセスがあったんだ”という感じですね。ただ、他人事のような受け止め方で、中国人選手には実感がわかないんですよ。“俺たちも彼らのようになってみよう”という野心のようなものが、なかなか出てこない。それはやはり、成功体験者がまだ身近にいないせいだと思うんです。ただ、中国から優秀な選手が出てくるのは時間の問題で、若い選手の目標になりうるアイコンが出てくれば、それが中国の若い選手たちの刺激になって、彼らの意識レベルを高めてくれるはずです。日本が中田英寿選手、韓国がパク・チソン選手などの成功に刺激されたようにね」(つづく)

(参考記事:あの朴智星(パク・チソン)は今、どこで何をしているのか)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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