東京パラリンピックのレガシーはどこへ? ”多様性”の現在地
エンターテインメントの力
インターネット上でも大きな話題になったこびとプロレス復活、そして東京パラリンピックの開会式など2021年は障害を持った表現者たちが多くの話題を振り撒いた年だった。気づく人は気づく。
彼らの多くは、「障害を上質の見せ物にする」日本の芸能界のなかでいち早く多様性を掲げて活動を始めてきた東ちづるが理事長を勤める一般社団法人「Get in touch」(以下、Get)でも活動をともにしてきた。芸能界の多様性は進んでいくのか、はたまた一夏の祭典で終わってしまうのか。
今夏、印象的なパフォーマンスを披露した表現者も多く出演する「月夜のからくりハウス」の上演が11月17日に迫っている中、稽古中の東さんを訪ねた。
「月夜のからくりハウス」は演劇を軸に「こびとプロレス」あり、車椅子ダンサーによるダンスあり、音楽ありの一大エンターテインメントショーである。2017年に第一回目の上演がはじまった。以降、神田明神などで興行を重ね、6000円〜7000円代という価格設定にもかかわらずチケットは即日完売と結果を重ねてきた。
あいさつがわりの話題は終わったばかりの衆院選に。小栗旬、橋本環奈といった多くの俳優が参加し、投票を呼びかけたユーチューブ動画が注目を集めた。
「画期的でしたよね。日本でもこうした動きが出てきたのはとてもいいことです。私は素晴らしいと思った」
社会は確実に変わった
芸能人が社会的な発言をするのはやめたほうがいいーー
そう言われた時代を知るパイオニアによれば、この10年間は、日本でも大きな進展があった10年だった。
「たとえば、今でこそ当たり前のように広がっている【LGBTQ】や【SDGs】といった言葉も、私たちが知って、使い始めたときは協賛してくれた企業の方たちも『すいません、なんですか。それは?』ってところからだったんです。それが、今やテレビCMで流れたり、番組もできたりしていますよね。社会は確実に多様性を受け入れています」
その象徴的なできごとが東京パラリンピックだったとも言える。東は東京オリンピック・パラリンピックの大会公式文化プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の文化パート「MAZEKOZEアイランドツアー」の総合演出・構成・総指揮、さらにキャスティングまで手掛けた。映像の感想も公開されたが、ネガティブなものはほとんどなく、障害を持ったパフォーマーをはじめて見たことへの驚きや、賞賛が集まった。
2017年、「月夜のからくりハウス」の初演を控えていたときには、やんわりと「障害を見せ物にしてもいいのか」「やりすぎではないか」といった声も届いていた。だが、たった4年で社会は変わった。
「これがエンターテインメントの力です。優れた表現は多くの人に伝わり、伝わったらもう後戻りはできなくなる。もっともっと知りたくなるし、観たくなる」
コロナ禍で生まれた新たな危機
しかし、もうひとつ変わってしまったこともある。新型コロナ禍は確実にエンターテインメントの世界にも打撃を与えている。有名どころであっても劇場が埋まらない、かつてなら即完売した舞台もチケットが余っているという話は方々から聞こえてくる。人々の行動は確実に変わってしまった。ライブから配信へ。
「ライブでみたいという人が減っているのは事実ですね。私たちのチケットもいつもなら完売になるんです。当日券も用意することはありませんでした。ですが、今回は事情が変わってしまいましたね」
エンターテインメントの驚きはライブでこそ伝わる。せっかく、パラリンピックで彼らの存在を知った人たちも、継続的に表現の場が用意できていなければ見にいくことすら叶わない。そして、場ができていてもビジネスとして成立しなければどんどん縮小していく。早速、壁にぶつかっている?と聞くと彼女はそれは違うと言った。
「やっぱりちょっとずつ変わって、前に進んでいるのは事実だからそっちを大切にしたい。できるところまでやる。そうしないと場は作れないから」
前向きな変化は続けていくために、彼らは走り続ける道を選んでいる。