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生活習慣の改善で「がん」予防できるかも〜英国研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
喫煙で肺がんになった肺:オーストラリアのタバコパッケージ(写真:ロイター/アフロ)

 がんは依然として我々の人生や健康を脅かす最大の病気だ。人類はがんとの戦いを少しずつ優位に進めつつあるが、がんの治療や根治が難しい場合も少なくない。がんにかかりにくい予防策があればそれに越したことはないが、英国での最新研究によれば生活習慣の改善に大きな効果があることがわかった。

がんの発生率が漸増した英国

 がんで亡くなった人は1年間に37万2986人だ(2016年、日本)。全体の死亡率でもがんはダントツのトップで、1981年からずっと悪名高きトップをキープし続けている。

 世界的にみると心血管疾患が死因のトップだが、高齢化が進む先進国では依然としてがんは大きな脅威となっている。がんを引き起こす原因は様々だ。加齢や遺伝的要因など、どうしても避けられないものもあるが、予防できる可能性の高い原因も多い。

 英国ではこの10年間、すべてのがんを合わせた発生率(年齢調整後)が7%(男性3%、女性8%)増えている。今後の20年間で発生率は7%から2%増へ減ると予想されているが、これは1970年代から続く喫煙率の減少によるものだ。

 喫煙は多くのがんの原因になるが、喫煙率が下がれば肺がんの死亡率や発生率が下がることは日本でもわかっている。タバコを吸う人が減ることでがんの発生率が減ったということは、飲酒や運動不足、過度な日焼け、偏食といったほかの生活習慣の改善によっても同じような効果が期待できるかもしれない。

 英国がん研究基金(Cancer Research UK)の研究グループは、がんの原因となる英国人の生活習慣を評価した最新の研究結果を英国の科学雑誌『nature』系「British Journal of Cancer」オンライン版(※1)に出した。

 これは、2015年の英国(イングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランド)のがんの発生率と特定のリスク要因をもとにし、そのリスクがなかったならどのくらいの人ががんにならずにすんだのかという尺度(※2)で評価した研究だ。尺度の評価は、年齢・性別、それぞれのリスク要因の寄与度によって層別化され、その後、がんの種類や性別、地域によって再度、評価し直された。

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がんの多くは喫煙によって引き起こされるリスクが高い。呼吸器系だけではなく、脳や肝臓、腎臓、膵臓、消化器官、子宮や卵巣、骨髄などのがんにも関係する。円の大きさはリスクの大小。英国では喫煙要因のがんが1年間に5万4300例発生している。Via:英国がん研究基金のHPより

 その結果、英国の場合、発生したがんの1/4(37.7%)が、特定の原因による可能性が高いことがわかったという。タバコを止める、過度の飲酒をしない、適度な体重をキープするなど、生活習慣を変えることで13万5000例以上のがんの発生が予防できる可能性が示唆された。この数字は、4/10程度のがんイベントを抑制することと同じで、タバコを止めることだけでも1週間に2500例以上のがんを予防できるという。

英国では喫煙の次に肥満

 英国では1年間に約1%ずつ喫煙率が下がっているが、その一方で肥満のリスクが上昇しつつある。がん発生数全体に占めるメタボと肥満による割合は6.3%だ。英国の場合、過体重や肥満要因のがんは1年で約2万2800例発生する。研究グループは、喫煙と肥満以外にも、運動、食生活と食べ物、アスベストや紫外線など仕事に関係するリスク、大気汚染、放射線などの複数の要因があると指摘する。

 わずかに男女差や地域差があり、例えば男女で発生率がことなったり(男性38.6%、女性36.8%)、スコットランドでは職業要因が、イングランドでは紫外線の要因が高く、逆にイングランドでは職業要因が低い。またウエールズでは紫外線の要因が低かった。研究グループは、こうした違いについて、社会経済的な背景や生活習慣が影響しているのではないかと推測している。

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各リスクの高さを比べた(悪性黒色腫メラノーマではない皮膚がんを除く)。単位はPAF(%、人口寄与危険割合)で、その要因がなかったならどれくらいがんの発生が減少したかという割合。英国人には紫外線による皮膚がんが多い。職業要因は、アスベストを吸い込んだり、炭鉱で粉じんを吸い込んだりするようなこと。感染症は、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヘリコバクター・ピロリ、肝炎ウイルスなど。8位以下は加工肉、大気汚染など。Via:Katrina F. Brown, et al., "The fraction of cancer attributable to modifiable risk factors in England, Wales, Scotland, Northern Ireland, and the United Kingdom in 2015." BJC, 2018より筆者が引用改編してグラフ化した

 これは英国人の大集団についての研究であり、個々人の事例について述べているわけではない。タバコを吸ったからと言って必ずがんを発症するわけでもないし、吸わなかったからといってがんに罹らないわけでもない。また、この研究はそれぞれ単独のリスク要因についてで、例えば喫煙と飲酒による食道がんや喫煙とHPVによる子宮頸がんのリスクというような複合要因はカウントしていない。

 だが、喫煙、過体重や肥満のままの偏った食生活、過度の紫外線、多い飲酒量という、それぞれの生活習慣のある人の場合、がんに罹るリスクが上がることが確率的に明らかになったということだ。逆に言えば、タバコを止めて適正な運動をして体重の増減に気をつけ、紫外線を浴び過ぎず、飲酒はほどほどに、ということに気をつければ、がんに罹るリスクを下げる可能性が高い。

 この研究は英国人のがんの発生に関する例で、日本人にそのまま当てはまるかどうかはわからない。

 例えば、日本人の高齢者の場合、過体重や肥満よりむしろ痩せ過ぎに注意すべきだし、がん以外のほかの病気でもリスクは高くなるだろう。また、喫煙状況も日本では加熱式タバコの使用が増えているが、英国ではニコチンを添加した電子タバコが流行している。

 日本に限らず先進国では喫煙率が下がってきていて、それにつれて喫煙要因のがんの発生率も下がってきている。この研究グループは、タバコ対策が奏功しているのではないかと評価するが、がんの発生とのタイムラグは20〜30年とも言われる。喫煙は1日1本でも心血管疾患のリスク要因となるが、少ない量でも長い時間、吸い続ければいつかその悪影響が出てくる可能性は高い。

※1:Katrina F. Brown, et al., "The fraction of cancer attributable to modifiable risk factors in England, Wales, Scotland, Northern Ireland, and the United Kingdom in 2015." BJC, doi:10.1038/s41416-018-0029-6, 2018

※2:Population attributable fractions(PAF):人口寄与危険割合:もし特定のリスク要因への曝露がなかったとすると、疾病の発生(または疾病による死亡)が何パーセント減少することになったかを表わす数値:例えば、タバコを吸う人と吸わない人に分け、それぞれの疾病の発生率の差(人口寄与危険度)を集団全体の発生率で割ったもの

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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