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「覚せい剤依存症は病気。必要なのは治療です」 親・本人叩きが無意味な理由

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
警察車両(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

 またかという思いだ。9月11日、有名女優の息子が覚せい剤取締法違反(使用)容疑で警視庁に逮捕されたと各メディアが報じた。

 またか、というのは彼の逮捕ではなく、インターネット上で起きる「親の責任」「(息子は)家族に迷惑をかけるな」「本人は反省しろ」という声に対してだ。あらためて専門家の見解を伝えておきたい。

 薬物依存症は病気である。それも治らない慢性的な疾患だ。しかし、適切な治療を受ければ、回復はできる。

厳しい刑罰で治療が進む?そんなエビデンスはない

 以前、私は清原和博被告が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されたとき、薬物依存症治療の第一人者である精神科医の松本俊彦さん=国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長=に話を聞いたことがある

 松本さんの話で特に驚いたのは「覚せい剤などの薬物依存症は病気だということです。治らない慢性疾患の病気です。薬物に手を出す前の状態に完全に戻ることができるかというと、できません」という発言だった。

 薬物依存症は病気であり、本人にいくら反省を促しても治るものではない。反省すれば治ります、という病気はないからだ。では、厳しい刑罰を与えれるというのはどうか。残念ながら、厳しい刑罰を課したからといって治療が進むというエビデンスは存在しない。

 意志が強さも弱さも関係ない。「意志が強ければやめられる」説は依存症治療の現実を知らない人たちの想像に基づく見解にすぎない。一度、薬物の快感を知ってしまった脳はそれを簡単には忘れない。

治療を始めても7〜8回再発の機会がある

 我慢を促すくらいなら、自分が薬物をほしがっていると素直に自覚したほうがいい。自分に嘘をつかないこと。治療はそこから始まる。

 松本さんはもう一つのエビデンスを教えてくれた。

 仮に治療プログラムを受けたとしても、彼らが安定した断薬生活を送るには、だいたい7〜8回の再発機会があるというデータがあります。

 クスリが欲しくてしょうがない、あるいは使ってしまう機会が平均して7〜8回はあるということです。安定と、再発するかもしれない時期の波を繰り返しながら、だんだんと落ち着きを取り戻すのです。

 治療につながったとしても、すぐには解決しない。治療には長い時間がかかる。「親の責任」「迷惑をかけるな」だとバッシングしたところで、本人が抱えている根深い問題は解決はしないことがわかるだろう。

 興味本位でなく彼に立ち直ってほしいと思うなら、問うべきは適切な治療につながっているか。つながっていないとするなら、それはなぜか。どういう選択肢があるのかを示すことにあるだろう。

 最後に厚労省がまとめている依存症の相談機関や自助グループ情報へのリンクをはっておく。

 もう一度、繰り返しておこう。薬物依存症は病気である。それも治らない慢性的な疾患だ。しかし、適切な治療を受ければ、回復はできる。

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

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