名護市感染者数、市HPのグラフで減少?、渡具知市長が問われる「市民への適切な情報提供」
オミクロン株による新型コロナの急速な感染拡大が、社会の最大の関心事となる中で、地方自治体のコンプライアンス(地域社会・住民の要請に応えること)として極めて重要なことの一つが、住民に、居住地域の感染状況を、正確に迅速に情報提供することである。感染が拡大しているのか収束しつつあるのか、感染者数が、他の地域と比較してどの程度のレベルなのかについての情報が的確に提供されることは、その地域の感染の深刻さを踏まえ、個人の行動をどこまで自制するかを考えたり、事業の見通しを立てたりする上でも不可欠である。
感染者数とその推移、他地域との比較等は、新聞・テレビ等では都道府県単位で示されることが多いので、それ以上にきめ細かな情報は、市町村の公式ウェブサイト等による公表資料によって情報を得ることになる。
オミクロン株による新型コロナ感染者が、全国に先駆けて急増し、蔓延等防止措置が講じられている沖縄県の中でも、特に感染拡大が深刻なのが名護市である。しかし、そのウェブサイトの記載が極めて不適切で、感染者数の推移やそのレベルについて市民に誤った認識を与えかねない内容となっている。
名護市のウェブサイトには、「【まとめページ】新型コロナウイルス感染症について」という特設ページがある。
そこで、「名護市における新規感染者の推移」として、1週間ごとの新規感染者数の推移がグラフで示されている。
このグラフの最新の部分を見ると、1月1~7日 337人、1月8~14日 297人と、若干だが感染者が減少しているように見える。
しかし、よく見ると、1月1~7日は7日間の合計であるのに対して、1月8~14日は8~10日の3日間の合計で、11~14日のデータが含まれていない(グラフには「令和4年1月11日現在」と記載されている)。
サイト内の記述で、13日の新規感染者は85人と書かれているが、11日と12日の感染者数は、名護市のウェブサイト上にはどこにも数字の記載がない。しかし、その上にある「名護市新型コロナウイルス感染症陽性者(1月13日現在)」のPDFファイルの中の新規感染者の表に、各感染者の感染確定日が書かれているので、それを合計すると、11日の新規感染者は97人、12日の新規感染者は146人だとわかる。
現時点では14日の新規感染者は公表されていないようであり、「直近7日間」となる7~13日の感染者合計は、7日の140人を加えて765人になる。
この7日間の感染者765人を名護市の人口6万4021人で割って10万人をかけると、「7日間の10万人あたりの新規感染者数」は、「1194人」という驚くべき数字となる。
都道府県で見ると、最高の沖縄県が681人、2番目が広島県で174人、3番目の大阪府が112人だ。(NHK特設サイト新型コロナウイルス【直近1週間の人口10万人あたりの感染者数】)それらと比較しても、名護市の1194人というのが、いかに突出して深刻な感染状況かがわかる。
名護市長としては、市民に、この最新の数字を知らせ、名護市が感染大爆発の状況にあることの認識と危機感を持ってもらい、不急不要の外出や会食等の自制を強く求めるべきだろう。
しかし、渡具知武豊市長の言動を見ると、極めて深刻な感染状況を名護市民に伝えようとする姿勢が見受けられない。
1月12日の【「緊急記者会見」】でも、名護市の感染が特に深刻であることやその具体的な状況には全く触れず、「沖縄県本島北部地域で感染者が急増している。特に年末年始の会食や人流等が原因と考えられている中、若年層の感染が急増している状況にある」という程度のことしか言っていない。
米軍基地内でクラスターが発生していることは、昨年12月中旬には明らかになっていた。基地関係者がマスクも付けずに基地外でパーティーを行ったりしていることも報じられていた(【「ことさらに沖縄を恐れないでほしい」「外交ルートからもアメリカ政府に訴えを」在日米軍基地内の感染急増に県参与の高山医師】)。米軍基地内での感染がオミクロン株である可能性が高く、そのような感染の恐れのある基地関係者が野放図な外出を繰り返していることは、米軍基地を抱える名護市の市長として認識していたはずであり、それを放置すれば、基地外での感染拡大につながることは当然に予想できたはずだ。「年末年始の会食や人流の増加が感染拡大の原因」だと言うのであれば、「米軍基地内から感染が基地外に拡大する恐れがあるので、年末年始も外出や会食を控えてほしい」と、なぜ市民に警鐘を鳴らさなかったのだろうか。
このような渡具知市長の言動に加え、感染状況を正確に市民に知らせるために開設されているはずの名護市の特設サイトでの感染者数の推移のグラフが、実際には直近7日間の新規感染者数が765人に上っているのに、一見すると300人弱になっていて前週より若干減少しているようになっているのである。しかも、1月13日の感染者は85人とウェブサイトにも記載されているが、それ以前の11日、12日の感染者数が表示されておらず、直近1週間の感染者がすぐには把握できないようになっている。
グラフについては、1月11日までの数字を反映したまま、その後更新が行われていないだけということかもしれない。しかし、「7日間の合計」のグラフの数字が、週の半ばまでの3日間合計の数字のまま週末に至るまで放置されていることの説明にはならない。全国の都道府県の中で突出して高い沖縄県の2倍近くもの驚くべき数字に上っているのに、名護市の特設サイトを見た市民は、「名護市の感染者は、先週急激に増加したが直近では減少傾向にある」と誤解しかねないのである。
名護市の感染状況が沖縄県内でも特に深刻であることが市民に認識されると、米軍基地が感染の原因になったとの推測が強まり、基地を容認する姿勢の渡具知氏への支持の低下につながる。渡具知市長が、再選に向けて立候補を表明している名護市長選挙(16日告示、23日投開票)に影響することを懸念して、感染の深刻さを表す数字を市民に知らせないようにしているのではないか、担当の市職員が市長の意向を忖度して、そういうウェブサイトの内容を放置しているのではないか、と疑われても致し方ないであろう。
前記のように、名護市は全国でも突出して厳しい感染状況にある。再選に向けての市長選の最中であっても、市長としての職務に最善を尽くすのが当然である。感染状況とその推移を正確かつ迅速に市民に伝えるという基本的な義務を決して疎かにしてはならない。
特設ページの冒頭には、次のような市民への注意が記載されている。
書かれていることは、極めて当然のことである。しかし、「市などの公的機関の情報確認に基づき冷静な対応」を呼びかけるのであれば、市自らが、正確な情報を、わかりやすく迅速に提供することが大前提である。渡具知市長に、その「当然のこと」を呼びかける資格があるのだろうか。