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逆転レアル、大敗ローマ。 CL2試合にみる「サッカーは布陣で決まる」

杉山茂樹スポーツライター
アンフィールドに駆けつけたリバプールサポーター(写真:ロイター/アフロ)

 チャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1戦、バイエルン・ミュンヘン対レアル・マドリード。

 ルーカス・バスケス(右ウイング)の折り返しを、ゴール正面で構えるクリスティアーノ・ロナウドがヘディングシュートに及んだのは、0-0で迎えた前半28分の出来事だった。

 シュートは決まらず、ボールは左サイドのゴールライン付近を転々とする。レアルの左SB、マルセロが追いかけたもののボールはラインを割り、プレーはバイエルンのゴールキックで再開された。

 レアル・マドリードが先制点を許したのはその直後だった。ヨシュア・キミッヒ(右SB)は、タッチライン際に開いて構えるトーマス・ミュラー(4-3-3の右インサイドハーフ)にボールを預けると、右サイド前方に進出。一方、ミュラーに渡ったボールは、ハメス・ロドリゲス(左インサイドハーフ)を経由して、トップスピードで走るキミッヒの鼻先に、リターンパスとなって送られた。スコアラーはキミッヒ。右からそのまま持ち込みゴールネットを揺らした。

 レアル・マドリードが先制点を許した原因は、ピッチに克明に描かれていた。レアルの左サイドは瞬間、まるで守備の態勢が取れていなかった。

 マルセロは、ボールを追いかけてしまったために、”死んだ状態”にあった。もう1人のサイドアタッカーで、4-3-3の左ウイングとして先発したイスコは、そのとき、真ん中よりむしろ右側にいた。右サイドで展開されていたボールに吸い寄せられるかのように、もらいたがる動きを見せていたのだ。

 この大一番、注目はレアル・マドリードのスタメンと布陣だった。マルコ・アセンシオではなくイスコを起用すれば、4-3-3は事実上、4-3-3にならない。各所に歪みが出ることは、準々決勝の対ユベントス戦を含め、レアル・マドリード最大の弱点だとこれまでも述べてきたが、この試合でも、それは見事なまでに露呈した。

 イスコは本来、キミッヒの対面で構えているべき選手だ。この日も試合開始してしばらくは左を維持し、キミッヒの攻撃参加を抑止する役割も、同時にこなしていた。ただ、当初はポジションに従順だったが、ゲームメーカータイプの中盤選手は、ボールが回ってこなくなると、概して居心地が悪くなるものだ。

 イスコはその典型的なタイプ。4-3-「3」の「3」の左に適性がないことは誰の目にも明らかなはずだが、ジネディーヌ・ジダン監督は、またしても彼を先発で起用し、そして失敗した。

 だが、その流れは、前半で終わった。その理由のひとつは、前半終了間際、マルセロの左足シュートが決まったことだ。劣勢の中、ゴールが決まりそうもないムードの中で生まれた脈絡のない得点。しかもアウェーゴールである。

 そしてもうひとつは、左ウイングとして後半のピッチに立ったのがイスコではなく、マルコ・アセンシオだったことだ。この采配で、レアル・マドリードの左右のバランスはすっかり整うことになった。

 逆にバイエルンは乱れた。前半に右ウイング、アリエン・ロッベンをケガで失い、そして後半、同サイドにマルコ・アセンシオを投入されると、バイエルンは右サイド(=レアル・マドリードの左サイド)で、顕著な劣勢に陥った。その攻撃は必然的に左に偏ることになった。

 アウェーゴールを奪われ、攻めなければならない強迫観念が焦りとなって現れるのは、当然の帰結だった。後半57分に浴びたカウンターによる逆転弾は、バイエルンの左SBラフィーニャのパスミスに端を発していた。

 アシストはルーカス・バスケス。得点者はマルコ・アセンシオ。両ウイングで奪ったゴールだった。イスコがピッチにいたら、このゴールは生まれていただろうか。カウンターの主役になっていただろうか。イスコの交代はケガという報道もあるが、それは次戦に向けてのカモフラージュだろう。

 来週、サンティアゴ・ベルナベウで行なわれる第2戦の見どころでもある。イスコは先発を飾るのか否か。

 サッカーは布陣でするものではない。その昔、布陣の話をするとそう反論されたものだが、それでも懲りずに布陣話をするのは、そう言いたくなる試合に幾度となく遭遇したからだ。

 90年代の後半。守備的サッカーが勢いを失い、攻撃的サッカーが台頭し始めた頃のことだ。前者を代表する3-4-1-2と後者を代表する4-2-3-1あるいは4-3-3(当時まだ数は少なかったが)が対戦したとき、試合を有利に進める割合が高かったのは、断然、後者だった。

 攻撃的か守備的かというより、効率的か非効率的かの方が、論点として相応しく感じた。守備的サッカーは非効率性を露わにした結果、衰退した。攻撃的サッカーは効率性を誇示した結果、興隆した。

 CL準決勝のもう1試合、ローマ対リバプールは、当時を彷彿させるような、まさにサッカーは布陣でするものだと言いたくなるような一戦だった。

 本来の姿は、お互い攻撃的だ。4-3-3を採用しながら攻撃的とは言いにくいサッカーを展開したのは、身近なところではハリルジャパンに限られるが、それはさておき、ローマはその4-3-3を、バルセロナと戦った準々決勝第2戦に続き、いじってきた。

 バルセロナ戦は3-4-3。UEFAが提供するアクチュアルフォーメーションに従えば、中盤フラット型か、ダイヤモンド型かは微妙なところだが、3トップを真ん中(エディン・ジェコ)と左右(ラジャ・ナインゴラン、パトリック・シック)両サイドに置く、3バックであることは確かだった。

 攻撃的サッカーの元祖で4-3-3を布くバルサに対し、それ以上に攻撃的と言いたくなる布陣で臨んだ。そして3点差をひっくり返す、まさかの大逆転劇を収めた。チャレンジャー精神の賜(たまもの)だった。

 だが、準決勝のリバプールは同格の相手だ。しかもこれに勝てば決勝だ。リバプールとローマ。色気を出すのはどちらか。受けて立ってしまうのはどちらか。注目はそこだった。

 ローマは立ち上がりこそ攻勢だったが、次第にペースをリバプールに奪われる。布陣をいじった影響が、時間の経過とともに鮮明になった。

 布陣は今回も3バックだった。しかし前回の3-4-3とは真逆に位置する3バックで、4分割表記で表せば、3-4-1-2となる。前3人の並びは2トップ(ジェコ、ジェンキズ・ウンデル)と、2トップ下(ナインゴラン)の関係に大きく変化していた。

 4-3-3(リバプール)対3-4-1-2(ローマ)は、まさに「攻撃的」対「守備的」の戦いであり、案の定、それは「効率的」対「非効率的」に変化していった。ローマのエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督は、90年代後半にイタリアサッカーが衰退し始めた頃のサッカーを、この大一番で披露してしまったのだ。

 結果は見えたも同然だった。ひと言でいえば、ローマは両サイドで1対2の数的不利に陥る、5バックになりやすいサッカーだ。しかし、両ウイングバック(左アレクサンダル・コラロフ、右アレッサンドロ・フロレンツィ)は、それでも頑張って前に出ようとする。するとその背後が空く。自慢の3トップを擁するリバプールは、そこをしきりに突いた。

 3-4-1-2は4-3-3に弱い。ピッチには、まさに公式通りの姿が描かれた。前半を終了してスコアは3-0。しかも、ディ・フランチェスコは、後半が始まっても、布陣を従来のやり方に戻さなかった。スコアはぐんぐん開いていき、後半24分には5-0となった。決着はついたものと思われた。

 しかし、サッカーは布陣でするものだ。終盤、ローマはようやく布陣を変えた。3-4-1-2から4-3-3へ。すると、流れは面白いようにローマに傾いた。後半36分、40分と立て続けにゴールを奪い、スコアは5-2で第1戦を終えた。

 来週のホーム戦で、3-0あるいは4-1なら逆転だ。可能性がないわけではない。しかし、せめて2点差以内に収めたかった。ディ・フランチェスコが布陣選択の間違いに、もう少し早く気づいていれば――、ジダンのように後半頭から変えていたなら――と言いたくなる。これは采配ミスが招いた大敗だ。

 その第2戦。目を凝らすべきはローマの布陣だ。準々決勝対バルサ戦に続く2匹目のドジョウがいるかどうかはそれ次第。バルサ戦を上回る超攻撃的サッカーで臨まない限り、大逆転劇は発生しないだろう。

(集英社 webSportiva 4月26日掲載に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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